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第8話 探偵

 いよいよ調査に取り掛かる。無論パソコンを使って。

 エルミアは会話はできるものの現世の文字は読めないようなので、俺が調べて俺が読むことにした。


「茶色、装束、事件で検索っと」


 取り敢えず、エルミアが召喚された事と関係のありそうな、あの茶色い装束の男達についての情報を調べてみることにした。

 茶色の装束なんてそうそう見掛けるような衣装じゃないから、何かの事件に関与した例があるならヒットする筈だ。


「凄い……虫が蠢いてるみたい」


 俺が文字を画面上に入力する様を、背後から覗き込むエルミアはそう形容した。

 文字が次々と画面に表示されていくところを見ていると、本当にそう見えてくる。

 言わんとすることは分かるんだけど……もう少し良い例えは無かったのかな。


「あ、出た」


 検索結果が画面に表示される。


「茶色の衣装ネット通販……装束とは何か解説……」


 まあ、そうだよな。そんな簡単に狙った情報が出てくるわけは無いし。

 しかし、これで駄目なら手詰まりだ。

 俺は両手で頭を押さえ、軽く仰け反った。俺の体重で椅子がガタッと音を立てて揺れる。


「ねえねえ」


 苦悩する俺を引き戻したのはエルミアの一声だった。いや、「ねえ」を二回繰り返したから二声の方が正しいか。

 エルミアは続けて


「これはどう?」


 と言い、画面の一部分を指差した。

 彼女の指に沿って視線を移動させると、一つの記事があった。困窮のあまり視野に入っていなかったらしい。

 俺は彼女に教えられた記事の概要を読み、目を丸くした。思わず体が前のめりになり、マウスを握る右手に力が入る。


「最新ニュース、町中で二人の遺体が発見される……現場には、不審な茶色の装束が!」


 これだ。間違いない。

 俺は歓喜し、椅子から飛び上がった。


「でもこれ、罠なんじゃ……」


 エルミアが指摘した。彼女の言う通り、俺達を誘き寄せるためのものだとは容易に考察できる。

 だが、現場は既に警察がいるだろう。

 ある程度の安全は確保されているし、見物や聞き込みくらいなら問題無い筈だ。


「確かに罠っぽいけど、警察が居るから大丈夫。それに、ここで動かないと折角の機会が無駄になる」


 俺はエルミアを説得し、現場で調査する旨を伝えた。


「そうだよね、勇気出さないとだよね! じゃないと元の世界に帰れなくなっちゃう」


 エルミアは同意しながらも若干の躊躇いが窺える表情だった。

 彼女が危惧しているのは、現在の自分に万が一の事態に対応できる戦闘力が無いからだろう。現場へ移動する時間を加味しても魔力は大して回復しないように思える。


 ――俺が守らなきゃな。


 俺はそう覚悟し、外出の準備を進めた。

 赤いライン入りのジャージに中くらいのリュックサック。スマホと財布と緑茶。

 加えてエルミアから貰った剣を入れた。


 対するエルミアには青いライン入りのジャージを着させた。魔法使いコーディネートだと目立つし怪しまれるからな。


 目的地は家からかなり離れているが、バスに乗って行けば短時間で到着できる。

 昨日と同様にエルミアは窓から外に出、俺は母に「出かける」とだけ言って玄関から外へ出た。エルミアには大変申し訳無い。


 コンビニ近くのバス停に来た。少し待つとバスがやって来る。


「あの鉄の獣も電気っていうので動いているの?」


 エルミアは俺に純粋な眼差しを向ける。

 鉄の獣って言われると車が一気に怖い物になるな。


「電気もそうだけど、他にも色々あるんだ」


「へぇー」


「今から乗るバスはもっとでかいぞ」


 そんな話をしていると、バスが目の前まで走って来ていた。エルミアはやはり興味津々な様子でバスを見つめている。

 俺達はバスに乗り込み、後部座席でガタガタ揺らされた。



*****



 家を出て三十分が経つ頃、目的地に近いバス停に着いた。ここから徒歩十分の場所が目的地だ。


「あっ、あそこじゃない?」


 警官が数人と立ち入り禁止のテープが張られた場所がある。一般人は居ないようだ。


「もしかしてこれ、近付くの駄目なのか?」


 事件現場は野次馬が集まってるイメージがあったために近寄っても問題無いんだと思っていたが、あの体勢を見るとそうではなさそうだ。


「うーん、まあ一応聞いてみるか」


 俺達が立ち入り禁止のテープに近寄ると、一人の警官に足止めされた。

 電話と実際に目にするのとでは警官から感じる風格というか、オーラが違う。厳格且つ冷静な雰囲気に息が詰まる。


「ここは立ち入り禁止だ、分かるだろ? 子供は危ないから帰りなさい」


 警官はそう言いながら手でシッシッと俺達を払った。俺には警官を説得できる程の能は無いし、他の方法を模索するしか無さそうだ。


「少し覗くのも駄目ですか?」


 エルミアが説得を試みるが、当然聞き入れてはもらえなかった。

 俺が行き詰まった現状に落胆して溜息を吐くと、エルミアも同時に溜息を吐いた。

 折角の遠出だったのに、成果の一つも挙げられずにとんぼがえりは気分が悪い。


「駄目だったね……」


 エルミアが残念そうに言う。


「そうだな……」


 ――ブロロロロ。


 車の走行音が耳に入った。

 一台の黒い軽自動車がこちらに向かって来る。俺とエルミアが道路の左脇に避けると、俺達の前を通り過ぎて停車した。すると、運転座席側のドアから見知らぬ男が出てきた。

 身長は俺より高く、恐らく百八十センチ程度。灰色のジャケットを着ていて、中にはシャツが見える。

 金色の髪はちょっと長めで、目は青い。美しく整った顔で、男性の理想と言える。

 絶対モテるだろこいつ。


 明らかにこの事件に関わりのある雰囲気で、エルミアもそれを感じ取ったのか、


「誰だろうあの人?」


 と、小声で言った。


「さあ……」


 男は警官に近寄り、何やら話をしている。警官の方は真面目な表情だが、男の方は愉快そうな表情だ。会話は主に警官が喋り、男が時々頷きながら聞いている。

 警官が俺達の方を指差して何か言っている。馬鹿な子供がやって来たんだ、とかそんなところだろう。


「ねえ、あの人に聞き込みしてみない?」


 エルミアが一つ提案した。


「いやいや、まだ誰なのかも分からないんだし……」


 俺は最後まで言わずに口を止めた。エルミアの目を見たからだ。

 本気の目。覚悟が感じられた。

 エルミアがそこまで考えているなら、俺も甘んじて受け入れてもいいか。


 俺達は未だ会話を続ける二人の間に割り込んだ。


「すいません、ちょっといいですか」


 俺が声をかけると警官に「また来たのか」と言わんばかりの、冷然な眼差しを向けられた。

 警官が口を開くと、それを遮断するように男が言葉を発した。


「なんだい? 随分とここが気になっているようだけど」


 男は俺達に対しても愉快な様子だ。口角が上がっていて、警官とは態度が真逆といえる。

 何となく不気味に感じるが、冷たく当たられるよりはずっとマシで話しやすい。


「私達は……ええっと、一般人と言えば一般人なんですけど」


 エルミアが話し出すと、警官がすかさず突っかかる。


「だったら何故執拗にこの中を見ようとするんだ? 子供は邪魔になるから早く帰れ」


 警官は声を荒げた。エルミアもその気迫に押される。

 男はそんな警官を宥めるように、


「そんなに怒らなくても。彼らの言い分を聞くくらい、いいじゃないか」


 と言い、右手を警官の前に出した。

 どうやらこの男は俺達の話を聞いてくれるらしい。ありがたいことだ。男は続けて、


「僕は探偵をやっているんだ。今日も依頼を受けてここに来たんだよ」


 と言った。探偵……この言葉が一筋の光になった。これは期待できるんじゃないか? 警察が相手をしてくれなくてもこの人なら力になってくれそうだ。


「タンテイって?」


 エルミアが首を傾げた。異世界には探偵とかいないんだな。


「探偵っていうのは、犯人を見つけ出して事件を解決する人……ってとこかな」


 俺がエルミアに説明すると、探偵の男は声を出して笑った。


「俺なんかおかしなこと言いました?」


 突然笑われると調子が狂う。一体何で笑ったんだ?


「ああ、ごめんね。君の中の探偵のイメージがあまりにも良いものでね。探偵なんてそんな危なっかしい依頼は少ないし、生活も結構苦しいんだよ」


 へえ、そうなのか。難解な事件をバンバン解いていくイメージしか無かった。


「でも、今日の依頼は結構なものですよね?」


 エルミアが尋ねる。


「ああ、そうだね。数ヶ月振りかな」


 ずっと笑顔だったのは久し振りの依頼で嬉しかったからなのか? 分からないが、嫌に思ってはいないようだ。


「少し話が逸れたが、君達はこの中が気になるんだろう? だが、残念ながら入ることは許可できない」


 まあ、そうだよな。


「じゃあ……」


 エルミアの顔が曇る。


「ああ、安心してくれ。後でしっかり伝えるよ。君達にも何かわけがありそうだしね」


 おお! 情報を伝えてくれるのか。

 俺とエルミアは顔を見合わせ、喜びを交差させた。


「ここから少し歩いた所にカフェがあるんだよ。そこで待ち合わせよう」


「いいんですか!?」


 警官がそう言ったが、彼は返事もしないままテープを潜って中に入っていった。

 第8話を読んで頂き、ありがとうございました! 今回辺りから徐々に、徐々に話が広がっていきます。

 因みに今回初登場した探偵さんは現時点では三十歳なんですよ。


 それでは、次回もお楽しみに!

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