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第16話 ビリビリ

「あっぶな……」


 全員がゼェハァと息を吐きながら、煙が出ている廃倉庫を眺めている。


「ちょっと怒らせ過ぎちゃったかな?」


 霊戯さんは若干の反省を見せつつ頭を掻いている。

 "ちょっと"で爆殺しようとするような人はいないと思うけど。


「皆んな、怪我してないですか?」


 エルミアが心配してくれているが、幸いにも全員目立つ怪我は無いようだ。


「でも、エルミアさんさっき手首をちょっと痛めたって……」


「えっ……マジで?」


 言われて見ると、確かに手首を気にしているようで大きな動きをさせていない。


「うん……だけど、そんな酷いものじゃないから大丈夫」


 まあ、エルミア自身がそう感じているなら焦るようなことでもないか。


「じゃ、帰った後に私が手当てしますよ」


 と、咲喜さんはエルミアに擦り寄ってそう言った。咲喜さんそういうのもできるんだな。


「ところで咲喜、それ自分で気付いてる?」


「えっ?」


 咲喜さんが顔にハテナを浮かべ、自身の見えづらい場所を確認している。


「……あっ! これ……!」


 咲喜さんがズボンの後ろのポケットに手を入れると、手前で突っかかり、その原因であろう物を取り出した。それは……


「奴等の銃じゃんかそれ! 姉ちゃん何で持ってきたんだ!?」


「いやっ、そんな覚えは……気が動転してポケットに入れちゃったのかも……」


 そう、あの茶色い装束の男達の銃だった。銃には爆弾が無かったようだ。もしあったら今頃咲喜さんは死んでるだろう。


「どうします? 警察に提出しますか?」


「うん、そうしよう。僕が持っておくよ」


 霊戯さんはそう言うと咲喜さんが持っている銃を受け取り、袋を取り出してその中に仕舞い入れた。


「さてと……君達とはまだ名前を教え合ってなかったよね」


 霊戯さんが俺とエルミアを見つめた。


「ああ、そうか……ずっと偽物だったんですもんね」


 霊戯さんの方は俺達も名前を知っているし透弥や咲喜さんからも色々聞かせてもらっているけど、俺とエルミアのことは大して伝わってないよな。


「俺は朱海泰斗って言います。一応、高校生。で、こっちが……」


「エルミア・エルーシャです。えーと、この世界のことはあまり分からないんですけど……」


 いや、エルミア……「この世界」とか言ったら絶対変な疑いかけられたりとかするだろ! まあ、魔法を目の前で見せたぐらいだから今更止めても意味無いと思うけど……。


「この世界って何だよ? 他の世界から来ましたって言うみてーな言い方だな?」


 エルミアの「この世界」に対して最初に指摘したのは透弥だった。

 彼がそれを言うなり、霊戯さんはまるで新種の生物でも見つけたかのような高揚に溢れる表情を見せた。


「さっきの火といい、エルミアちゃんには凄い秘密がありそうでおもしろいじゃん。後でいいからさ、詳しく教えてね」


 と言い、霊戯さんはフフっと笑った。


「さあ次に……知ってるだろうけど、僕は霊戯羽馬。改めてよろしくね」


「「よろしくお願いします!」」


 お互い、軽い自己紹介を済ませると、霊戯さんは突然歩き出した。

 どこに行くかと思えば、向こうに見えるテープの外側で加藤さんがこちらに手を振っていた。

 あっちへ向かうようだ。俺達も霊戯さんの後に続き、立ち入り禁止テープを潜って出た。


「皆んな……それに、霊戯さんも! 無事だったんですね!」


 加藤さんは重い怪我も無く生還した俺達の姿をまじまじと見て嬉々としている。霊戯さんとは結構交流が深いのか?


「加藤さん……既に通報してくれたそうですが」


「はい、そうです。遅くても三十分あれば到着するだろうと言っていたので、少し待てば来ると思いますよ」


 加藤さんが警察に通報したのは俺達があそこに乗り込んだ頃だから、多分五分か十分くらいは経っている。それなら、十数分も待っていれば警察が来るだろう。

 そこまで長い時間じゃない。


「じゃあここで待ってましょう」


 俺がそう提案した。する必要も無い程決まりきった事だと思うが。


「だね」


「はあ〜、面倒くさ」


 透弥は軽い愚痴をこぼして、彼のすぐ近くにある建物の壁に背中を着けた。


「まあまあ透弥、そんなこと言ってもしょうがないじゃない」


 咲喜さんは不満がっている透弥の隣へ行き、肩をポンポン叩きながらなんとか透弥の気持ちを軌道修正しようと試みている。

 対する俺とエルミア、そして霊戯さんと加藤さんは特に何かするわけでもなく、少し言葉を交える程度で時を過ごしていた。



*****



 もう大分長い時間待っているんじゃないか?

 そう思い、俺はスマホを取り出して時間を確認してみた。


「四時三十分か……」


 ここで待ち始めた時の時間を確認していなかったから具体的にどのくらい経過しているのか分からないが、体感では三十分くらい経った気がする。


「私達がここに来たの四時ですよ? もう三十分も経っています」


 少し離れた所に居た咲喜さんと透弥がこっちに戻ってきていた。咲喜さんによると、俺達が加藤さんの車でここに来たのは三十分前。廃倉庫から出てきたのは二十分ということになる。


「警察も僕らみたいに襲われてたりしてね」


 霊戯さんは冗談っぽく言った。


「ちょ……やめてくださいよ霊戯さん」


 エルミアは少し怖気付いた様子で霊戯さんの現実味がある冗談を咎めた。


「……なあ」


 透弥が何か言いたげだ。


「泰斗、お前昨日自分が殺した死体が少し後に消えてたって話してたよな」


「ああ、したけど……」


 透弥はその事と今の状況との関連性を見出したのか? 俺には全く予測のつかないことだ。


「へえ〜そんな事が?」


 霊戯さんはこの話に興味津々だ。


「お前はそれ、何でだと思う?」


「何でって……そいつらの仲間が回収したんじゃないかと勝手に思ってるんだけど……」


 透弥の顔はいつにも増して堅苦しい。眉間にしわを寄せて何か深く考え込んでいる様子。


「それを短時間でやられたんだろ? その説が正しいなら、今も……!」


 ――!


 そういう事か! 前回は俺とエルミアが家に帰り、すぐに戻っても死体は綺麗さっぱり無くなっていた。今回はカメラで見られていることも確認済みだし、仲間がここに来てもおかしくない!


「羽馬兄さん、逃げるべきですよ! 相手は何人か分からないし……このままここに居ては!」


「分かってる。次も上手く戦えるとは限らないしね。逃げよう」


 霊戯さんはそう言うと辺りを見回し、自分の車を見つけると俺達に「来い来い」というように手を振った。


「加藤さんは別の車でお願いします! 僕の車五人も乗せたらギュウギュウなんで」


「あっ、はい!」


 俺達はすぐに車へ乗り込み、ドアを閉めると霊戯さんは車を発進させた。奴等と鉢合わせたりしないといいけど……。


「あの……私達って伏せていた方が良いのでは?」


 咲喜さんが一つ意見を出した。俺達の顔は認知されているだろうからな。


「まあそうしとこうか。ただ、僕だけバレるんだけどね……ソレ」



*****



 ――二十分前。


「あぁーん、腹減ったぁ〜」


 灰色の髪とピンク色の瞳を持ち、獣のような耳と尻尾を生やした低身長の少女が、背中を曲げて両腕をだらしなく垂らしながら東京の車道を横断していた。


 ――ププーーッ。


「は?」


 呆気た声を出す少女の横には、三台のパトカーが停まっていた。パトカーの助手席側のドアが開き、中から一人の警官が出てきて少女に近付いていく。


(あ……やっべ、カモフラージュ球を起動してなかった! 私の馬鹿!)


 少女は心の中で自分を罵倒すると、白いパーカーのポケットに片手を突っ込み、グッと手に力を込めて中の球を握った。球はカチッという音を発し、少女はそれを確認するともう片方の手もポケットに入れ、警官を前に太々しい態度を作り上げた。


「君! 横断歩道でもない所を渡ったら危ないでしょう! 今だって轢いてしまうところだったんですから!」


 警官は少女を叱責した。それを聞いていた少女は耳をピクピクと微動させ、背の高い警官の顔を下から鋭く睨みつけて


「私にそんな文句あんのかよ」


 と、明確な怒りを露わにした。その気になれば相手に飛びかかってもおかしくないような体型に、ギリッと噛み合わせた小さな牙と歯、そして強い嫌悪を送るその目は、獲物を狙う獰猛な獣さながらだ。


「なっ、何だその口の利き方は! 私達はいち早く現場に行かなければならないんだ! 子供の相手をしている暇は無いんだよ!」


 警官は少女の態度と口調に憤りを覚え、より声を荒らげた。


「なあ、今……」


「?」


 少女は先程までとは全く違う、低く、しかし高圧的な声を出して警官の顔を見つめる。憎悪に満ちた不純無き目。

 警官はこの少女の一番気にすることを、口にしてしまったのだ。それも、不機嫌な時に。


「今……"子供"って言ったなァ!?」


 少女は両足で思いっきり地面を踏みつけ、その勢いで二メートル程高く飛び上がった。

 警官は一瞬の内に済まされたその動作に大きな焦りと恐怖を覚え、少女を視界に入れながらも少し後ろに下がった。

 しかし、獣と化した彼女はそんなもので動作の一つ変わることは無い。


雷鉤爪千撃(クローショック)


 少女は空中に留まりながら、手足を素早く動かして回り続けた。それと同時に、鋭利な鉤爪を出した指先に魔力を送って電気を帯びた攻撃を警官に繰り返し浴びせる。

 一撃、また一撃と呼吸する間も無く繰り返される猛攻に、警官の身体はどんどん引き裂かれていく。

 岩が砕けるかのように欠け落ちながら血を噴き出す警官の身体は「凄惨」を表していた。


 警官の身体はものの五秒でバラバラになり、少女はそれが分かると攻撃を止めてスタッと地面に着地した。


「わっ、わあああぁぁぁ!!」


 パトカーの方から複数人の叫び声が次々と上がり、それからすぐにパトカーのドアが開いた。


「ソッチも殺すからなァッ!!」


 少女は強く独り言を言うと、血に塗れた右手を天に掲げた。その掌から生じた電気が一瞬で大きな槍を形成し、その先端がパトカーを睨みつけた。


雷々牙槍(サンダースピア)


 その槍はパトカー目掛けて落とされ、警官達が脱出を試みるも間に合わず、濃縮された電気による電撃は警官の身体をパトカーごと打ち砕いた。

 バラバラに破壊された車体や警官達の身体が辺りに散らばり、塵と共に舞う血はその場に居合わせた者の視界だけでなく、心をも濁らせるものだった。


「アッハハハハハハハハハ!! ざまぁみろ! このウィンダ・エリス様を子供扱いするからそうなるんだ!」


 少女――ウィンダ・エリスは、腰に手を当てて高笑いした。声を大にして死者を罵倒する彼女の顔に浮かぶのは「悦」の一文字。

 笑い疲れたウィンダは、それ以上なんの干渉もせずその場から去っていった。

 第16話を読んでいただき、ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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