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イミツブシ  作者: 海乃しゃけ丸
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騒がしい

機械音痴すぎて使い方がよくわからん…


とあるオフィス内。

そこで聞こえた騒音で目が覚める。


「おいコラテメェぇ!それは俺のプリンだろうガァ!!」

「名前書いて無かったし誰でも食っていいって事だろ?じゃあ俺のでもいいじゃんか〜」

「ふざけんナァ!俺がどんな思いでようやくそれを買えたと思ってんダッ!」

「…………っるさ…」


机から頭を上げて眼鏡をかける。

ボーッとする頭で目の前に広がる惨状を眺め、頭が起きる。


「……何してんの?」

「あ、ユラ起きた」


プリンを食べながら逃げ回る緑の髪色をした青年。背丈はユラよりも高く、少し筋肉質な身体。彼の名は神崎ルア。


「いやー、葡愚が俺のためにプリン買ってきてくれてさぁー」

「ふざけんなヨォ………」


ルアの説明に後ろで泣く黒い布を頭にかぶり、顔の部分には大きな一つ目のゴーグルをした男、葡愚。

彼らは現在相棒関係ではあるが、事あるごとに揉め事を起こす。その仲介としていつもユラが入ることがあり、手を焼いている。


「はぁ……そんな事で一々騒ぐなよ…」

「また遅くまで仕事してたのか?」

「……昨日処理した忌み者の報告書。対処したのか僕一人だから報告書全部一人で作らないとなんだよ………あと少しでも遅れると煩い…」


よく見るとユラの目の下には薄らと隈が目立つ。

ユラは普段から仕事に追われており、睡眠時間が少ない。まともに寝れても大体2、3時間程度。一日の仕事時間はその4、5倍で疲れもなかなか取れない。


「ふーん、大変なんだな」

「これ以外に君の分も書かなくちゃいけないからもっと大変なんだよ」

「さぁーて、俺パトロール行ってくるわ」


それに加えてこのお調子者ルアの世話……仕事の補助もしなければならない。

ルアは報告書を一向に書かず、一度問題になりアカネに怒られたことがある。アカネに嫌われるのを恐れたルアは報告書はユラが書くとデタラメを言い、何故かそれを本当にやる羽目になったのだ。その結果、ユラの仕事が増える一方。


「僕ちょっとコーヒー買ってくる…」

「あ、じゃあ俺コーラ」

「俺天然水デ」


当たり前の様にパシリとして駆り出されるのに苛立ち、とりあえず二人を睨んでおいた。

こう言う時のこの二人組は阿吽の呼吸で息が合うから腹が立つ。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



暗い広々とした一室。

中に置かれた無数の自販機の光が辺りを薄く照らす。

その中から目当ての物を見つけ手に持った小銭を入れる。

ピピピッと起動音が鳴り、ボタンを押す。

ガタンッと取り出し口から缶コーヒーが落ちてくる。

特に美味しくも不味くも無い。

ただ眠気覚ましになるからと言った理由で飲み続けてきた結果、コレを飲まないとやる気までも出なくなってしまった。

蓋を開けて口にコーヒーを流し込む。

相変わらず、美味しくも不味くも無い。

ふと手に持っていた資料を目に通した。

最近起きている行方不明事件。

7人の子供が行方不明、捜査開始からもう一週間が経っている。

恐らく忌み者の仕業だと思われるが、確証はなく、今はまだ民間の管理下にある。

アカネの指示で情報だけ提供してもらい、万が一の時に備えておくよう言われた。


「…………アイツ使うか」


飲み切った缶を片手で握りしめ、ゴミ箱に放り投げる。そうして部屋を後にした。

オフィスに戻ると、先ほどよりも酷い惨状になっていた。


「お、帰って来た」

「俺のケーキ返セェェェ!」


ケーキを頬張りながら逃げ回るルアとそれを追いかける葡愚が散らかったオフィス内を駆け回る。

ゴミ箱はひっくり返り中身が散乱し、机の上に置かれていた書類はくしゃくしゃになって床に広がっていた。その中にはユラが徹夜をして作った物も混ざっていた。


「………チッ」


溜まった怒りが溢れ出て舌打ちをするユラ。

無論、それが誰かに聞こえることは無かった。


「俺のコーラ買って来たか?」

「買ってない。自分で行け…ちょっと出かけてくるから……僕が帰ってくるまでにココが片付いてなかったら…………わかるよね?」


コートを羽織り、扉の取っ手に手をかけて後ろを振り返り言う。

その言葉は重く、冷たい様に感じた。

それを二人も感じ取ったのか、足を止めて小さな声で「は、ハイ…」と答えた。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



ガヤガヤと人混みが広がる。人の話す声と電話の着信音が響き渡るうるさい空間。

【東京民間本部署忌み者特別科】

ここでは民間の人が忌み者に関する事件を取り締まる本部署。イミトリの仕事はこの民間では処理できないと見なされた事件の処理。

どんな事件も一度民間を挟み、そのあとイミトリに回ってくる。

民間ではイミトリとは違い、特別な力を持っていなくても入ることができる。そのためここでは普通の人間が勤めてることが多い。

しかし、中には特別な力を持っている者もいる。例えば


「あ!柊さん!お久しぶりです!」


そう何処からか聞こえてくる声。

まるで久々に友達と再会したかの様な声色でユラの元に走ってくる。

茶髪が目立つ青年。ユラよりも背は小さく、しかしユラより男と認識できる程の筋肉質な体つき。


「お久しぶりです犬神君。いや、今は巡査部長かな」

「あははは、柊さんのおかげですよ」


駆け寄って来たのはココで巡査部長を務めている犬神ケント。彼はとある事情により京都から応援に来た民間の警察官。

ユラより5つ歳上にも関わらず、ユラをさん付けで呼び、敬語で話す。

警察だからなどと言った理由ではなく、ケント個人がユラを敬っているとのこと。


「最近の調子はどうですか」

「もう絶好調!………とは言えないですかね」


先程と打って変わって少し暗い顔をするケント。その理由が分かったのかため息をしてユラは答えた。


「行方不明事件の事ですか」

「ご名答です。こちらも頑張って色々と探しては居るんですが、これと言った証拠はなんとも……ところで今日はどう言った御用で?」

「あぁ…今からどこか食べに行きませんか?

話はそこで」


そう言い外を指差す。

ケントも深く考える事なく二言で返事した。


「はい!大丈夫ですよ!」


そう言い二人が向かったのは部署を出てすぐの近くにあるカフェ。

何かと人気らしいと前々から気になっていて仕方がなかった………と葡愚が大声で言っているのを思い出したのでそこにした。

確か人気だったのはパンケーキだったかな。


「うわぁ…!どれもこれも美味しそうですね!」

「好きなもの頼んでください。ここは僕が持ちますので」


メニューに目を輝かせるケントをみて微笑むユラ。側から見ればどう見られているのだろうか。


「いや、それは流石に悪いですよ。それに一応俺の方が年上なんですから俺が払いますよ」


ユラの提案にケントは応じなかった。

確かにケントの方が年は上だ。年上としてのプライドもあるだろう。しかし、民間とイミトリの懐の厚さはユラの方が上。

昼食くらい何ともないだろうが、できれば自分の好きなことに使って欲しい。


「……ではこうしましょう。僕が払う代わりにお願いを一つ聞いてくれる。それならどうですか?」


ユラの提案にケントは少し考えるそぶりを見せた。

別にやましい事を頼む訳ではないしケントもそれは理解しているだろう。

しばらくしてケントから返事が返ってきた。


「……じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね」

「了解です。じゃあ好きなもの好きなだけ頼んでください」


そう言うとケントは再びメニューを見てぶつぶつと独り言を漏らした。

あれ美味しそう。これも美味しそうだなと、まるで子供みたいだった。

なんて、そう思ったのは本人には内緒だ。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



ある程度時間が経ち、二人は昼食を終えていた。


「ごちそうさまでした………それで柊さん。話って何ですか?」


一息ついたケントがユラに問い出した。


「単刀直入に言います。今回の行方不明事件、イミトリにやらせてもらえませんか」


ユラの言葉にケントは少し驚きを見せた。が、すぐに表情を戻した。


「…理由を聞いても?」

「今回の事件、どうしても人間がやったとは思えないんですよ。痕跡も残さず、誰からも見られずに7人も行方不明。一週間経っても何の収穫も無し」


ケントは少し顔を顰めた。

民間でも必死に捜査したのだろうが、何も見つかってないと言う事実に耳が痛いのだろう。


「僕自身も陰で色々と捜査しましたが、特に目ぼしいものはありませんでした。これはもはや人間が出来ることではないです」

「……しかし、それでは俺たち民間が………」

「そこで、」


言いかけたケントの言葉を遮る様に、ユラが声を張った。


「僕達と犬神君で捜査しましょう」

「……俺とですか?」


ユラの提案にケントは腑抜けた声を出した。


「捜査願いはイミトリに、そうすれば僕達も動きやすくなります。犬神君には民間からの応援としてイミトリの捜査に参加してもらう。功績は勿論、民間に譲ります」

「そんな事可能なんですか?俺らの上司ってイミトリの事だいぶ嫌ってますけど」

「そこはこちらで何とかしますよ。報告書や始末書もこちらで引き受けます。どうですか?」


イミトリの応援としてただ捜査に参加するだけ。それだけで功績を貰え、面倒な書類は書かない。普通に考えてとても魅力的な提案だ。

ただし、正義感の強いケントがそれに乗じるかは賭けである。


「………わかりした。でも報告書などの始末は俺がやります。流石に全部任せるわけにはいかないので」

「了解です。それじゃあこれから事件解決まで、長い付き合いになると思いますがよろしくお願いします」


そう言い手を差し出した。

ケントもそれを見て差し出した手を握り返した。


「こちらもよろしくお願いします」

「えぇ、これから騒がしくなりますよ」


笑顔で、でもどこか疲れた様な顔で言った。


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