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第3話 目標

 さて、これからどうしよう。


 異世界からやって来た……と言うより勝手に召喚されたであろう美少女エルミア。

 彼女を元居た世界に返すのが俺達の当面の目標になる……が、二つの世界を行き来する技術なんて俺達が持ち合わせている筈が無い。

 しかしエルミアはここが別世界であるとも知らないため、まずはその事実を彼女に伝える必要がある。


「エルミア、多分なんだけど……ここは君が居たのとは全くの別世界なんだ」


 真剣な顔つきで彼女に事実を伝えた。


「ええっ、そう……なの……?」


 俺によって知る受け入れ難い話。

 俺の場合アニメやラノベのお陰で異世界の存在を直ぐに受け入れる事ができた。

 だが、異世界人であるエルミアの頭には異世界なんて概念は存在していないし、存在を肯定する意見があっても単なるホラ話だと受け流してしまうだろう。

 しかし、今彼女の目に映る景色、文明は異世界や別世界という言葉を使わなければ説明できないものだ。


「何で、どういう原理で別世界があるとかそういうのは俺も説明できないんだけど……」


 本当ならもっと分かりやすく説明したいものだが、俺に異世界の原理なんて分かるわけがない。

 申し訳無い、と言わんばかりに斜め下を向いて話した。


「うーん、なるほど。とりあえずここは私が居た世界とは違うのね。でもだったら誰がどうやって私をここに……?」


 エルミアは訳が分からない、といった具合に顎に手を当てながら首を傾げ、怪訝そうな顔をしている。

 そうだ、それが分からないんだ。

 エルミアの話では異世界の書物に現世の記述は無かったようだし、それをそのまま「異世界人は誰一人として現世を知らない」と解釈するなら、エルミアはこっち側から引き込まれたと考えるのが自然。

 だが、現世にそんな事をできる人間が居るのだろうか?

 それこそ異世界人でもない限りできないように思える。


「そうだな……エルミア、君がこっちに来た時のことを話してくれないか?」


 異世界人がエルミアを現世に転移させた可能性もある。

 さっきエルミアから「転移魔法」と言う単語を聞いた。

 所謂テレポートのような魔法だと思われるが、そんな事ができるなら世界を跨いで人を移動させられる魔法使いがいてもおかしくはない。


 どちらにせよ、当事者から状況を聞けば分かることがあるかもしれない。


「分かった。私はその時、護衛人と一緒に王都の視察をしていたの。そうしていたら本当に何の前触れも無く、気が付いたらこっちに来ていて……」


「じゃあ、誰かに魔法でやられたとかは?」


「それは絶対ない。転移魔法や変魔術は発動させるとき、対象者の下に魔法陣を出すの。でも魔法陣は無かった」


 俺が問うと、エルミアは直ぐに返答した。

 変魔術、と言うのはよく分からないが魔法陣が出現するのなら簡単に気付くことができるだろう。

 ならば異世界側から魔法で転移させられた説は有り得ない話になる。


「じゃあ、現世から召喚された説が濃厚か……」


 そんな結論に至ったが、いまいち納得がいかない。現世と異世界を繋ぐ事のできる人間が本当にいるのか。


 しかし、このまま考察を続けてもこれ以上の結論は出ないだろう。

 その考えはエルミアも同じだった。


「今すぐに分からなくてもいいよ。少しずつ情報収集とか……ね?」


 エルミアは俺の顔に集まる雲を払うように、落ち着いた声で言った。


「……だな!」


 俺はエルミアに同調して下に向けていた顔を上にあげ、「私は元気です」とアピールするため、手を腰に当てて思い切ったような声を作った。


 ただこれから彼女の言うような情報収集や近辺の探索をするとなると、拠点……言い換えれば住居が必要になる。

 俺だけなら自宅を使えばいい簡単な話だが、今はエルミアもいる。

 こんな得体の知れない少女を母に紹介する訳にもいかないだろうし、俺の家を使うならエルミアの存在は極力隠す必要がある。


 そうなると、俺の部屋が最適だろう。

 普段から入らないようにと母に言っているから、余程の事が無ければ入ってくるようなことは無い。


「他に寝泊まりするとこ無いし、俺の家来てくれないか?」


 俺の脳内会話イメージとはズレて、控えめな口調になってしまった。

 自宅に異性を呼び込むことなど無かったからだろうと、密かに自己分析した。


「いいの? ありがとう!」


 エルミアはまたニコッと笑って感謝の意を表現した。


 俺は自宅方向へ体を向けて歩き出し、エルミアは俺の後ろを歩く。


 それから少し歩みを進めたところで後方から二つの野太い声が上がった。


「見つけたぞ! あそこだ!」


 俺がその声に気付いて後方へ振り返る頃には、既にエルミアが戦闘態勢に入っていた。

 声が聞こえた方向に体を向けて脚に力を入れ、どこに仕舞っていたのか分からない金属の装飾が施された木製の杖を胸の前に構えている。

 また、彼女の魔法帽から吊り下がった三つの宝石からは、さっきまでと違い微量な光が放たれていた。


 俺が声の主を視野に入れるべくエルミアの目線の先を見ると、百メートルくらい先に茶色い装束の胡乱な男が三人、こちらに向かって来ているのが確認できた。

 さらによく見ると、その手元には拳銃らしき物があった。


 いやいや、拳銃ってマジかよ。

 折角死にかけたところを生き延び、美少女と友達になれた。なのに今度は闇の組織的な人物が殺意剥き出しで向かって来るなんて……。

 状況を把握すると、途端に凄絶な焦燥感と恐怖感に襲われる。心の中で「怖い」「嫌だ」と何度も叫んだ。


「あの人達、誰?」


 エルミアが俺の方へ少し振り向いて言う。顔の半分だけ見える状態だが、それでも彼女の心情を察するには十分過ぎる情報が目に入る。

 先程までの優しく温厚な表情は一変して強張り、鋭い目つきをしていた。

 彼女は俺と茶色い装束の男達が何らかの関係があると見たようだが――


「知らない人だ」


 恐怖心を抑制して彼女の問い掛けに応じた。

 だがその声は明確に震えており、エルミアもそれを感じ取った様子で俺に言う。


「大丈夫、このまま殺しに来るようなら私が迎え撃つ。私は絶対負けないから……逃げて」


 彼女はきっと強いのだろう。

 ならば生身で戦闘能力も無い自分が参戦したところで無意味……どころか余計な迷惑を掛けてしまうだろう。


 俺は自分にそう言い聞かせ、「逃げたい」という気持ちを肯定しようとする。

 だが、それで正しいのだろうか。

 少女一人に戦わせて男は安全な場所から傍観しているなんて、そんな情け無い話が他にあるか? きっと無いだろう。


「何か、俺にできることは無いか?」


 いくら足手まといでも、何か一つは協力したい。


「……でも、泰斗君はお世辞にも戦えるような感じしないし……」


 はい、お察しの通りです。


「じゃあ、これぐらいなら」


 エルミアはそう言うとローブの内側から鋭利な短剣を取り出し、俺に手渡した。

 その気になれば人一人殺せてしまいそうな代物だ。

 異世界モノでよくある西洋風の形で、剣身の部分は推定二十センチ程。


「それは本当に危険になった時に使って。奴らに対抗出来るかは分からないけど……無いよりは良い筈」


 ピンチになったらこれで戦えってことか。


 協力したい、と言っても俺は人を殺すのに抵抗がある。

 正当防衛だったとしても、他人の命を奪ったことに変わりは無く、いくら他人との関わりが無い俺でも簡単にできる事じゃない。


 と、短剣を受け取っている僅かな間に茶色い装束の男達が俺達の間近まで迫っていた。


「隣の伴侶はどうします?」


 男達の内の一人が小声で他の二人に聞く。


「目標と接触しているんだ、殺すしか無いだろう」


 男達の明確な殺意の風がこちらに吹き付ける。

 俺には命を狙われる程のことをした覚えは無い。なので、彼等の言う「目標」はエルミアのことだと予想した。


 そうにしても、俺は殺す対象らしい。拳銃相手に短剣っていくら何でも無理があるだろ。迫って来られたら確実に死ぬ。それが怖い。怖い。


 一方、エルミアは――


「神來魔術式、展開」


 先手を取ったのは茶色い装束の男達ではなく、エルミアの方だった。

 彼女が呪文のようなものを唱えた直後、彼女の足元を中心とした魔法陣が、無数の赤い線で構成されていく。

 完成された魔法陣は俺の目線からは分からないが、何かの模様になっていそうだ。


 彼女の顔、構えから目前の対敵を蹴散らさんとする凄まじい熱気を感じた。


 ――いや、違う。


 俺が感じた「熱気」というのは決して彼女の容姿、心情を比喩するものではなかった。実際に彼女の身体から熱気が迸っている。

 そばに留まっていれば、燃やし尽くされてしまいそうな程の熱を、肌から感じ取った。


「神來魔術師の力、貴方たちにお見せします」


 彼女は発している熱量とは裏腹に、冷え切った声で彼等に告げた。

 第3話を読んで頂き、有難う御座いました。

 予定ではもっと早くに投稿する筈だったんですが、遅くなって申し訳無いです。


 それはそれとして、次回は遂に? 戦闘なのでお楽しみに……!

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