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第71話 エルミアとラメの異世界教室②

 世界地理の次は魔力と魔法だ。


「まずは魔力について」


 エルミアとラメは丁寧に説明してくれた。

 俺もまた要約してみる。


 俺達の抱く魔力のイメージは、紫色のモヤモヤとか青色のモヤモヤだ。

 マジックポイントの概念が存在し、魔法や技を使用する度に決まった分だけ消費する。

 基本的に不可視だが、なんか光っている。


 異世界の魔力と共通する点は幾つかある。


 異世界人は個々が魔力を持っている。これがマジックポイントだ。

 魔力量には限界があり、それは人によって違う。だが、一生限界値が変わらないわけではない。

 魔力を頻繁に使うと限界値が上昇することがある。

 レベルアップみたいなもんだ。

 限界まで魔力を消費すると、当然魔力は使えなくなる。

 魔力は時間の経過によって回復するが、その速度にも個人差がある。

 魔力を限界まで消費した時の魔力量は「0」だと思いがちだが、実際はほんの少しだけ残っている。余りに少量過ぎて何もできないだけだ。

 魔力が枯渇すると力が弱り、程度によって様々な症状が出てしまう。エルミアも何回かその状態に陥っていた。

 マジックポイントのように細かな数字は決まっていないが、体力ほど漠然としたものでもない。


 魔力は人によって濃さが違う。

 魔力が濃いと、その人がよく使う魔法などの効果が魔力そのものに乗っかることがある。

 べべスなんかがそれだ。

 勇者の伝説では、仲間の魔法使いが体を引き裂かれた時体内の魔力が炎を宿していたから大爆発した。

 他にも、回復魔法を極め過ぎて身体が欠損しても普通に治る奴がいたりするようだ。


 魔力は目に見えない。


「魔力の濃さなんてゲームじゃ有り得ないよなー」


「ゲームには無いんだ?」


「少なくとも俺は、一度も見たことないな」


 俺の見せたゲームが異世界にかなり近かったから、エルミアは意外そうにした。

 ラメはゲームと言われてポカンとしている。冬立さんは娯楽でゲームなんかやらないだろうし、知り得なかったのだ。

 後で教えてあげよう。何なら一緒にプレイしても面白いかもな。


「なぁ姉ちゃん……俺全然わかんねぇんだけど」


 透弥はつまらなそうな態度で咲喜さんに構ってもらおうとしている。

 エルミアは他人に何かを教えるのがお世辞にも上手いとは言えないから、透弥みたいなのがこうなってしまうのも無理はない。

 俺はしっかり耳から脳まで通したけどね。



*****



 次に説明されたのは、(魔力変換)魔法陣についてだ。


 異世界人が魔法を使う時は体内の魔力を体外に放出する。

 その際に魔力が通る場所――それが魔法陣。

 魔法陣を魔力が通ると、主の任意の魔法に変換される。

 火魔法を使うなら魔力が火になるし、水魔法を使うなら魔力が水になる。

 魔法陣の形や模様は魔法の習得状況や魔力量によって変化する。何故そんなことが判るのかというと、エルリス魔法王国の魔法科学者が最近になって他人の魔法陣を目視する方法を見出したからだ。

 エルリス魔法王国は最先端の魔法技術を誇っているため、そういった発見は大体ここである。


 魔法陣は基本的に一人一つ、生まれた時に土台が決まる。

 よって、魔法の習得状況や魔力量が同じでも、全く同じ魔法陣になることは有り得ない。


 王家の人間はその地に生息する精霊の魔力を頂き、特別な魔法陣を体内にもう一つ作り出す。

 王家の人間は魔法の能力を強化したり、特別な魔法を使えたりするのだ。

 そんな二つの魔法陣を通して繰り出す魔法は「神來魔術」と呼ばれる。

 また、魔法陣が二つなので「二重術式魔術」とも呼ばれる。


 エルミアも王家なので神來魔術師だ。

 それだけでなく、エルミアは特殊な鍛錬により三つ目の魔法陣を作り出してしまった。

 つまり「三重術式魔術」だ。

 三つ目は好きな時に体外に出せるが、それ故に十分な空間が無かったり魔力の道を遮られたりすると三重術式魔術は使えない。


「すげえええ」


 俺は瞳を輝かせてエルミアを褒めた。

 王家ってだけでも凄いのに、その中でもごく一部の三重術式魔術の使い手。

 素直に褒める他ない。


「えへへ……でも、勇者の伝説の魔法使いは王族でもないのに四重だったし……まだまだ凄い人はいるよ」


 そんなご謙遜を、とビジネスマンのように言いたくなる。

 だがエルミアは満更でもないようだった。

 うんうん、可愛い。


「ラメも凄い魔法使いたいです」


 ラメは子供らしく憧れの目でエルミアを見上げている。


「ラメちゃぁぁぁぁっ……ラメならできると思うよ。まだ小さいから伸び代もあるし」


 最初に酷い呻きみたいなものが聞こえたが、スルーしよう。

 伸び代は確かにありそうだ。


「そういえばラメってどんな魔法を使えるんだ?」


「私は水魔法が得意ですっ。水の流れを操るストリームだってできるんですよ!」


 水の流れを操るか。そりゃすげえ。

 トイレが詰まったときでも安心だな。

 近所の川ででも見せてもらおう。



*****



 異世界教室の続きは翌日に持ち越された。

 で、今日がその翌日だ。


 霊戯さんが冬立さんと通話し始めた。


「あー、はいはい。霊戯ですよ」


『今夜ラメを迎えに行く。そのまま伝えてくれ』


 冬立さんのせっかちさが電話越しでもわかる。

 せっかちというより霊戯さんと話したくないだけかもしれないが。


「ラメちっ……つつつ……ラメー。冬立さんが夜迎えに来るってさ」


 この人のちゃん付け癖はいつになったら治るんだろうか。

 そろそろ冬立さんに怒鳴られるぞ。


『オイ! 崖から落ちる寸前で止まったからといって許されると思うか。ラメ自身がどうこうではなく私の身に寒気が――


「はい冬立さん落ち着く。霊戯さんもう治らなそうなんで、俺に免じて許してください。ね?」


 俺は超特急で霊戯さんのスマホを手に取り、冬立さんを治めた。


「……く、お前に免じるなど……イヤ、ココアの件があったな。……わかった。お前の居るところでなら許そう」


 冬立さんは渋々了承した。

 ココア一つで人の心を動かせるとは。

 人生のメモに……書かなくていいや。

 この手段が有効なのはこの人だけだ。


「お、ナイス泰斗君」


 霊戯さんが親指を立てるので、俺も同じ形を作って対応した。


「今日ですか?」


 ラメが来た。


「うん、今日」


「冬立さんにも会いたいけど……ここにもう少し居たいです」


 ラメはお泊まりの終わりを悲しんでいる。

 これにはやっぱりエルミアという存在の影響が大きいだろう。

 この世界で共に暮らした冬立さんと異世界のことを語り合えるエルミアでは天秤が釣り合う。


「そっかぁ。じゃあ冬立さんが明日こっちに来るっていうのはどうですか?」


「私はそれでも構わない」


 冬立さんはちょっぴり悲しそうな声色になった。

 クールキャラかと思えば変人キャラで、変人キャラかと思えば人情キャラだ。

 キャラが多いよこの人。



*****



「異世界教室、今回は魔法について!」


 ということで魔法の解説が始まった。

 毎度のことながら、俺が要約してみる。



*****



 魔法は大きく分けて五種類ある。

 もっと細かく分けると十八種類だ。


【無属性魔法】


 読んで字のごとく、属性の無い魔法。

 この中でも二つの分類がある。


「物体操作魔法」


 物体を操作する魔法。

 ほうきで空を飛ぶ魔女が使うようなやつ。


「波動魔法」


 波動を飛ばしたり属性の無い球を飛ばしたりする魔法。

 どんな相手に対しても有効なので、魔法初心者が真っ先に習得する。


【有属性魔法】


 無属性魔法とは対照的に、属性のある魔法。

 属性は火、水、風、土、雷、氷、闇がある。

 それぞれの特徴は説明するまでもないだろう。


神祈(しんき)魔法】


 神に祈って色々やる魔法。

 その性質上批判されることも多く、一部では禁忌とされている。

 神祈魔法も二種類に分かれる。


「回復魔法」


 生物の傷を癒したり、痛みや疲れを消し飛ばしたりできる魔法。

 死んだ者を蘇らせることはできない。


「浄化魔法」


 有毒な物質を消す、アンデッドやゴーストを殺す、神聖な場に立ち入る準備、など色々なことができる。

 神官のほとんどが浄化系統の魔法を習得している。


【転移魔法】


 移動する、させるための魔法。

 魔法陣を出現させるが、例外的に魔術とは呼ばれない。 


【変魔術】


 とにかく多彩な魔法。

 発動する際に魔法陣を出現させる。その魔法陣は魔力を変換させるものではない。

 じゃあ何なのか。それは未だ解明されていない。

 神來魔術、〇重術式魔術、変魔術の三つはどれも魔法陣が関係しているため、魔術と呼ばれる。

 変魔術は六種類ある。


「召喚魔術」


 生物を召喚する魔術。

 召喚魔術からさらに二つに枝分かれする。


・契約召喚魔術


 術師が契約を交わすことで、いつでも好きな時に対象を召喚することができる。

 術師は契約の対価を支払わなければならない。

 また、召喚の対象が死んだら魔術は成立しなくなってしまう。それは召喚する前でも後でも同じだ。


・具現召喚魔術


 手駒を召喚する。

 契約召喚魔術と違い召喚の対象は戦いの最中に死んだとしても何度でも呼べる。

 というのも、具現召喚魔術は現実で生きている生物を召喚するのではなく、手札からカードを選んで場に出すような感じなのだ。

 カードゲームみたいな魔術である。


「罠魔術」


 魔力で罠を仕掛ける魔術。

 基本的には無属性だが、有属性魔法と組み合わせることで特殊な罠を作れる。

 エルミアがこの前やってた。


「幻術」


 あのべべスが得意とする、対象に本来とは違ったものを見せたり感じさせたりする魔術。

 五感をやられる。


「利便魔術」


 生活する上で便利な魔術。

 ラメが使ったアンテムもこれの一種。


「その他」


 その他、色々。


【混合魔法】


 魔法の分類の中にはない。

 二つの魔法を組み合わせたものをこう呼ぶ。



*****



 透弥がウトウトと首を揺らし始めた。

 俺は頭の中で整理しながら聴いているため、理解もできるし眠くもならない。

 俺は優等生だな。


「こらっ! 透弥さん寝ない!」


 ラメがぷんすこしている。

 エルミアは透弥になんて構わず続けたいようだ。


「最後に種族の話」


 最後に種族の話です。

 頑張りなさいよ、透弥さん。



*****



 生物の種族(植物とただの動物を除く)は主に八種類ある。


 人族、獣人族、亜人族、魔族、魔獣族、宝魔族、魔龍(竜)族、神族。


 人族と獣人族は大体予想できるので、それ以外の六種について。


【亜人族】


 獣人族とは違い、かといって魔族とも違う種族。

 限りなく人族に近い魔族、というのが最も正しい解釈だろう。

 ラメがこの種族。


【魔族】


 スライム、ゴブリン、オークなどがこの種族。

 一定以上の知能を持ち、且つ魔力を持つ植物はこれに分類される。

 多分これで説明完了だ。

 因みに俺が「スライムとかかー」と言うとエルミアが顔を赤くして「スライムなんて言わないで……」と言ったので、俺は異世界のスライムは物を溶かすことのできる生物なのだと悟った。


【魔獣族】


 魔力とそれを制御できるだけの知能がある獣。

 群れを作る種が多い。


【宝魔族】


 魔族や魔獣族の中でも神クラスの奴がこれ。

 例を挙げると神官を倒したら出てくるラスボスとかだ。

 これを二人に話したら勿論困り顔をされた。


【魔龍(竜)族】


 漢字がどっちか判らない。

 人間サイドだろうと魔物サイドだろうと、龍なら全部これに分類される。


【神族】


 神クラスの生物。

 異世界では、精霊のことも神と扱っている。

 精霊の魔力からなる王家の魔術が神來魔術と呼ばれるのもこれが理由だ。



*****



 これにて異世界教室は閉講した。

 流石に忘れそうだが、その都度質問すれば良いだろう。

 エルミアの赤面が見れただけでも満足だ。


 透弥に俺が原因だということがバレて「何であんな長ったらしいものを」と詰問を受けたが、女の子と仲良くするためなんて言えない。

 言えないので黙っていたら、透弥は咲喜さんに連行された。


 まあたまにはこういう平和な時間があっても良いだろう。

前回と今回は設定まとめ。

話の中で出てきた時に設定思い出す用です。


第71話を読んでいただき、ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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