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異世界ヒロインが現世に召喚された話  作者: みたろう
第三章 エルーシャ姉妹編
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第96話 教団の内情

 俺は"預言者"の存在について、レジギアに尋ねることにした。

 この言葉が初出したのは、公園でヴィランと対峙した時だ。彼は信仰する神のことを熱く語り、そして預言者という存在を口にした。

 エルミアが江ノ島で戦った時も、預言者の話は出たらしい。神の言葉を聞ける人間……とか言ってたって。

 預言者って奴が教団を動かしている。他人を洗脳し、好きなように操っている悪者。許せることではない。それに、預言者が異世界召喚を行っているのなら、エルミアやラメを帰させることができるかもしれない。


「機動隊は……取り敢えず置いておいて。預言者について詳しく教えてください」


『預言者、だな』


 レジギアは小さく頷き、注文に応えてくれた。


『預言者とは、この世で唯一神の声を聞ける人間……とされている人物だ。真実かどうかは、見極める必要があるがな。この望労済教団のトップであり、恐らく、異世界人を召喚している。その素顔や正体は誰も知らず、全てが謎に包まれている』


 フードを被って顔が真っ暗になっている怪しい男が思い浮かんだ。

 謎だらけなのに教団を纏め上げるとは、洗脳は事実で有ると自分で明言しているようなものだな。ま、教団員は洗脳の対象だから、事実に辿り着けないんだけど。実によくできた話である。


 レジギアの見解では、異世界召喚の犯人は預言者。

 俺はその考えに同意する。根拠は無い。でも何だか、そんな感じがする。勘ってやつだ。

 警察の、紅宮さん辺りに言ったら怒られるかな。あの人も根拠無しに霊戯さんを疑ってたからお互い様か。


「預言者に近付けたら、ですね。……しかし困難でしょう。なんてったって教団のトップ。きっと厳重に守られてる」


『そうだな。護衛もまた、預言者の正体は知らないだろうが。時間は掛かるが、調査が可能なのは私だけ。今後も探ろう』


「はい、よろしくお願いします」


 霊戯さんは画面の前で礼をし、レジギアに預言者の調査を任せた。

 彼一人に任せるのも気が引けるけど、俺じゃどうやっても手伝えない。居場所も、立場も、遠すぎる。


 次に何を話そうかというところで、エルミアがパッと表情を変え、身を乗り出した。


「そうだ……ヴィランの言っていた、『十二人の戦士』とは一体?」


 十二人の戦士。

 そんなことも言ってたな、エルミアが。

 えーっと確か、神に抗う者達、だったっけ。

 俺達は十二人の戦士認定されているらしい。

 これも詳しく聞いておきたい。


『十二人の戦士か。……それは、預言者の未来予知で見た、神の復活の儀式を阻む者達のことだ』


「で、僕らが十二人の戦士ってことになって、全力で殺しに来てる、と」


『団員が報告したところ、預言者が『戦士は彼らである』と神から啓示を受けたと言ったそうだ』


 未来予知に神からの啓示。

 胡散臭さが限界突破している。ステータスをカンストさせるチーターも、この値だけは上げないだろう。

 一度洗脳してしまえば、預言者や神の言葉と説明すれば信者は従う。つまり、預言者はいくらでも嘘をつき、自分の都合の良いように信者を操作できるんだ。

 預言者の真の目的は定かではなく、本当に神の復活を目標としているのかもしれないが、どこかに嘘が紛れていると考えていた方が良さそうだ。


 しかし、俺達が神の復活の儀式を阻むなんて、そんな未来はあるのか?

 教団とはこれからも戦うことになるが、別に神とかどうでもいいし……。

 いや、もし本当に神が復活するなら、邪神の類の神なら、世界が危うい。

 預言者の言葉が真実なら、俺達がやるしかないのかもしれない。

 もう発言の真偽とか無視して、預言者を倒してしまえば解決する気がしてきた。その前にエルミアとラメと、レジギアとその他の異世界人を異世界に帰させたら済むんだ。

 そうすればもう、神問題は完全に消えて無くなる。


 ……あれ? これだと予知の通りになるのでは?


 もしかして未来予知の能力は本当? だとすると、神の存在も濃厚になるのでは……。

 じゃあやっぱり神の復活の前に……。


 いつの間にか俺は、頭を抱えていた。

 一瞬こんがらがりそうになった。結局どうなんだ。

 今は考えないでおくか。エルミアとラメとレジギアを帰すことだけに集中して活動しよう。


「なるほど……」


 エルミアは、納得できたようだ。


「他に、重要そうなことってあります?」


『用語でいえば、無い。だから、機動隊の話に戻るぞ』


 そういえば機動隊の話の途中だったな。

 べべスやヴィランも機動隊の一員なのだと思う。

 なら、これからも機動隊とは関わる。これも、聞いておくべきだ。


『お前達が戦ったであろう、機動隊。機動隊はその中でも、五つの班に分かれているんだ』


 そして、そのうちの二班が倒されてしまったと、教団の中で騒がれているらしい。

 二班だ。流れから察するに、べべスとヴィランが班のリーダー的存在なのだろう。

 母さんの仇敵であるべべスに、主に警察関係者を殺害したヴィラン。どちらも部下を持っていた。

 じゃあ、あの暗号の紙は、ヴィランの部下に渡しておいたものか。


「べべスとヴィラン、ですね」


『名前までは知らなかった。しかし、実際に交戦した泰斗が言うのであれば、間違いないな』


 お、名前呼ばれた。嬉しい。


『因みに私は、それぞれの班が管理するパソコンをハッキングし、例えば第一班が情報を得ても、それが他の班に漏れないようにしている』


 ほうほう、なるほど。


 ……って、凄い功績をさらっと告げたなレジギア!

 パソコンをハッキング? 異世界人が?

 よくやったもんだなあ。ハッキングなんて引きこもりでネットやパソコン三昧だった俺ですらチンプンカンプンなのに。

 独学なのか? 短時間で習得できる逸材なのは確かだけど。


「すげぇ……」


 思わず心の声が漏れた。

 これじゃまるで、俺がハッカー志望の犯罪予備軍みたいじゃないか。


 しかし、場はすっかりレジギアを褒めるムードになっていた。


 そんなムードを無視し、レジギアは話を続ける。


『では、残る班は三つだ。増える可能性もあるから、できるだけ早く処理したい。現在、機動隊の活動は一旦止まっているが……できるか?』


 レジギアは、その赤い瞳を少し歪ませ、そう聞いてきた。

 雰囲気に反して随分と不安そうだ。人は疑え的なことも言っていた。心配性なのか。

 その不安は取り除いてあげたい……が、機動隊の活動が止まっているということは、あちらから仕掛けてくることはないということ。

 アジトがどこにあるかなんて知らない。俺達は、何もできない。


 それに、目的が食い違ってないか?

 俺達は、エルミアとラメとレジギアを元の世界に帰すことが目的。

 しかしレジギアは、教団の撲滅を第一に考えている様子だ。

 教団を撲滅させなくたって、異世界人を帰すことはできるだろう、多分。それができないと踏んでの、その目的なのか?


「率直な返答……できない! できませんよ」


『……だろうな……』


 最初から理解してたんじゃん。

 わざわざ聞く必要も無いことを聞いてくるな。

 霊戯さんの笑みの中に隠れた呆れがちらっと見える。


「活動が停止したのは、かなりの被害があったからでしょうかね。当分の間、僕らは仕事できません」


『仕方がない』


「じゃあ…………アジトに突撃するとかは? 成功するとは思えませんけど、一応選択肢としては、それもありますよね?」


 アジトに突撃か。

 現実的ではないし、生還できる保証も無いが、現状を打破する方法の一つではある。

 そこで預言者の秘密を暴き、あわよくば預言者を撃破する。そして洗脳された人々を救って……というのは、洗脳の仕方によっても変わってくるか。


『断言できる、不可能だ』


「それは何故?」


『私はアジトの所在地を知っているし、教えられる。だが、想像はつくだろう……アジトは守りに力を注いでいる。幻のバリアが、張られているのだ』


 幻のバリア。RPG的な響き。

 幻といえば幻術師のべべスだ。何か関係があるのか。


『幻術師べべス……彼は死んだ。だがその魔力は貯蔵されており、それを利用した巨大なバリアが、アジト全体を包んでいる。具体的にどんなものかというと……アジトに近付けば近付くほど、感覚や認識が狂わされる』


 べべスの魔力は濃い。

 濃い魔力は、純魔石に貯めた時、その主のよく使う魔法の力となる。

 だからべべスの魔力を貯蔵しておくことで、幻のバリアを作れるのだ。

 死んでもなお教団、いや神に貢献し続けるとは、べべスめ、憎い男。

 感覚や認識が狂わされるとかいうトンデモなバリアの性能も、ヤツが関係しているなら不思議と頷ける。


『たとえ住所を書き記していたとしても、頭が不具合を起こし、アジトには永遠に到達できない。視認することすらできない。故に、私がお前達に何を伝えようと、突撃など不可能だ』


 べべスの野郎が影響しているシステムなら、納得できる。打ち砕いてやりたいとは思うけど。

 あれ、じゃあどうやってアジト内に入るんだ? 預言者を倒すか何かするなら、最終的には突撃して追い詰めるしかないだろう。


「じゃあどうすれば……」


『バリアは、団員に対しては効果は無い。とはいえ、解除しなければならない場合もある……そういった想定はされている筈だ。ならば、どこかにバリアを操作する装置がある。これまた私が、探そうと思う』


 色々話し合った結果、全てレジギア任せ。

 まあ無理なものは無理だ。今の俺には、できることはない。受け入れよう。

 レジギアが有力な情報を得るのを待ち、次の班が俺達を標的にするのを待つ。

 暫くの間平和を堪能できるなら、それも悪くはない。

 怖いけどね。しかし、死はいつの日か来るもの。それと同じように、心に留めておけば、少しは緩和する。

 エルミアだって、ラメだって、レジギアという新たな仲間だっているんだ。きっと大丈夫。


「おっけー、了解。僕達はお休みってことで。頼むよ、レジギア」


 雇い主みたいな言い草だな、この人。

 霊戯さんはすぐ調子に乗るんだから。俺もか。


 レジギアはそんな霊戯さんを見て、笑うでも憐れむでもなく、


『頼まれた』


 と言い、決心するように目を瞑って開けた。

 これで通話も終わりかと気を緩めるも、レジギアがまだ言うべきことを残しているような様子だったので、再び気を引き締める。


『最後に……私を異世界に帰そうなどと、馬鹿なことを計画するな』


 その口調は強く、心の底から反対しているのが、メンタリストの「メ」も身につけていない俺にもわかった。

 レジギアも、エルミアとラメと一緒に帰そうと思っていただけに、ショックだ。

 なにも、そんなに否定しなくていいだろう。こっちは善意だ。レジギアの事情なんて知ったこっちゃない。


 俺は少しだけイラッとしてしまい、眉がピクリと動いた。


「どうしてそんな」


『異世界では、死んだも同然の状態だったのだ。帰ったところで、住居も食糧も無い。特にしたいことも、無いのでな』


 レジギアは態度を一切変えずに、淡々と説明する。

 死んだ者の目とはこれか。鮮やかな赤色ではあるが、活気を感じない。冷え切った、まるで氷のような目だ。

 異世界での生活が絶望的なら、異世界召喚されたのはある意味転機だ。……というと、流石に失礼になる。彼に帰る意志が無くても、そこは気を遣うべき。


 とにかく、この世界の人間に協力し、悪を懲らしめようというのは、完全なる善行だ。

 その好意は受け取ろうじゃないか。


「……わかりました」


 俺は、弱い言葉を返した。

 周りも、レジギアに何て声を掛ければ良いのか見当がつかなかったらしく、黙っていた。


 そして通話は終了。

 レジギアとのやり取りは終わった。



*****



 午後、透弥と咲喜さんが帰宅した。

 片付けや手洗いを済ませた後、椅子に座る。


 霊戯さんは、今日あったことを事細かに伝えた。

 暗号が解読できたこと。

 レジギアと連絡をとったこと。

 レジギアの口から明かされた、様々なこと。


 特に、洗脳のことは、二人の胸にも刺さる。


「洗脳、か。つまり奴等は、下手な方便に引っ掛かったってことだろ?」


 透弥はソファの横に頭を載っけて言う。

 下手な方便って……。そうとは限らない。

 強引に従わされ、いつの間にか思想を植え付けられていたって可能性もあるだろう。


 相変わらずムカつくやつだ。

 俺が言えたことでもないけど、だらしない。


「そうとは限んないだろ」


「……じゃあ何だ、コイツも元々は良い奴だったんだ……って毎度毎度泣きながら斬り捨てんのか、お前は」


「いや……えっと……」


 反論できない。

 確かに、そんなビクビクのグスグスじゃこれからやっていけない。

 目の前の敵の本質が善か悪かは考えず、ただの敵として戦うべきなのか。


 そうだ、咲喜さんの方は。


「……私は、そのことを忘れさえしなければ、透弥のような考え方でも良いと考えます」


 透弥より容易く理解でき、ムカつきもしない咲喜さんの意見。

 よっぽど聞く気になるよ。姉と弟でこうも違うと、暮らすのは大変だな。


「流石咲喜さん、良い意見。…………しっかし困るよなぁ、弟がこんなだと、姉は」


 俺はわざと嫌味ったらしく言ってやった。

 ストレスが溜まっている……なんて、言い訳にしかならない。


「うーん、まあ、もう少ししっかりしてほしい場面はありますね」


「なんだと……オイ泰斗、最近喧嘩しねぇなと安心してたのによぉ……」


 怒りマークを額に付ける透弥。

 俺はスルーして、エルミアにも同意を求める。


「エルミアもそう思わないか? やっぱ兄や姉は、弟や妹の性格によっては毎日困らされるもんだって」


 俺が軽い気持ちでそう尋ねると、エルミアはこの世の終わりのような顔になった。


 なんだなんだ、そんな変な言い方だったかな……。

 反省すべきと言うなら、反省点は浮かぶ。

 けど、人間じゃないものを見るような、その眼差しは流石に……。

 嫌だったか、あんまりに透弥が責められるのは。


「ご、ごめんエルミア……これは、喧嘩するほど仲がいいってやつで……本気で嫌ってて言ったんじゃ……」


 謝罪する。


「姉…………が、困らされる………………」


「……エルミア?」


「あっ、ううん、何でもないよ! 泰斗君のその態度が嫌だったんじゃないよ。透弥とはいくらでも喧嘩しちゃって!」


 エルミアは明るくなった。


「は!? ふざけんなっ。喧嘩するのも面倒だろうが、コイツとは!」


 透弥のうるさい声が響く。

 エルミアのあの顔が忘れられなかったが、特に何事もなく、その日は終わった。

第96話を読んでいただき、ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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