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第15話 激発

「ほら、立てよ」


 俺はそう言って、倒れている状態の透弥に手を差し伸べた……けど、血で汚れてるな。

 タオルなんて無いから、剣でいいか。俺は手の汚れを剣に擦り付けて足元にトンと置いた。

 そして再度手を伸ばす。


「あ……ああ、ありがとう……」


 透弥は俺の手を取り、ぐっとこちらに引き寄せて彼の体を起こした。結構重くて俺が引き寄せられそうだったけど。

 そんな中、透弥は俺から目を逸らしていた。

 ……もしかして、命を助けてもらった俺に感謝するのが恥ずかしいとか?


「恥ずかしがってんのか? 意外と可愛いやつだな」


「ちっげえ! 俺はグロいの嫌いだからそっち向かねぇんだよ、馬鹿」


 と、低く怒鳴った。血の気が多いくせに殺し合いは嫌いって、どっちかに偏ってくれれば俺も対話しやすいのに。

 とはいえ、すぐ調子に乗るのは俺の悪癖の一つだ。


「悪かったよ」


 俺は一つ謝罪の言葉を述べた。

 と、そこで俺は、遂に殺人を犯してしまったという実感が湧いた。同時に、よくこんな調子でいられるなとも思った。

 そうしなければいけなかった。だからやった。しかし理由があろうと、罪悪感は生じるものだ。

 いじめられっ子を救うためにいじめっ子を殺したら、それは犯罪となる。いじめっ子の親には恨まれるかもしれない。


「羽馬にいは大丈夫か?」


 俺達から少し離れている霊戯さんへ、透弥が安否を確認している。対する霊戯さんは


「大丈夫だよー」


 と、手を振っている。

 そうだ、俺も……エルミアと咲喜さんの状態を確認しないと!

 俺は二人が居るであろう裏口の方へ視線を向けた。すると、エルミアは座っていて、咲喜さんが立っている。どちらも特に怪我をしているようには見えない。それと、またも無惨な死体が転がっている。

 俺も透弥よりかはマシだがグロいのは苦手な方だから、死体とかはあんまり直視したくないな。


「まあ、無事そうで何より……」


 エルミアが座っているのは恐らく魔力切れの影響だ。昨日もそうだったが、異世界人は魔力を使い果たすと体の調子が悪くなるらしい。

 エルミアのことは労らないと――


「おい!!」


 出会った時から透弥が声を大にしているのは幾度となく目に……というか耳にしてきたが、その中でも一番うるさいであろう声が俺の耳を貫いた。


「何がどうしてそんな――


 一体どれだけ大変なことが起こったのかと透弥の様子を見てみた。

 すると、なんとも信じがたい……加えて危機的な状況に、口から出す途中の言葉を飲んだ。


「羽馬にい! 後ろだ!」


「羽馬兄さん……そいつ、まだ……!」


 透弥の後に続いて咲喜さんも霊戯さんに声を掛けた。

 霊戯さんの背後では、さっき霊戯さんのファインプレーで撃破した筈の男が立ち上がって霊戯さんに銃を向けていた。

 ……もしかして、弾が当たったのが腕だったから致命傷に至らなかったのか? だから、今立てる程の力を取り戻した。

 理由を考察するなら多分これが妥当な考えだと思う。


「ん? え?」


 ――バンッ!


 緊迫した空気を引き裂くかの如く、銃弾が放たれる音が廃倉庫内に響き渡った。だが、その音源は俺が思っていた位置には無く、咲喜さんの手の元にあったのだ。

 霊戯さんを狙っていた偽霊戯さんは、ただでさえ左腕に穴を空けられていたのに、胸にも新たな穴が空けられた。そこからまた血が噴き出し、彼の周りがどこも余すこと無きようにと赤く染まっていく。そして彼は無気力に倒れた。


「姉ちゃん……」


 咲喜さんはその後すぐに銃を握る手を離してポロッと下に落とした。

 そして彼女自身も、少しずつお尻を下ろしていって、ペタっと床に着けた。



*****



 その後、全員が一箇所に集まって一つの円を作った。取り敢えず、収束したであろう戦いで何が起こったのか、整理すべきだ。

 その前に、霊戯さんが膝を着いて不安定な表情を見せている咲喜さんに手を伸ばした。

 そして、彼女の頭をポンと優しく叩いて、


「ありがとう、咲喜。……僕としたことが、油断してしまって……もしかしたら今こうやって皆んなの円に入れていなかったかもしれない」


 と彼女を宥めるように慰めと謝恩の言葉を示した。割と真剣な顔だ。けどちょっと笑みが残っていなくもない。


「羽馬にいって真面目なのかそうじゃないのか分かんねぇよな。今だって」


「なぁにそれ、皮肉?」


 透弥の指摘に霊戯さんが応えた。確かに、偽物でない今でもやはり表情から感情を読み取りにくい。


「別にそういうんじゃないけどさ」


「でも、私は良いと思いますよ。霊戯さんがそうしてくれていると、何となく悪い空気にならないですし」


 と、エルミアが霊戯さんに言った。


「でしょ? やっぱり僕はこれが良いんだよ」


 霊戯さんもちょっと冗談めかして自画自賛している。

 そんな時、顔を斜め下に傾けて黙り込んでしまっていた咲喜さんが顔を上げて、


「皆んな……ありがとうございます。少し元気出ました」


 と、俺達に伝えた。ここに来る前と比べれば今の方がずっと落ち込んだ感じだけど、まあ少しは元気出たみたいだ。

 別に、無理に元気を出す必要は無いと俺は考えるが。だって人の命を奪ったんだぞ。正気を保っていられるだけで強い精神力の持ち主だといえる。


 透弥はそんな姉の隣に行った。

 彼にはきっと、姉の気持ちが理解できる。たとえば今、俺には咲喜さんの心がプラス寄りかマイナス寄りか分からないが、透弥ならわかる。


「よしっ、咲喜がもう大丈夫ならだ」


 霊戯さんはポケットからスマホを取り出し、


「警察の人に連絡しないとねー、随分と派手にやっちゃったし」


 と言いながら番号を打ち出した。


「加藤さんがさっき電話してくれてましたよ」


「あ、そうなの? だったらすぐ来るか」


 霊戯さんは俺の一言を聞くなり番号を打っている指を止め、スマホを画面が点いたままの状態でポケットに入れた。


「ねえねえ、ちょっと触っても良いと思う?」


 誰に聞いているんだ? 全員? 触るって、もしかして。


「いやいや、触っちゃ駄目だろ絶対!」


 透弥が一番に回答を出した。透弥がそう言っているし、霊戯さんが触ろうとしている物は俺の解釈が正しいようだ。

 そう、そこら中に転がった死体。


「僕だって人の内蔵とか血液とか触りたくないし、そもそも触る気無いよ。僕が言ってるのは彼らが身に着けてる物」


 身に着けてる物……服とかか?


「ちょっとぐらいなら大丈夫だよね?」


 霊戯さんは解釈違いを訂正した後、再度俺達に聞いた。


「出血しているんですよ……? 汚いですから、止めましょうよ……」


 咲喜さんはそう言って霊戯さんを止める。


「というかそもそも、身に着けてる物を確認してどうするんですか? ケイサツ……っていう専門の人達が来てくれるんですよね? だったら特に何もしなくても良い気がしますよ」


 エルミアは何とも不思議、といった具合に眉毛を八の字にしている。エルミアの言うことも一理あるな、なんでそんなに急いで調べる必要があるんだろうか。


「えー、いやぁだってさー」


 だって……何だ?


「調べるのって楽しいからやりたくなっちゃうんだよね。探偵の心がくすぐられるというか」


 そして霊戯さんはジャケットの中から黒い手袋を取り出し、キュッと手に嵌めた。


「羽馬にいは意外とサイコパスだから気を付けろよ」


 透弥が小声で俺に教えてくれた。


「サイコパスって言い方しないでよー。せめて探求心旺盛って言ってもらいたいね」


「聞こえてんのかよ……」


 霊戯さんは俺がさっき殺した男に近付いていき、膝を曲げてしゃがみ込んだ。

 そうすると、片手を招き猫みたいにして


「皆んなもこっち来なよ。大丈夫、怖いことしないから」


 と言って俺達を誘った。


 霊戯さんは俺達が全員集まったのを確認すると、ポケットに入れたスマホをもう一度取り出して死体の写真を一枚撮った。


「いやぁー、悪趣味、悪趣味」


 そう思うなら撮らなきゃ良いんじゃ……と思ったが、今後の捜査のために必要なものなんだろう。霊戯さんはその後何枚か写真を撮ってからスマホを仕舞った。


「霊戯さん……こういうのって慣れてるんですか?」


「確かに、俺も気になる……」


 エルミアの疑問に俺も便乗した。


「流石に慣れてきたよ、もう。進んで見たいとは思わないけどね」


 霊戯さんはそう答えた。


「咲喜はまだしも、透弥はほんと苦手だよね」


「別にいいだろ!」


 透弥は例の如く死体からは目を背けて、口だけ活発になっている。


「まあまあ、悪かったよ。でも、こんな話をしてる間に一つ見つけちゃったよ」


 ずっと俺達と話しているだけのようだったのに、いつの間に。何を見つけたんだ?


「ほら、これ」


 霊戯さんは男の胸の辺りに着いている黒く小さい何かを取り外して俺達に見せた。

 何だ……これ?


「羽馬兄さん、これなんでしょう?」


「多分これ、小型カメラの一種だと思うよ」


 俺はカメラなんて全くの専門外だからどこがどうなっているとか分からないけど、レンズらしきところがあるのは分かった。


「あれ……これまだ壊れていないんじゃないですか? 光が点いています」


 咲喜さんが指摘したように、レンズの近くが赤く光っていた。


「おお、ほんとじゃん」


 霊戯さんはそう言うと立ち上がり、自身の口にカメラを近付けた。

 何をする気なんだ?


「親玉さん、見ってるぅーー!?」


 え!?

 いや、霊戯さん何してんの!?


「おい、何やってるんだよ羽馬にい!」


「君のお仲間さん僕達が倒しちゃったよ! もう少し対人の訓練とか必要なんじゃないのぉーー!」


 霊戯さんは、カメラ越しにこちらを見ていると思われる敵に対し、挑発するような言葉の数々を大声で並べていった。


「……ふぅ、ごめんごめん。捕まってたストレスの発散だよ」


 だとしても他にやり方があったんじゃ……。


 ――ピッ。


「あれ、今何か鳴った?」


 微かにだが電子音のようなものが聞こえた気がする。


「は? 俺は聞こえねーぞ」


 ――ピッ……ピッ。


「あっ、泰斗君、私も聞こえた!」


 ――ピッ、ピッ、ピッ。


 回を重ねる毎にどんどんテンポが速くなっていく。一種の警戒音のように思えるソレ(・・)は、何が起こるのかという不安を大きくさせていく。


 ――ピッピッピッピッピッ。


「っ!!」


 霊戯さんは、突如持っている小型カメラを誰もいない方向へ勢い良く投げた。投げるといっても、嫌なものを思いっきり払い除けるような感じに、だ。


 小型カメラはすぐに壁や床にぶつからず、空中にある。

 と、次の瞬間。


 ――バァァンッ!!


 宙に投げ出された小型カメラは、その最期すらも視認できない程の速さで内側から破裂し、オレンジ色の火花と閃光が四方八方に広がって進んだ。

 耳に響く爆音と僅かな熱が俺達を襲った。


「爆発!?」


 死んでからも反撃するとかマジで言ってるのか……! でも起爆したってことは霊戯さんの言う通り、誰かがカメラで俺達を見てるのか?


「小型カメラには爆弾が仕掛けられていた。そして、他も同じ」


 ――ピッ、ピッ、ピッ。


 色々な方向から……またこの音! 爆弾は他にも沢山……少なくとも、四つ以上は……!


「にっ……逃げるぞ!」


 俺達が全速力で廃倉庫のドア枠を潜った頃。


 ――ドドドドドッ、バァァン!!


 幾つもの爆裂が俺達の背後を奪い、いつの間にかオレンジに染まった夕暮れの空に轟音を捧げた。

 第15話を読んでいただき、ありがとうございました!

 次回もお楽しみに!

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