イミトリ
今回から初投稿させていただきます海乃しゃけ丸と申します。
誤字脱字や不適切な表現など色々と不満な点はあると思いますが、暇つぶし程度で読んでいただけると幸いです。
現在の日本では、とある生物による被害が続出して居る。その生物は攻撃的で人を見ればすぐに襲いかかる程、凶暴かつ危険な存在である。
初めにその生物が発見されたのはおよそ60年前。とある民家から人とも獣とも言えぬうめき声が響き、確認したところその生物が発見された。
政府はこの生物による被害を減らす為に、とある部隊を作った。それは件の生物の様に、人とも化け物とも言えぬ人ならざる者達が集まった集団。
彼らの働きにより、件の生物の被害は減少しつつある。しかし今現在でもなお、件の生物を見かけたなど情報が途絶えることはなかった。
そうして彼らは今でも、その生物を見つけ、殺し、一般人を守るのだ。
30年前、政府は彼らの集団にとある名前をつけた。それは
【イミトリ】
とある大型モールにて:
流れる人の波。あっちに行ったりこっちに行ったり。目の前を通るのは人、人…人。
久しぶりの休日。特にすることも無く適当に入り込んだ大型モール。此処にはなんでも揃ってる。服、食料、家電、娯楽、アクセサリー。
一人から家族連れの団体まで、誰もが楽しめる。そんな場所に一人、ただこうして椅子に座り流れる人の波を眺めるだけ。
嗚呼……
「………つまらないなぁ…」
丸メガネをかけ、完全に脱力しきっている真っ白な長い髪を後ろに結んでいる青年が呟く。
その容姿にキリッとした顔立ちで一見女とも見える人もいれば、男とも認識する人も居る。
そんな彼、こうして一時間以上椅子に座って、ただ時間が過ぎるのを待っているのである。
(なんか周りの人達も言ってるなぁ………僕の陰口かな…)
「なんかあの人カッコ良くない?」
「すげー美人が居るんだけど」
「ふ、踏まれたい……」
………なんか最後変なの聞こえたけど気のせいだな。うん。
これ以上居ると悪目立ちすると思い、椅子から立ち上がりエスカレーターへと向かった。
(あ〜、今日の晩御飯どうしようかな……魚は昨日食べたし。帰りにスーパーに寄って…………そう言えば今日卵の特売日だったような…)
この間、いい顔して周囲の人間の注目を集めて居るが、考えて居ることはかなり庶民的なことである。なんてことを考えて居ると、ズボンのポケットにしまっていたスマホが震えているのを感じた。取り出し画面を見ると、一件の着信が来ていた。相手は……
『情報屋』
「………もしもし」
『数秒遅れた。出るの躊躇ったね?』
電話越しに聞こえてくる機械によって作られた声が聞こえてくる。情報屋とは、仕事に関係する情報を給料の二割と引き換えに提供してくれる売人。
「電話して来たってことは」
『考えてる通りだよ。仕事が君の元に向かってる。数は一体だけ、でもかなり大物だから。被害は最小限に、だって』
「……随分と無茶言うなぁ…」
エスカレーターから降り辺りを見渡す。そこに広がるは人で埋め尽くされた道。そんな人ごみの中、被害は最小限。
「…ブラックすぎるでしょ」
『健闘を祈ってるよ』
プツリと着信が切れる。その瞬間、轟音と共に巨大な何かが壁を壊し店に侵入して来た。
大きさは6メートルほど、全身が黒く、顔には鳥の様なマスクをつけている。明らかにこの世の生物では無い何か、“忌み者”である。
「フシュゥゥゥゥゥゥ」
「本当に来たよ……情報屋って凄いね」
突然の忌み者の襲撃に逃げ惑う人々とは反対に、忌み者に歩み寄る。
「忌み者を確認、規定によりこれから貴方を処分します。何か言い残す事はありますか」
「フゥゥッ!…フゥゥッ!…」
こちらの問いかけに答えず、興奮気味に息を吐く忌み者。
「……まぁ、こんな継ぎ接ぎの生物に知性なんてあるわけないよね」
諦めた様な表情を見せた青年。
すると突然青年に向かって暴れ出す忌み者。
近くに散らばる瓦礫を手に持ち投げ捨てながら暴れているせいで、周囲の建物に被害が及ぶ。
「……被害は最小限にって…………言われたばっかなんだけど!!」
飛んでくる瓦礫を拳で跳ね除け、忌み者に向かって走り出す。何度も瓦礫を投げてくるが、青年には効かず、避けられたり粉砕されたりされてしまい意味をなさなかった。
そうして行くうちに、忌み者との距離はどんどんと近くなり、そしてとうとうすぐそこまでの距離にたどり着いた。
投擲という行動を取れなくなった忌み者は右手に生える巨腕を使い青年に攻撃を試みた。
「フボォォォォ!!」
悲鳴なのか咆哮なのかわからない声を上げながらひたすら巨腕を青年に向けて叩きつける忌み者。その度に土煙が上がり地面にヒビがはいる。気が済んだのか忌み者は満足げな顔を見せて叩きつけるのをやめた。やめてからしばらくして土煙も止み、青年のいた所には大きな穴が空いていた。
ふと忌み者が横を向くと、そこには逃げ遅れたであろう子供がいた。子供は膝を怪我していて涙を流していた。
そんな子供を見つけた忌み者は不敵な笑みを浮かべながら一歩、また一歩と近づく。
「ひっぐ………おかぁさーん!!」
恐怖のあまり子供は声を上げて泣く。それを聞いて忌み者は喜ぶ。
握り潰そうと巨腕を伸ばす。
そうして思いっきり
グシャッ!
握られた拳からは真っ赤な血が飛び散る。
ゆっくりと忌み者が拳を開くと
そこには大量のガラス片によって傷ついた手だけがあった。
「フガァ?!」
突然の事に理解が追いつかない忌み者。その後ろから声が上がる。
「やっぱり忌み者には知性のかけらもないね」
声を上げたのはさっき忌み者が叩きつけたと思っていた青年だった。
青年は先ほど何事もなかったかのように綺麗な服装で、先程の子供を抱き抱えていた。
「もう大丈夫だからね。お母さんどこにいるかわかる?」
「…うぐっ……おかあさん……居なくなっちゃった…!」
「……そっか。お兄さんが一緒に探してあげるから、ね?」
泣く子供を優しくあやす青年。そんな彼を差し置いて後ろから巨腕を振り下ろす忌み者。
確かな感触を感じ、今度こそやったと確信する。が
「………いくら知性が無いって言ってもさぁ…………」
「?!」
「今は違くない?」
子供を抱えてないもう片方の空いている手。
たった一本の細い手で忌み者の巨腕を受け止め睨みつける。
「ちょっと目を閉じててね」
青年は顔を見せずに子供にそう言う。
目を閉じたのかを確認すること無く、手を忌み者に向ける
そして小声で一言
『死ね』ボソッ
青年の呟きで忌み者は動きを止め、突然苦しみ始める。マスクの目元から血がドロドロと溢れ出す。
しばらくして身動きが無くなり、地響きを立てて倒れる。
「………処分完了。回収班と医療班の手配お願いします」
冷たい目で見下し、本部に連絡をする。
しばらくして本部から派遣された回収班と医療班が来て、怪我人の治療と忌み者の回収が行われた。
先程抱き抱えていた子供は…
「おかぁさぁん!!」
ふと声のした方を向くと、先ほどの子供とその母親がいた。どうやらあっちは心配しなくても良さそうだ。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
その日のうちの夜:とある部屋の前にて
部屋のドアの前に立ち止まり一呼吸置く。
目を開きドアを4回ノックする。
「どうぞ」と中から女性の声が聞こえてくる。
「失礼します」
ドアを開けると、そこには一人の女性がいた。
少し癖のあり長く、白に所々黒いラインの入った髪。
背丈は青年よりも小さく、一見中学生とも見間違えるほど。
片目の瞳は丸だが、もう片方の瞳は十字。
「今朝情報屋から連絡があり忌み者を確認し処分しました。怪我人は数名、幸いにも死人は一人もいません。なお、忌み者に知性はありませんでした……報告は以上です」
「うん…ご苦労様。ユラ君」
報告を聞いた女性。
ユラの上司であるニノ上アカネは静かに頷く。
「どうやら私達の追ってる忌み者ではなさそうだね」
「忌み者は今解剖班によって調べられていますが、おそらく量産された駒でしょうね」
「そうだろうねぇ……」
頬杖をつき残念そう言うアカネ。
彼女らが追っていると言う忌み者、このイミトリが作られるよりも前に存在し、今もなお存命していると言われている。
何故そこまでしてその個体に執着するのかは謎だが、
「…私達は“人に害をなす”忌み者を処理するイミトリ……その元凶かもしれないその個体さえ潰せだ何か変わるかもしれない」
「………変わらなかったら?」
ふと浮かんだ疑問を口に出す。
その疑問にアカネは瞳を向ける。左右の瞳がユラを写す。
しまったと手を口に当てる。
怒られるか?そんな不安を持っていたが
「…その時はその時……また一から情報を得て、対処するの」
「……そうですね」
特に気にしてないらしく、淡々と答えた。
「さて、そろそろ帰ろうか。ユラ君は?」
椅子の背もたれに掛けたコートを羽織り、立ち上がる。
「僕はこのまま報告書の制作に取り掛かります。最近何かと煩いので」
「ふふっ…あまり無理はしないようにね……では、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
ドアの前から退き、右手を腹の前に添えて一礼し、アカネを見送る。
パタリとドアの閉まる音と共に顔を上げ、ユラもその部屋を後にする。
こうして、イミトリとしての一日を終えた。