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第91話 海上で舞う

 作戦が決定した。

 まずラメがクリスタル攻撃でヴィランの植物の装甲を破壊する。できれば派手に。


 次に、破壊され空いた穴に、俺が遠距離純魔石弾をぶっぱなす。

 遠距離純魔石弾とは何かというと、簡単に言ってしまえば魔力を高圧で出すものだ。

 純魔石の特性から、魔力の濃くない者の魔力は、注ぐと全て無属性魔法と似た効果の魔力に変換される。

 無属性魔法に分類される魔法は、衝撃波だったり、物体の操作だったり。

 つまり、魔力の濃くないラメの魔力を注げば、それは衝撃波を放つ兵器となるのだ。

 俺はその兵器を用いて、ヴィランを装甲の外へ吹っ飛ばす。ミスは許されない。外したら次撃つまでに再生されてしまうのだから。


 そして最後に、露出したヴィランを、エルミアが火魔法サプレスブレイズで仕留める。

 骨肉は残らない。塵すら残らないかもしれない。


「準備は良いな?」


「あ……ちょっと待って! それ貸してください」


 ラメが純魔石を貸してくれと言うので、俺は素直に手渡した。

 何か細工でもするのかと思っていると、彼女は魔法で水を生み出し、流れを操作してクリスタルにした。


 この形は……銃? 素材が水だから水鉄砲にも見える。

 銃口の部分に穴は無く、代わりに純魔石が嵌まっている。最初は水だから、純魔石を半分だけ包むと、クリスタルにした時こうなるんだ。


「どうぞ」


 手渡した純魔石は、こうして小さな銃となって返ってきた。

 何だってこんなこと。純魔石は持ちにくそうだったからか? 実際、丸くて小さいから持ちにくかったけど。

 それとももしかして、俺と一緒にFPSをプレイしたからか? 俺が嬉しがりそうだから?


「もしかしてこれは……ゲームの影響か?」


 気になって聞いてみると、ラメはニコッと笑って頷いた。


「準備はできましたよ!」


 ラメはそう言って走り出し……海に飛び込んだ!?

 おいおい、嘘だろ何で飛び込むんだよ!?


「ラメちゃん!」


「ラメ!」


 しかしそれは、ラメなりに考えた戦い方だった。

 ラメは水面を、足場として必要な面積だけクリスタル化させ、水流を操作することで海上すら戦場としたんだ。


 ヴィランお得意の、木の根や枝を槍のようにして伸ばしてくる技。

 そしてラメが自ら作り出した、水流操作の魔法ウォーターストリームのクリスタル化。

 二つの技が、交差する。


 細く鋭い武器達は海や空を自由に飛び、製作途中の蜘蛛の巣のようになった。

 しかし硬さでいえばクリスタルが上だ。現に、クリスタルの幾つかは木を断裂させている。


 因みにラメのこのやり方、非常に難しい。

 「水弾を作って発射し、敵に当たる前にクリスタル化させる」ことは、発射の後ならいつクリスタル化させても良いので比較的簡単。

 しかし今のは、「水流を操作し、敵に当たった瞬間にクリスタル化させる」ことをしなければならない。

 クリスタル化させるのが早すぎると敵に当たる前に止まって動かせなくなるし、遅すぎると敵の体に変な形のクリスタルがくっ付くだけ。

 十歳の少女にはできる筈もない精密な操作が必須なんだ。彼女はそれをやってのけている。


 俺はラメの勇姿を見ていた。

 見ていることに集中していた、その所為で、真横の敵に気付けなかった。


「……っ! 横から!」


 貫かれはしなかった。が、ぐるぐると体に根が巻かれ、戦場に連れて行かれた。


「泰斗君……! ラメちゃん! 泰斗君を!」


 ラメは即座に振り向き、俺を縛っている根をクリスタル弾で壊してくれた。


 助かった。もしも二人の助けが無かったら、俺はヴィランの下まで連れて行かれて無数の槍に刺されていただろう。

 恐らく今のは、水中を進み、俺の真横で外に出てきたんだと思う。だから俺もエルミアも気付けなかったんだ。

 より海に近い位置に居た俺を狙うとは。暴走しているパターンかと疑ったが、しっかり意識が残っているな、ヴィランのヤツ。


「しかしどうする……陸から離れちまった」


 ラメのお陰で海の上に足場ができているが、俺は何の能力も持っていないので帰れない。

 しかし留まっていると殺られる。純魔石で対抗は可能だが、あまり消耗したくない。


「おーい! 俺をずっと守ってられるモノなんて作れないか!?」


「あっ……なら……! マジックバブル!」


 水泡っぽい物が俺を包んだ。

 戸惑っていると、その水泡は薄いクリスタルに変わった。

 つまり俺は今、薄くて硬い、中が空洞になったボールの中にいる、ということだ。


「なるほど。コイツが全てから俺を守ってくれるのか」


 ヒンヤリと冷たいこと以外は快適で、外部からのダメージも無い。破壊されたらお終いだが、ラメも頑張ってくれるし一先ず安心していいだろう。


 そう思った矢先。

 俺はクリスタルごと上に弾き飛ばされた。


「今度は下からかよっ!」


 速い。重力がおかしい気がする。

 しかもこれは……クリスタルの一部が、欠損している! ガラスみたいに割れている!

 飛ばされた影響で、破片は運良く俺に当たらなかったようだが、これじゃヴィランの工夫次第で俺の身が潰れる。


 でも、こんな時こそ冷静に。

 冷静に考えるんだ、墜落する飛行機のパイロットよりはマシだと思え。

 一部が欠損し、穴が空いたということは……遠距離純魔石弾を撃てるということ!

 クリスタルに入れてもらった時は内側から撃って穴を作るしかないと考えたが、その手間が省けたと思えば少しは元気が出る。


 下の方に見えるラメが、青ざめた顔でこちらを見ている。


「俺に構うな! 拘束だ、"水が相手に当たった後にクリスタル化させる"んだ! そうしてヴィランを身動き取れなくさせて、真ん中にデカいのぶち当てろ!!」


 電車の外で見送る少年の名を呼ぶように、俺はラメに向かって叫んだ。


 これまでのやり方の逆。

 水が敵に当たった後にクリスタル化させる。

 そうすることで、ヴィランの植物太陽を固定できるのだ。

 とはいっても、海底の水から全部クリスタルにしているわけではないので、固定はほんの一瞬。

 だが抑止にはなる。一瞬だけの。


 固定、固定、そこに打撃。

 作って消滅させての繰り返しだが、クリスタル攻撃は確実に効いている。

 そして今、遂に大きな亀裂が入った!


「発射用意だ……って、うわぁっ!?」


 ヴィランは俺達の作戦を悟ったようだ。

 強力そうな銃を構えた俺を見て、自分が今から何をされるのか分かったのだ。


 クリスタルを割ってもどうせまた作られる、なら掻き乱してまともに銃を使えなくさせてやろう。

 そんな考えの基、十本の触手みたいな木の根が……飛び出した!


 あとちょっとだっていうのに。

 あとちょっとで、俺の遠距離純魔石弾が炸裂したっていうのに。

 空中でぐるぐると掻き乱されて、平衡感覚を保つだけで精一杯。

 こんな状態で、一回のチャンスを決して逃すなと言うのか……!


 きっと一発外せば、終わる。

 一発まででこんな道のりだ。次は無いと思える。


 でもこれは! 無理がある!

 弾を命中させられるのは、クリスタルに空いた穴と植物太陽に空いた極小の穴が重なる瞬間だけ!

 できるわけが……。


 できるわけがない、けど、やるしかない!


 直後、俺の意思が伝わったか、ラメは植物太陽の一部分を破壊して穴を空け、そして俺を囲む木の根をバシュバシュと散らした。


 クリスタルは回転しながら落ちていく。

 もちろん、俺が中に入ったまま。

 しかし恐怖は皆無だ。寧ろ勝った気分。


 植物太陽の中、俺の様子を見て嗤うヴィランが見えた。

 どうやら回転しながら落下している状態で一点を狙うなど不可能と思っているようだ。


「甘いなヴィラン。俺はこれでもプロゲーマーだぜ」


 照準を定める。

 その行為を何回してきたと思っている。

 たかが速い回転、たかが小さな的。

 一秒にも満たない、本当の本当の一瞬。

 俺はその一瞬を決して逃さない男だ。


「大会二連続優勝を…………」


 考えるな、感じろ、とはこのことだ。

 培った射撃の精度は、並から外れている。


 ――――ここ!


「舐めんじゃねぇ!!」


 ちょうどクリスタルが海面に触れた時。

 閃光のような魔力弾が放たれた。


 俺の放った弾だ。

 そいつは見事な線を描き、植物太陽の目玉みたいな所を、ヴィランが隠れていた空洞を、綺麗に撃ち抜いた。


 ビキビキと気味の悪い音がし、ボロボロなヴィランが空中に放り出された。


「初めてだったんで上手く行くか心配だったけど……バッチリだな」


 遠距離純魔石弾の威力が高すぎてヴィランが死んでしまわないかという心配があったけど、杞憂だった。

 ギリギリ死んでいないまま、ちゃんと放り出してやったよ。


 さあ、仕上げは彼女に任せるとしよう。


「野に住まいし火の精よ、その眼を我に授け給え。紅蓮の都の守り人よ、我に災いの力を与えん。罪抱えしあの悪鬼を、地獄の彼方に葬り去れ!」


 火の竜にも見えるエルミアは、珍しい言葉の数々を並べた。魔法の詠唱だ。

 詠唱なんて実在しないのかとガッカリしていたが、上位の魔法にはあった。後でゆっくり教えてもらおうじゃないか。


「サプレスブレイズ!」


 笑顔で観覧していると、水流で押されて陸まで戻された。

 気付いたらラメは隣に。間一髪とでも言いそうな顔だ。


 直後、俺は理解した。ラメの顔が何故そんななのかを。


 ――ズドオオオオォォォォ!


 大地が、海が、空気が、轟く爆風で揺れた。

 まるで太陽が地球に訪れたようだ。

 紅と橙の巨大な炎が、海上の空にあった。

 それを認識した途端、灼熱の風が俺を飲んだ。


「あああっついっ!! 爆風があっ!」


 俺もラメも、世界の終焉に直面したような苦しい表情になった。

 爆風と振動はえげつない。水分が全部持っていかれそうだ。

 地獄は暫く続いた。


 終わったと思えば、今度は高い波が追い討ちをかけるように押し寄せてきた。

 しかしこれは、ラメが片付けた。

 波を全部クリスタルに変えてしまい、そして消滅させたのだ。


「ご苦労さん」


 頑張って目を開き、手を振ってやると、ラメはぱたりと倒れた。

 疲労による卒倒だ。人体に詳しくはないが、俺は何となくわかった。


 仕方ない、俺が助けてやる。

 この子、まだ十歳だもんな。よくやったよ本当に。

 負ぶって家まで――


 俺の意識はそこで途切れた。



*****



 目が覚めると、視界にあるのは白い天井のみ。

 この流れは一体何度目だろうか。


 体を右に倒してみると、金髪のお姉さんが。

 ……ではなく、冬立さんが。

 話し掛けようとしたら、後ろを指で示された。


「……?」


 今度は左に倒してみると、白髪の少女が。

 ……ではなく、ラメが。

 すぅすぅと可愛らしい寝息をたてて眠っている。


 心が体を追い越してしまい、純粋な気持ちによって手がラメの頭に伸びた。

 しかし瞬時に冬立さんからキレられる未来が脳内に流れ、フライパンの温度を確認するときくらいの位置で手を止めた。


 恐る恐る冬立さんの方へ向くと、彼女は腕を組んでただじーっと俺を見つめていた。

 静かな怒りかと思ったけど、怒りのオーラは感じ取れない。俺……というか陰キャは皆そういう気配に敏感だから、怒りの感情は抱かれてはいないんだろう。

 だとしたら何だ。わからない。それも陰キャである所為なのか。


 ただ止められはしていないようなので、俺は手をラメの頭に置いた。

 可憐でさらさらな髪に触れると、汚れが浄化されるような感覚に。

 このままずっと撫でていたい頭と髪だ。


 ……って、駄目だ。

 俺の本命はエルミアだぞ。

 危うくラメに移るところだった。いや、半分くらい移った。

 でも俺は浮気とかしないから。将来恋愛関係で悪い方向のニュースに出たくないから。

 あとロリコンではない。可愛い女の子が好きなだけだ。

 とにかく。俺が一番好きなのはエルミアだ。それは絶対に揺らがない。ラメのことも大好きだけれど。

 こんな子に「一番じゃない」とか言えないよな。そもそも俺に思いを寄せてはいないだろうけどさ。


「……結局、全てお前に取られてしまったな、泰斗」


 冬立さんはそうとだけ言うと立ち上がり、部屋から出ようとした。


 「全てお前に取られた」って、つまり全ての活躍を俺にかっさらわれた、ってことか?

 確かに俺は活躍したと思う。ナルシストと言われたら反論するけど、実際俺は頑張ったし。

 でも冬立さんだって頑張ってきた。この人がいなければそもそも俺とラメが出会うことだってなかったんだし、現在のような状況にもならなかった。

 ラメだって冬立さんのことは大好きな筈だ。


 そこで俺は、一つの例え話をした。


「とある遊園地に、周りに誰も助けてくれる人のいない迷子がいました。そんな時現れた救世主、迷子の手を引き、迷子センターまで連れて行ってくれました。センターの職員は園内にアナウンス。迷子は無事引き取られました」


 冬立さんは振り返った。

 何とも言えない不思議な顔をしている。


「この場合、より偉いのは迷子をセンターまで連れて行った人か、センターの職員、どっちでしょうね。俺は前者だと思いますよ。だって職員はあくまで職務を全うしただけ。孤独な子供の手を初めて引くのとは、情に大きな差があります」


 寝ながらで随分格好悪いけど、中々良いこと言えたんじゃないかな。


 すると冬立さんは、ふっと静かに笑ってまた外の方に目を向けた。


「……やっぱり、私の負けだな」


 彼女のその声色は、いつにも増して嬉しそうであった。

第91話を読んでいただき、ありがとうございました!

次回で二章は完結になります!

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