交通誘導員さん
こちらは百物語四十五話になります。
山ン本怪談百物語↓
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仕事仲間と飲み会に行った時の話です。
長年一緒に頑張ってきた仕事仲間の昇進が決まり、お祝いのパーティを開くことにしたんです。
場所は会社から離れた場所にあるちょっと高めの居酒屋。
「俺、酒飲めないからさぁ。全員俺の車に乗ってくれよ」
仕事が終わると、酒を飲めない同僚の車に乗せてもらうことになりました。車の中で雑談を楽しみながら、カーナビの指示に従って車を走らせる。
「この道を右に…この店を左に…このトンネルをまっすぐ…」
あまり通ったことがない田舎道を進んでいると、目の前に「この先工事中 ご協力ください」と書かれた看板と、誘導灯を持った交通誘導員の姿が見えた。
「工事中かよ。あれ、なんか様子が…」
よく見てみると、交通誘導員以外にも人影が見える。車をゆっくり走らせていくと、怒号のような声が聞こえてきた。
「おい!いい加減にしろよ!さっきから何回同じこと言ってんだよ!」
20代くらいの細身の男が、交通誘導員に向かって文句を言っているようだった。
「いや~すみません、すみません…こちらも急な工事でしてぇ…」
交通誘導員は、男に向かって何度も謝りながら頭を深く下げている。しかし、男はよほど機嫌が悪いらしく、交通誘導員の胸ぐらを掴んでさらに怒りをぶちまけていた。
「おいおい、ありゃ酷いなぁ」
2人の隣を通ると…
「あっ!すみません!この先、道路工事中なので…気をつけてお進みください」
私たちの車に向かって、交通誘導員が軽く頭を下げた。
「あの人可哀想だな。変な奴に絡まれちまって…」
私たちが通り過ぎた後にも、あの交通誘導員は男の対応を続けていた。
しばらく車を走らせていると、作業をする工事スタッフたちを見つけた。私たちは車を停めると、一番近くにいた工事スタッフへ声をかけた。
「すみません、向こうに立ってる交通誘導員さんなんだけど…なんか変な奴に絡まれてるみたいで…」
心配になった私たちは、工事スタッフに先程のことを伝えることにした。すると…
「んん、交通指導員?今日はもういないよ…違う人じゃないっすか?」
話を聞いてみると、数時間前に作業自体が終わっており、今は現場を掃除している途中だという。作業が終わると、交通指導員には帰ってもらったと言っているが、私たちは確かに交通指導員を見たのだ。
「おかしいなぁ…ちょっと気になるし、戻って見てみるか!」
気になった私たちは、もう一度あの現場に戻ってみることにした。危険な状況になっている可能性もあったため、私たちはすぐに車を走らせた。
現場へ戻ってみると、まだ文句を言い続けているあの男と対応中の交通指導員の姿があった。
「そうだよっ!てめぇのせいでこうなってんだよ!いい加減にしろよ!」
男は飽きもせずまだ文句を言い続けている。しかし、交通指導員は何も言い返すことなく、黙って頭を下げ続けている。
「おい、なんかおかしくないか?」
仕事仲間の1人が状況の異変に気がついた。
黙って頭を下げ続けている交通指導員が、まったくと言っていいほど「動かない」のだ。
「なぁ…あれ…『人間』か…?」
動かない交通指導員は、まるで「人形」のようであった。いや…
「おい!マネキンだぞ、あれ…!」
男が文句を言っている交通指導員は、頭を下げた状態で置かれている「マネキン人形」であった。
「そうだよ!お前のせいだよ!何回謝っても意味ねぇから!少し前もお前のせいで…」
とても異常な光景だった。
「な、なぁ…なんでアイツはマネキンに向かって怒ってんだ…?」
「俺たち、交通指導員に声かけてもらったよな?あの人どこ行ったんだよ?」
「おい、もう行こうぜ!なんかヤバい気がする!」
男とマネキンに得体の知れない恐怖を感じた私たちは、すぐに車を走らせて現場から立ち去った。
その日以降、私たちは二度とその道を通っていない。