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第6話 調査難航

「死体の処理、どうしよっか」


 エルミアが突然そう聞いてきた。

 怖い事言うなあと思ったが、まあそれもそうか。この様子だと俺をここまで運ぶ事を優先して白装束の奴等は放って置いたようだし。


「泰斗君はあれを見るのは嫌だろうし……私一人で行こうと思うんだけど」


 いやいや、心配ご無用。

 協力しといて後片付けは女任せとか、そんな無責任なことはしない。


「俺も行くよ」


「え、じゃあ――


 エルミアが言いかけたところで、部屋のドアがトントンとノックされた。

 母だ。親というものは何故こんなにもタイミングの悪い生き物なんだろうか。


「お母さん呼んでるみたいだから、私は出るね」


 彼女はそう言って窓を飛び出した。

 俺が母に対応しなければ「朱海泰斗失踪事件」が発生するワケだし、仕方の無いことだ。

 窓とカーテンを閉め、ドアを開けた。


 すると、案の定ノックの主は母だった。


「何の用?」


 母が話し出す前に俺が言った。


「さっきリビングの窓から外を見たら、ゴミとか葉っぱが沢山散らばっていたの」


 俺は察した。恐らく……というか絶対にエルミアの仕業だ。

 彼女は家に入る際、風の魔石を使ったと話していた。ここは二階なので風を起こして浮き上がった、と予想できる。

 その風に巻かれて周辺のゴミやら葉っぱやらが散布したんだろう。

 やったのはエルミアだが、俺が気絶した事が間接的な原因になっているので少し罪悪感を感じた。

 だが、出会った女の子の魔法で散らかりました……なんて言えるわけもなく。


「知らないな、野良猫でもいるんじゃないの?」


 適当に誤魔化した。


「知らないならいいの」


 疑われることも無くあっさりと話が終わった。

 俺はすぐにドアを閉め、母を帰らせた。


 この調子だと、エルミアの存在どころか魔法を使った形跡さえ誰にも気付かれないようにしなければならなそうだ。

 まあ、これに関しては魔法を無闇矢鱈に使わなければ良いだけの話だが。


 にしても、エルミアは凄いな。

 俺の部屋には初めて入ったのに、タオルを見つけ出して俺に掛けてくれている。

 嬉しいのもそうだが、同時にエロゲーの所在もばれたんじゃないかと思うと変な汗が出る。

 異世界人はエロゲーなんて知らないだろうが、それでも羞恥心が込み上げてくる。


 ラノベもそうだよな。

 エルミアに「この世界の書物だ!」なんて言って読まれたらたまったもんじゃない。

 今の内に隠蔽しておかなければ。クローゼットの奥に置いとけば見つからないかな。


 俺は本棚の書物達を素朴な服に塗れたクローゼットの最奥部に仕舞い入れた。これで良し。


 ――バシャッ。


 窓の方向から水が掛かったような音がした。

 俺が見てみると、予想通り窓は水で濡れている。放置したら跡ができそうな具合だ。

 窓から家の外を覗くと、エルミアがこちらに手を振っている。

 彼女の持つ魔石の中には青いものもあったので、恐らくそれが水の魔石なのだろう。それで水を出して注意を引こうとした。

 にしても、案外帰りが早いな。


 俺は一階に降りて玄関のドアを開けた。

 二階から見ているだけでは距離があって気が付かなかったが、エルミアは少し狼狽している様子だった。


「エルミア、どうしたんだ?」


 俺が聞くとエルミアは答えた。


「死体が……無かったの」


 耳を疑った。予想外の返答だ。

 ポケットに入っているスマホを取り出し、時刻を確認してみた。九時四十五分。

 最初に家を出た時刻が九時十分頃だったので、戦闘や行き帰りの時間を十五分と仮定しても二十分しか経過していない。


「近くに人はいなかったのか?」


 現場周辺にいた人が警察に通報した可能性もある。


「いなかった」


 周辺に人がいないとなると、本格的に謎だ。

 誰かが死体を発見し通報したのなら発見者……到着が早ければ警察もいる筈だ。

 そのどちらもいないのなら、通報は無かったということになる。夜中とはいえ、道の真ん中に死体が三つ転がっていて二十分間誰も気付かないとは考えにくい。

 すると、何者かが回収したという説が浮上してくる。


「じゃあ、近くに何かの痕跡は?」


「それも無かった……どころか、焦げた道も綺麗になってた」


 回収した人物は随分と丁寧なんだな。

 しかし、何の痕跡も無いならそこらに住んでる素人の仕業ではなさそうだ。

 相当な手練……それこそ、彼等の仲間なのではないのだろうか。


「あ、でもすぐに帰ってきちゃったから、よく探せば何か見つかるかも」


 エルミアが言った。


「じゃあ、もう一度見に行ってみよう」


 現場はしっかり確認しないとな。


「じゃあ、これを使おう」


 エルミアはそう言うと手元にある青い魔石を掲げた。窓に水を掛ける程度では魔力は無くならないらしい。

 すると、俺とエルミアの足元に水が現れ、サーフィンしているような状態になった。

 水は勝手に動き、俺達は足を動かさずとも運ばれて行く。


 ものの十秒で現場に到着してしまった。青い魔石の光はいつの間にか消えている。

 そして、俺達は早速現場検証を開始した。


 周辺を隈無く探したが、エルミアの証言は正しかったようで、これと言った痕跡は見当たらなかった。

 死体や血痕、地面の焦げは全て消えていたのだが、俺を守ってくれた電柱には銃弾の跡があった。

 流石にこれは消せなかったらしい。

 しかし、痕跡が見つからないのは俺達が探すからかもしれない。

 警察を呼んで捜査してもらえば何か一つは見つかってもおかしくない。


「エルミア、スマホ……あー……何て言えばいいんだろう、遠くにいる人でも連絡を取れる機械があるから、それで警察……傭兵みたいな人達を呼んでみるよ」


 住んでいる世界が違うとここまで会話に支障が出るんだな。

 俺が「異世界」に精通していたからスムーズに会話できていたけど、俺がこの世界を説明するとなると大変困難だ。


「こっちの世界にはそんな物があるんだね! お願い」


 召喚されたのがエルミアじゃなかったら俺詰んでたかもな。


 ――プルルルルルル。


 まさか警察に通報しなければならない状況が訪れるなんて思っていなかった。

 生涯引きこもり生活だと思っていたから尚更ね。


『はい、百十番警視庁です。事件ですか? 事故ですか?』


 男性の声だ。耳が震える。


「ええっと、事件……なんですけど、俺と友達の女の子が殺してしまって」


『はあ? ……ああ、はい』


 警察の人が戸惑うような声を上げた。当然の反応だろう。


「それなのに、死体が無いんですよ! さっき殺したのに!」


 伝えるべき事を伝えるのに必死になり、思わず声を荒らげてしまった。


『それはいつですか?』


「二十分程前だと思います……多分」


 続く質問に答える。


『そんなに前なら何故すぐに通報しなかったんですか?』


「え――


『子供の悪戯だろう』


 今まで話していたものとは違う声が聞こえた。


 ――ガチャッ。


 通話を切られてしまった。警察ってこんなものなのか。

 もっと真摯に対応してくれると思っていたのに。

 これ以上同じところに掛けても同様の対応をされるだけだろう。


「駄目そう?」


 エルミアが不安そうに聞いてきた。


「駄目そう」


 俺はきっぱりと答えた。


「そっか……」


 警察に頼れないなら、パソコンで調べるぐらいしかできることは無いか……。

 何より、ここに留まって居ても意味が無いことは分かった。


「俺の家には色んなことを調べられる機械があるんだ。それで頑張ってみよう」


 俺はなんとか言葉を選んで少しでも彼女が元気になってくれるように尽くす。


「そんな物まであるんだ? じゃあそれでやってみよう!」


 そうと決まれば帰宅しよう。

 だけど、結局振り出しに戻ってしまっている。そんなマスは踏んでいないぞ。分かったのは茶色い装束の集団がエルミアを狙っているということだけ。

 パソコンで調べるとは言ったが情報が少な過ぎて調べようが無い気がする。

 どうしたもんかな……。



*****



 また部屋に戻って来た俺達だが、もう十時なので今日のところは寝ることにした。

 だが、一つ問題がある。それは……


「それ、着替えないと寝れないよな」


 エルミアは大きなローブを着ていて、流石に寝にくいだろう。

 しかし、俺の家には母の私物を除いて男物の服しかない。


「俺の服しかないんだけど、それでもいいかな?」


「うん、別に着れるならいいよ」


 良かった、拒絶されなくて。お前の服なんて着たくない! みたいなこと言われたらどうしようかと思っていたところだ。


「そこの中に入ってるからさ。俺はあっち向いてるよ」


 これは決してフリではない。決して彼女の隙を見てチラ見しようとは思っていない。

 いや、本当に。


 俺は床に敷かれた布団に転がり、クローゼットの反対方向に体を向けた。

 布団は二つあり、一人一つ使うと既に決めている。

 ただ、布団を隣接させると添い寝のようになって俺の気分的にもエルミアの気分的にも落ち着かなくなるだろうから、少し離してある。


「あっ、これこの世界の書物? 絵が綺麗だね!」


 ――あっ。


 俺は全てを察した。ラノベが見つかってしまったんだ。クローゼットの奥に仕舞い込んだのが裏目に出た。


「それは見ちゃ駄目だ!」


 俺は感情に身を任せ、ラノベを取り上げるべく布団から飛び出した。

 だが、俺の目に映ったものはそれよりも重要且つ俺に衝撃を与えた。


 クローゼットの前にいるエルミアは上半身、下半身共に下着一枚だった。

 胸の大きさなんて詳しくないけど、時折耳にする日本人の平均と比べたら大きいぐらい?

 下着は上下どちらも薄いピンク色……王族だけあって刺繍された模様は美麗で見惚れてしまう程の出来。


「ひゃあっ!」


 ――ドカァッ。


 豪快な音と同時に強い振動が頭に伝わる。

 熱い。火属性魔法を使われた!?

 ……なんてことはない。

 軽く殴打されるだけで済んだようだ、その内腫れそうだけど。

 エルミアは掛け布団を身体に巻いて俺に軽蔑の視線を向けている。加えて顔が赤い。

 そういうつもりじゃ無かったのに。


 この調子だと共同生活は苦戦しそうだ。

 尤も、戦いの火種を蒔くのは多くの場合俺になりそうだけど。

 第6話を読んで頂き有難う御座いました。小説を投稿し始めて早二週間、ちょっとしたやり甲斐を感じているところです。


 次回もお楽しみに!

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