表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/157

第43話 無益

 いくら一日の仲といえど、協力関係となり名前を教え合った人だ。悲しみは湧いてくる。


「彼女もまた、ウィンダに殺された。……随分と無惨な最期だったよ」


 霊戯さんは首を回し、玄関の方を見つめる。

 そっちの方で、命を落としたんだろうか。

 きっとそうだ。あんな乱暴な奴が屋内で戦おうなんて考えなさそうだから。


 無惨な最期。想像したくないのに、イメージを描く頭の中の筆は、勝手に進み、勝手に色を着ける。

 先日の事件や俺の所に来た偽ウィンダの主張から考えて、死に方は真っ黒焦げかバラバラ。

 どっちにせよ、惨たらしいことに変わりはない。


 俺は心の中で、静かに祈った。合掌。


「……その後……ウィンダは、どうなったんですか?」


「あっ、そうですよ! 実はまだ生きてたりとか……!」


 エルミアの質問に、俺もそれに乗った。

 単純に、疑問だったからだ。それと、もし生きていたら、という心配もあった。


「ちゃんと倒したよ。透弥のお陰でね」


 え、透弥のお陰? ……という事は、ウィンダを倒したのは透弥?

 魔石の力を使えたから? そうとしか考えられない。透弥がこの前普通に拳を受け流されてたのを、俺は覚えている。


「俺のお陰って……アイツが勝手に死んだんだろうが!」


「でも、透弥の一矢はその要因になりましたよね? 羽馬兄さん」


「うん、その通り」


 ウィンダが勝手に死んだというのと、透弥の一矢……まあ、アタックがその要因となったということ。

 その二つから考察するに、透弥が魔石か、どこかから取ってきた武器を使ってウィンダに重傷を負わせ、ウィンダは諦め自殺。

 とかだろうか。俺の頭じゃ、それぐらいのことしか考え付かないな。


「透弥、もしかして魔石が使えたの?」


「あ? ……ああ、まあな。ちょっと力入れればあんなの簡単だろ」


 それが簡単に叶わなかった男がここにいるんですけど。当たり前って顔で言わないでほしいな……。

 俺結構苦労したんだぞ、魔石を使えるようになるまで。

 しかもボードに書いてある時間は、俺がべべスと戦った時より前じゃんか。……つまり、俺は透弥に先を越されたということ。

 導かれる感情は、悔しい。ただそれだけ。

 勝ちも負けもないのに、何故か負けた気がして止まない。


「それがトドメにならなかったなら、ウィンダは何で死んだんです?」


 当然の疑問を、三人に打つける。

 透弥が魔石を使えたとか、もうそんな事は放る。俺も同じ事ができたんだからネチネチ妬んだりはしない。


 兎に角俺が知りたいのは、ウィンダが何故死んだのか、だ。

 俺と霊戯さんが合流した時の会話を思い出すと、霊戯さんは魔石を使えるかどうか一度も試していないと分かる。

 咲喜さんに関しては考察できる要素が何もないけど、今のテンションからして彼女がトドメを刺した、というのも違いそうだ。


 ……だから、二人の行動が偶然ウィンダの命を絶つことになったわけじゃない。

 やっぱり自殺説が濃厚か。


「泰斗君、もしかしてウィンダが自殺した……とか考えてる? 残念、ハズレだよ」


 俺の体はガラス製なのでは、と疑いたくなる程にピッタリ思考を言い当てられた。


 問題じゃないんだから、ハズレとか言わないでくださいよ。

 ……だって、どう考えても自殺じゃないですかこれ。一体本当は何だってんですか……?


「ごめんって、だからそんなムッとした顔しないでよ」


 どうやら俺はムッとした顔をしていたよう。

 自分じゃ判断つかないな、こういうの。


「……ウィンダはね、仲間に殺されたんだ。遠隔で。……流れはこう。透弥が水の魔石で放水、ウィンダは体から電気を出すから感電して落下。それがトドメになるかと思いきや、彼女は遠隔操作で爆破された。どこかに爆弾を仕掛けられていたんだろう」


「仲間に……!?」


 喋っている内容はかなりのものなのに、霊戯さんの語り口は至って普通。流石の彼でも人の死を楽しそうに話したりはしないけれど、何か変な感じ。


 しかし、まさか爆破とは。しかも仲間に。

 聞いたところ、廃倉庫での戦闘の後と似たような感じだな。

 何が理由で存命の仲間を殺すのか。俺はそれが分かった。


 まず前提として、ウィンダはこの世界の人間と体の構造が違う。ウィンダに限らず、異世界人は例外なくそうだと思う。

 ……だよね? ちょっと心配になってきた。


「エルミア、魔法に関係してる臓器とかってあったりするのか?」


「……んん、まあ。多分……あるかな? 私は人間だから皆んなとそれ以外の違いは無さそうだけど……。サンダーウルフなら、全然違う筈」


 エルミアには俺が何を考えているのか、しっかり伝わっているようだ。

 俺の質問の答えにプラスアルファでサンダーウルフについても話してくれた。


 まあ当然だよな。耳も尻尾も生えていて、おまけに電気だって出せるのに、姿は人間。体の構造なんて違うに決まっている。


 その前提が確定した今、俺は存分に推理する事ができる。

 まず、組織Xというのは一般には知られていない……と、思われる。

 同様に異世界や異世界人についても、一般には知られていない。こっちは確実にそうと言える。

 なら、異世界の存在を示唆してしまうような物品や痕跡が残るのは、彼等にとって不都合極まりない。何が何でも、揉み消すか証拠隠滅をするだろう。

 その方法が、爆破だ。

 体の構造が違う異世界人の死体が残るのは良くない。加えて、あの茶色い装束が残るのも良くない。

 だから、予め爆弾を仕掛けておいて、その対象が死んで動けなくなったら起爆する。そういうやり方なんだ。


「二人も分かってるみたいだね。……多分、それで合ってるよ。異世界人やXの存在を肯定する事になる証拠は全部消す。しかも、何か特別な爆弾を使ってるっぽくて……爆ぜ方も燃え方も普通じゃなかったんだ」


「確かに、変だったよなあれ。周りが全然壊れてねぇの」


「ええ。それでいてウィンダの体は一欠片も見付からず、掻き集めても屑だけ」


 その様子を目に映した三人が、口裏を合わせたように似たことを言っていく。

 爆心地の破損が少ないのに、ウィンダは跡形も無く消え去ったって、そんな異常な爆弾があるか。あの無駄に格好良い銃といい、どこでそんな技術を得たんだ。それとも、その技術が異世界由来のものなのか?


「……で、やっぱり調べても意味なかったんですか?」


「なかったよ。もう判り切ってたけどさ」


 俺達の勝利、の筈が……俺達の手に置かれた情報が少な過ぎる。それは最早、勝利とは言えないのかもしれない。

 今回の俺達のように、反抗する人間が警察以外にいるのは想定内だったんだろう。だから、一つの戦いに勝った俺達に何も渡されない。良く出来た仕組みだ。


「あっ、そうだ! 俺のとこに来た奴等は! エルミアに殺られた……から、全部燃えたのか」


 勢い良く喋り出した筈が、途中で失速してフラフラと着地した。


 俺とエルミアを取り囲んだ奴等なら、何か残っているんじゃないかと考えたんだ。直後に爆発なんてなかったから。

 でも、大事なことを忘れていた。

 エルミアが魔法で全員燃やしたんだった。よく見なかったけれど、あの火力だしまあ真っ黒でボロボロだ。結局収穫はなし。


「……ごめんなさい……」


「謝ることじゃないって! ああでもしなきゃ抜け出せなかったからな」


 エルミアは申し訳なさそうにしているが、俺からしたら感謝しかない。俺が憔悴していたところを助けてくれたわけだから。謝罪なんて無くていい。


「でも、火力の問題は絶対あったよ。つい感情が爆発しちゃって、丸焦げに……」


 ……そう言われるとそうだ。何も誰か判らなくなる程燃やし尽くさなくても、殺す程度に炙れば結果はマシだったかもしれない。

 ただ、あの状況でそんな冷静な判断は、簡単にできない。よって俺はエルミアを責めない。


「まーまー。それに……あれだ、べべスならどうだ! アイツからは何か……」


「残念ながら、それも駄目だったよ」


 気分下がり気味のエルミアを慰めるべくべべスについて言及した俺だったが、それは霊戯さんによって否定された。

 確かに俺がべべスを殺した時、エルミアのやったように丸焦げだった覚えがあるけど。隊のリーダー的存在だと思われるべべスなら、それ以外の人が持っていない物を身に付けていたりしなかったんだろうか。たとえそれが無かったとしても、奴の体は燃えて砕けたりはしていない筈。


「どうして……」


「べべスの体、消滅したんだよ」


「消滅!?」


 真面目な顔でエルミアが一言。俺は驚きを隠せず、声を上げた。


 死体が消滅するなんて聞いたこともない。いや、俺は魔法なんかが無い世界に生きてるから聞いたことが無くて当然。

 ……そうじゃなくて、俺はエルミアからそんなことを聞いたことがない。

 死んだ直後に消滅なんて、それこそよくある異世界系のラノベか戦闘系の漫画じゃないか。


「消滅……だって? それも何かの魔法ってーのか?」


「魔法それ自体じゃなくて、その代償。常を超える力を得る代わりに、そういう呪いを受ける術。べべスは沢山の術を仕込んでいたようだから、きっとそう」


 代償を支払う術。それは、俺も目にしたものだった。

 体の一部を引き換えに瞬間移動で危機を脱する事のできる術。べべスはそれを得意気に語っていた。べべスがエルミアの爆破攻撃を少しの傷で済まし、右目を失っていた事からもこれは確実な話だ。


 なら、エルミアの予想は予想の域を超えていて不思議じゃない。


「もう何もなしか……」


「泰斗さんは何か気になったことがありませんでしたか?」


 咲喜さんが俺に問うた。

 気になったこと、か。すぐには浮かんでこないな。


 俺は腕を組み、今は考え中です、と分かり易い意思表示をする。

 特に思い出すべきは、べべスと対峙した時とその周辺だ。様子を見ていた人がより少ない時間を優先して探る。


「……べべスは確か、エルミアは『召喚された』って言ってたような……」


 次々と起こった出来事に記憶を阻まれていて中々思い出せなかったが、やっとの思いでこれを引っ張り出した。


「『召喚された』……なら、やっぱりべべスより上か、全く違う所にその犯人がいるんだね」


 そういうわけだ。……けど、これが分かったところで大して状況は変わらない。俺達は今のを前提に話を進めていたんだから。


「ンなことさっきから言ってただろ。もっと……全く新しい可能性が見えてくるようなヤツはねぇのか?」


 全く新しい可能性……。

 どれだけ思考を巡らせ、過ぎた時を脳内で逆再生しても、そんなものは見付からない。

 これは俺の限界ではなく、本当に何も疑わしいことが無かった。だから、仕方ない。


「うぅん……」


 折角頼られているのに、答えられない。

 そんな悔しさと記憶が混濁した頭とが重なり合い、俺は情けなく唸った。


「あんまり無理して考えるのは良くないよ」


「……はい」


 霊戯さんはそう言ってくれたけど、役に立てなくて気持ちが落ち込んだ。


「落ち込まなくていいの、泰斗君は何も悪くないんだから」


「そうですよ泰斗さん。それに、これからは警察も本腰を入れて捜査を始めるんですから、きっとどうにかなります」


 女性陣からのフォローが入った。これだけで下り坂を下りた気持ちが上り坂に進路変更するんだから、俺は単純だ。


 ……そうだよな、警察だって頑張ってくれるんだ。今までそれ程成果を上げられていないからって、信用しないなんて事はない。本気でやってくれるならきっと。そんな自信と希望が、満ちてきた。

 第43話を読んでいただき、ありがとうございました!

 次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ