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第90話 クリスタルと共に戦え

 俺、参……いややめとこう。

 とにかく俺は、最高に気分が良い。こんなこと言いたくなっちゃうくらいには。


 だってカッコイイだろ今の俺?

 そんなこともない? 俺がナルシストなだけ?

 だけな気もするなあ。でもどうやらナイスタイミングな登場だったみたいだし、良しとしよう。


「……とは言ったものの、どうなってんだアレ。ジャングルの遺跡の建物部分だけ切り抜いたら案外あんか形になりそうだけど」


「ならねぇだろ」


 透弥の冷静なツッコミが飛んだ。

 まあまあ、俺も冷静にはなりますよ。


「ラメは回復魔法使えたよな? エルミアを治療してやってくれ」


「もちろん、任せてくださいっ」


 ラメの魔法でエルミアの怪我を治療。

 だけど、魔法だからって何でも一瞬で治せるわけじゃない。

 特に脚が凄いことになってて、今日の内に完治できなさそうだ。

 ヴィランが何をしてくるか分からないし、悠長に治療してはいられないからな。


「その感じ、相当戦った後だよな……」


「うん。魔力も無くなりそうだから、長期戦にはできない」


 第二形態なのに魔力不足か……。

 どうしよう。調子に乗っていたけど、別に俺はヴィランに太刀打ちできるような強い男じゃない。

 主に戦うのはエルミアとラメだ。エルミアは戦闘不能が近く、ラメの戦闘力はエルミアに劣る。

 つまり、俺達は戦力的に不利。しかも俺の知るヴィランは第一形態だ。第二形態はそれより強いだろうから、正直言って怖い。


「勝てる、よな……?」


 不安になってきた。

 きっと顔にも表れているだろう。

 オイオイ、さっきの威勢はどうしたよ泰斗。勝てなそうでも、勝たなきゃだろ。


 自分と戦っていると、上機嫌な霊戯さんが「一つ作戦がある」と言ってきた。

 俺はそれを聞いて喜び、そして密かに悔やんだ。

 何故かというと、活躍できそうな場面で「勝つためには」の提案をする役を奪われたからだ。

 霊戯さんが嫌ってわけじゃないけど。でも活躍したいんだよ俺は。


「まず、ヴィランについて話そう。僕とエルミアちゃん以外は知らないことを、ね」


 ヴィランとの戦いの場にいたのは霊戯さんとエルミアだけらしい。その間、透弥と咲喜さんは他の敵を倒すために島の奥の方へ行っていたんだとか。

 だからヴィランと戦っていた二人は彼についての事情を知っている。逆に言うと、透弥と咲喜さんは全く知らない。


 霊戯さん曰く、ヴィランの一族はマンドラゴラの魔術師と呼ばれていたのだが、史実はそうではないらしい。


 初代であるヴィルス・アドニスは重度の聴覚障害だったために、引き抜いた時の悲鳴を認識すると死んでしまうというマンドラゴラを手に入れられた……のではない。

 マンドラゴラは引き抜かれた時、悲鳴と共に魔力を放出する。"死の呪い"と"マンドラゴラになってしまう呪い"をかける魔力だ。

 ヴィルスは呪われた。しかし、偶然にもそのマンドラゴラは「宝能:樹王」を持っていて、オマケに付いてきたので呪いを消せたんだとか。


 マンドラゴラになってしまう呪いは即効で、消せたのは死の呪いだけらしいが、それでもヴィルスは樹王を得たことを喜んだんだと。

 その後は真実が家の外に漏れないようにしつつ、子に自分を殺させ、孫に子を殺させ……と、何代にも渡る伝統を作り、子孫を洗脳したそうだ。


「ってことは、ヴィランもマンドラゴラ?」


「その通り」


 そうだったのか。ヴィランは人間と同様の容姿だけど、一応マンドラゴラという別の生物なんだな。

 衝撃といえば衝撃。でも、これを知って何になるんだ。意味があるのか、この話をしたのには。


「……それで?」


 俺は霊戯さんに尋ねた。


「こっからだよ! いい? ヴィランによると、マンドラゴラの呪いの魔力は、自分たちの場合、殺された時に出す」


 親を殺した子が能力を継承しているんだもんな。


「つ・ま・り。僕たちが安直にヴィランを殺してしまったら、僕らまでマンドラゴラになっちゃうわけ」


 俺は思わず口を開けてしまった。

 そうか、確かに、「ぶっ倒してやる」とか言ったけど……駄目だな。人間を辞めるところだった。


「かといって中途半端に生かすのも難しいし、危険。そこで、エルミアちゃんの魔法サプレスブレイズで魔力すら出せないくらい木っ端微塵にしてやろうと思うんだ」


 魔力を浴びたらアウトなら、骨肉すら残さずに殺せば良い、か。

 ちょっと強引な気もするが、もうそれしかないな。

 どうせ他に策なんて無いんだ。ヴィランが待ってくれるわけもないんだから、やるしかない。


「分かりましたよ、霊戯さん。行くぞ、エルミア、ラメ」


 不安をポイ捨て、俺は勇気を無理矢理に出した。

 何で俺まで戦うのかって聞かれそうだが、その答えは簡単だ。

 二人の女の子を助けたい。本来の目的は、二人を異世界に帰すことなんだからな。

 だったらヴィランを半殺しにして情報を聞き出せよと思われそうだが、今からじゃ無理そうだ。



*****



 俺、エルミア、ラメは島内に入った。

 江ノ島観光は未経験だから、道が全く分からない。

 が、ヴィランの居る場所に向かうだけだ。迷うなんて事態にはならない。


 そして遂に、相手からも視認できる程近いところまで来た。いつ攻撃されてもおかしくない。


「どうだエルミア、例の魔法はいけそうか?」


 エルミアは足を開き、何か物凄く強い魔法の詠唱をしそうな構えをした。

 彼女の手が灯籠のように赤く光る。次にエルミアの目が熱を帯びたように鋭くなる。


「頑張って、エルミアさん!」


 ラメも手を握って応援している。

 頑張れエルミア、その魔法たった一つ発動させられたら、俺達は勝つんだ。


 しかしそんな思いを砕くように、エルミアの顔が濁った。

 魔法の構えは解いていないが、成功の雰囲気ではない。まだまだ力を込めているが、エルミアは唸る。


「……やっぱり……あの装甲がある限りは、サプレスブレイズは…………」


 赤い光が消えた。

 エルミアは手を下ろし、呼吸を整える。


「装甲って、木を丸ごとくっ付けたようなアレか? 効果抜群なエルミアの火魔法は無駄に使えないってのに……」


 サプレスブレイズは高火力だが、その分魔力の消費が大きい。

 激闘の後で、エルミアには魔力が殆ど残っていないから、弱い魔法だってあまり使えないんだ。


 流石にドキドキしてきた。

 どうする、俺にはできることないぞ。


 そう思っていた時、ラメが俺の肩を叩いた。


「ラメがやります!」


 ラメにはあまり見られない勇ましい表情だ。

 ファイトと言いかけるが、そこでヴィランのヤツが仕掛けてきた。


「二人とも避けて!」


「うおおぉぉっ」


 俺はラメを抱きかかえ、突然繰り出された根の槍攻撃を回避した。


「セーフ……」


「あ、あわわ、泰斗さ……」


 助けたラメが何か赤い。

 もしかして、転がった拍子に顔を打ったんじゃ。

 俺の避け方、助け方に問題があったらしい。


「大丈夫か? ラメ?」


「はい…………大丈夫、です。そんなことよりラメが……ラメがやります!」


「お、おお……任せたぞ! 情けないことに俺は戦えないからな!」


 俺は剣を持ってはいるものの、敵が空で、しかも陸から少し離れているから、火の斬撃じゃ到底通用しない。霊戯さんが使ったから魔石の魔力が減ってるし。


 ラメは両手を前に出した。

 だが、水もクリスタルも放たれない。

 彼女は思い出していたのだ。あの恐怖と後悔で溢れる情景を。

 自分の手で、今やろうとしている「水魔法を飛ばし、直後に水をクリスタルに変える攻撃」で水沢さんを殺してしまったことを。

 まだ過ちを乗り越えられてはいないんだ。


 ラメの手は流氷漂う海に突っ込んだようにぶるぶると震えている。

 純白の髪がグレーに染まったように見えてくる。

 俺は見ていられなかったから、ラメの肩に手を回して囁くように言った。


「大丈夫だ。安心しろ。ほら、俺がついてるから」


 実に気持ちの悪いセリフだ。

 けど、それを聞いたラメは心なしか元気を取り戻したように見える。覚悟を決めたように見える。


 ヴィランが自分の手のように扱っている植物と、ラメの高速クリスタルが、正面でぶつかった。

 速度、力のどちらにおいても勝っていたのはラメだった。

 その光景は、まるで風船を爪楊枝で割ったときのようだった。


 続けて水魔法ウォーターウォール。

 小さな滝が現れ、重なる攻撃を防いだ。


「ラメちゃん凄い!」


 エルミアから褒められるとは、ラメも大したもんだな。

 エルミアはこういう時、お世辞を言ったりはしないから。


「ただ、防御しててもキリがない。何とかしてデカい球の部分にクリスタルを当てられないか?」


 無茶な要望だろうか。

 でも困難だろうとやってもらうしかないんだ。

 ラメのこの戦い方も、魔力が尽きたら終わり。それまでに中心の装甲を壊さないと。


「遠くて当てられそうにないですっ」


 やっぱりそうか。

 弾はどこまででも飛ぶが、狙いが定まらなければ当たらないからな。

 どうにかできないか。考えろ。考える役は俺だ。


「……そうだ、別に水ならなんだっていいんだろ? 俺の記憶が正しければ、水流を操作する魔法があった筈だ。それと組み合わせれば……!」


 都合の良いことに、ここは島。戦場は海に囲まれている。

 必要な水は使い放題だ。海の水を魔法で操作し、デスワームのような形のクリスタルを無理矢理ぶつければ良い。


「泰斗さんが言うなら……やってみます!」


 ラメはそう言うと、海のすぐ側まで移動した。

 俺とエルミアは後ろで見守る。


 メガロドンが暴れたように海水が持ち上がり、特大サイズの海蛇のような水流がヴィランの植物太陽まで飛んでいった。

 直後、それは海から植物太陽まで続くクリスタルに変化。

 木の装甲は少しだけ砕けたようだ。


「やった! 効いてるぞ!」


 と喜んだのも束の間、ヴィランはクリスタルを中腹辺りで切った。

 家一つは破壊されそうなクリスタルが墜落したヘリのように落ちてきたんだ。


「ファイアベール!」


 エルミアが俺を守ってくれた。

 今使われたのは火魔法ファイアベール。

 魔力が少ないというのに、俺のために。


「もうこれで、本当に最後……」


 サプレスブレイズのためには、もう魔法は使えないってことか。

 罪悪感が残る。が、考えても仕方ない。


「ありがとう……エルミア」


「どういたしまして……は、良いんだけど………………見て、装甲が再生している」


 俺は驚いて見上げた。

 少しだけ砕けて、中の暗黒が見えていた植物太陽。

 その傷を治すように、うねうねと動いている。


「……全部ヴィランの意思か?」


「……多分、ね」


 ちょっとやそっとの傷じゃあ無意味。

 ラメのお陰でそんな最悪な事実が露呈したよ。


「……うぅ、泰斗さんどうすれば……」


 辛いのはラメだ。折角の攻撃が無意味に終わったのだから。


 しかし、どうする。

 この分じゃ、装甲を完全に破壊するのは不可能だ。

 ラメへの信頼の問題ではない。絶対に無理だ。

 なら、一部を破壊して……でもそれじゃあ、エルミアのサプレスブレイズが成功しない可能性が高まってしまうのか。


「何かないか……この状況を打開できるモノ!」


 ズボンを掴んで悔やもうとしたら、手に謎の感触があった。

 ポケットに……何か、入っている?

 コロコロとした感触だ。石か、ビー玉か?


 手を突っ込むと、透明な石が出てきた。


「それ……純魔石! それも、魔力が全く入っていないやつ」


 エルミアはそう言った。

 確かにこの見た目は、純魔石に見える。俺がよく知るのは、憎い幻術師べべスの濃い魔力が入った紫色に光っているやつだけど。

 でもこれ、見覚えがあるぞ。どこだったっけ。


「いつ拾ったんだ?」


 ………………あ、そういえば。

 水沢さんが死んだあの日。ヴィランから逃れようとして、エルミアが使った純魔石。空になったそれを、俺が拾ったんだった。

 その後、純魔石をポケットから出した記憶は無いから、そのまま洗濯していて……。

 次に同じズボンを履いたとすれば……ラメ捜索で気を失って、その間に服を替えてもらった時か。

 そしてその後は、いつ何が起こるか分からないからと風呂に入っても着替えず、今に至る。


「ラメちゃん。この魔石に魔力を込めて」


「えっ? ……はい」


 純魔石を取られた。何をする気なんだ?


 ラメが純魔石を握ると、淡い光が漏れた後、ほんのり光った純魔石が出来上がった。


「純魔石は濃い魔力以外は同じものにしてしまう。それは無属性魔法と似たものとされていて、例えば、誰かを吹っ飛ばすこともできる。利用しよう、これを」


 エルミアは何か思い付いた様子だ。

 ドキドキする顔でわかる。


「二人ともよく聞いて」


 エルミアは俺とラメを集め、説明した。


「まず、ラメちゃんが中くらいの大きさの穴をアイツに開ける。その次に、泰斗君が遠くから純魔石を使って、中のヴィランを吹っ飛ばす」


 そこまで説明され、俺は漸く理解した。


「吹っ飛ばされたヴィランを、私が仕留める」


 そういうわけだ。

 純魔石があるとは、何て偶然。

 でも助かった。現在考えられる中で最高の作戦だろう、これは。

 よーし、やってやる。ヴィランにも色々と辛いことがあるらしいが、勝って生きるのは俺達の方だ。

第90話を読んでいただき、ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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