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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

なでぽんヘアー 

掲載日:2021/11/19

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお、つぶらや。またあったかそうな髪型になってきたなあ。ぼちぼち切った方がいいんじゃね?

 俺も髪の毛は頻繁に切りたくないけど、天パー気味だと見た目がなあ。一時期、鳥の巣か何かと思われて、いじられた経験があってね。表向きは平静をよそおったが、内心ではちょこっとダメージ入ったな。

 そのせいか、髪の長い女子を見ると「苦労してるんだろうなあ」って印象が真っ先に来る。

 男よりも長い髪に対する抵抗が少ないだろうとはいえ、俺の短さでもシャンプーをおっくうに思っちまうんだ。その倍以上はあろうかという髪に、手を入れるんだと考えるだけでしんどくなる。


 ――だったら〇分刈りみたいに、さっぱりしたらどうだ?


 うん、それは俺も考えたし、この学校にあがる前はそうしていた時期もあった。

 だが、ちょっと奇妙な体験をしてからは、少し控えたく思ってね。


 ――その時の話を聞いてみたい?


 お前も好きだねえ。じゃあ、ちょこっと話そうか?



 坊主頭の洗礼として、剃った翌日の学校は、クラスメートに頭をいじられるもんだ。

 多くは、剃りあと青々しい頭をぞりぞり手でなぞられる奴だな。あの父親が剃ったひげのあとで繰り出す、じょりじょり攻撃に近いもんだ。

 ちょっと髪が伸びると、すぐに毛先がへにょへにょと、腰砕けになってかっこ悪い。今の時期しかできないバーゲンセールなら、みんなもこぞって寄ってくるもの。


 うちのクラスだと3分刈り以下にするのは、野球部以外だとさほどいない。

 その野球部にしたって髪型の決まりがあるわけではないらしい。チームの中の一体感を増すためと、誰ともなく始めたものだ。切るタイミングをみんなではかるだけで、1,2カ月もすれば、他の連中と大差ないくらい黒髪が伸びるだろう。

 そんな彼らも、剃ったばかりのときは、みんなに群がられたものだ。


 その野球部の友達のひとりと、たまたま一緒に帰っていたときだ。

 道路沿いに歩いていると、向こうから近づいてくるトラックがあった。ほろのない、荷台の中がむき出しの軽トラックだ。代わりに、ブルーシートが風呂敷のように中身をすっぽり隠している。

 ガードレールで仕切られているものの、こちらと車体のすき間は1メートルも開かない。すれ違う時は、ほんのわずかだけど緊張する。

 

 その最接近の瞬間。

 ぱっとブルーシートがほどけて、端が歩道側へ広がった。

 ちょうど俺たちの頭をなでるタイミングとなる。だが、車の勢いもあって、くすぐったさよりも痛さの方が増した一瞬だった。

 二人して、通り過ぎるトラックをにらむ。ブルーシートを解かれた荷台に積まれていたのは、土の山たちだった。

 まだ湿り気が抜けないのか、その全身は黒に近い茶色に染まり、ところどころで緑色の小さい若葉が、頭をのぞかせている。陽の当たりづらい山の奥などから、まるごと掘り出してきたのだろうか。

「きったねえ」とお互い、ぱっぱと頭を叩いて、土がくっついてないか確かめあう。


 家の関係で、途中、道路を渡らざるを得ない。

 わざわざ横断歩道を律義に守る歳でもなくなっていて、ほどよくガードレールの途切れているところから左右を見やっては、うまいこと車のこないタイミングで渡っていく。

 そうして向こう側へ着いたとき、先ほどまで何も見えなかったはずの背後の道路から、バイクのエンジン音が近づいてきた。

 車よりバイクの方が小さいから、遠くにいるように見えるとは、交通安全教室で習ったことだろうか。でも、見えていなかったもんなあ。

 そんなことを考えていると、あっという間にバイクは俺たちを追い越していく。厚手の上下にフルフェイスヘルメット。このあたりではなかなか見ない、ほぼ正装のライダーだった。


 そのバイクが巻き起こす風を受けた直後。

 俺の顔へ、ぺしんとぶつかってきたものがある。まるっきり先ほどのブルーシートのようなタイミングだが、それよりもずっと細い。

 鞭のように叩いてきたのは、隣の友達だった。その手足じゃなく、3分刈りにした頭のうちから一本だけ。細い細い糸のような長い髪がしなり、俺の顔にぶつかってきたのさ。


 俺が指摘するまで、友達本人は気づいていなかったらしい。

 先をつまんで、見せてやると目を丸くしていた。ただつかんだ俺としては、毛一本にしては、何本も束ねたのと同じくらいの重さがあるように思えたんだ。

 友達もその存在を面白がって、二人して髪の毛をピンピン引っ張ったよ。

 ただ一本、仲間外れの長い毛。異端児を排除しようとするのは、頭の上でも同じことで、二人してこの毛を引っこ抜こうと、面白半分に、ぴんぴん引っ張っていた。

 毛抜きなんて上品なものとは縁がない。ただただ引っ張るたびに力をくわえていくも、髪の毛は粘りに粘る。

 俺も友達も、もうありったけに近い力を込めていた。ならばもう共同作業とばかり、二人して仲良く毛を引っ張ったところ。



「あっ」と友達が声を漏らすとともに、ぴぴっと赤い飛沫がかかった。

 反射的に血だと思って、飛びのいてしまう。友達はというと、自分の両耳をそれぞれの手で抑えている。その指の間から、わずかながらも飛んだものと同じ色の液体がにじんでいた。

 持ち歩いているばんそうこうを取り出し、耳を見せてもらって、俺は思わず息を呑んだよ。


 友達の両耳の根元が、出血のみなもとだ。

 ひと目で耳に違和感を覚えたが、どこがおかしいかとっさに分からない。よくよく見つめてやっと気がついた。

 顔に引っ付いている「耳珠じじゅ」の部分。そこから耳の穴と呼ぶ「外耳道」の半ばあたりにかけてが、すっかり友達の顔の中へうずまってしまっているんだ。その埋まっていく勢いが皮膚を、血管を破って、血を流させているんだ。

 近くの店のガラスに顔を映し、友達も事情を察した。うずまった耳を引っ張り出そうとしたけれど、少し力がかかっただけで強い痛みが走るらしく、ぎゅっとつむった顔からは涙がこぼれてきた。

 そして、考えられる原因は、たったひとつだ。


 友達はあの長い毛を、はさみで根元から断ち切った。

 病院で手術してもらったとのことで、いまは元通りになっているが、数カ月の間、両耳がミイラみたいになっていたのを覚えているよ。


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