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第14話 俺の思う覚悟

 燃え盛る火を顔面に受けた男は、立ったままもがき苦しんでいる。男がなんとか顔の火を消火しようと試みるが、火に手を近づけた所為で手にも余計に燃え移ってしまっている。

 持っていた銃はその拍子にポロッと落ちた。


 咲喜は眼前の惨い光景に恐怖したのか、口に手を当てて硬直していた。


「ぐっ……」


 エルミアは男の胸倉を両手でぐっと掴み、手首と腕に力を込めて両手を左に動かした。

 男の身体で隠れていた向こう側が明らかとなり、もう一人の男が銃を構えて今まさにエルミアに向けて引き金を引こうとしている。


「食らえ!」


 男はそう叫び、エルミアの頭部に照準を合わせた。


 エルミアはそれを見るなり右脚を肩幅より大きく開き、右半身……主に右足に体重を掛けて掴んでいる男を一瞬で右に動かした。


「うああぁぁっ!」


 直後、一つの発砲音が鳴り響く。だが、エルミアの機転により弾丸は未だ苦しみ続けている男に止めを刺した。

 男の首辺りから吹き出した凄絶な血飛沫が、エルミアを赤く染め上げる。


「うっ……」


 エルミアは自身の顔や服に付着した多量の血液に不快感を覚え、思わず声を漏らした。べっとりとした血液がエルミアの着ているジャージに染み付き、赤い痕を付けながら下に垂れ流れている。


 エルミアは息絶えた男の体をその場に軽く投げ捨て、もう片方の男に戦意を向けた。


 一方、男は仲間が死んだことに動揺している様子で、足の動きがおぼつかなくなっており、加えて銃を握る手も震えていて腰が少し低くなっている。


(このままやれる……!)


 エルミアがそう確信したとき、視界が歪んで身体の自由がきかなくなった。抵抗するも無意味なことに、身体は段々と崩れ落ちていく。


「また……だ、魔力切れの……弊害……」


 意識こそあるものの、エルミアが必死に体を起こそうとしても上手くいかず、余計に気分が悪くなるばかりだった。


(少し経たないと治らない……でも、それじゃあ……)


 男はエルミアが戦闘不能なのを良いことに、恐怖心を払拭するようにブルっと首を振ってエルミアに狙いを定めた。

 エルミアを仕留めんとする銃弾が今、放たれようとしている。


「エルミアさんっ!」


 終始立ち尽くしたままだった咲喜が、声を上げて男に飛びかかった。

 銃を持っている右手首を左手でぐっと掴み、銃口を自分やエルミアに向けさせないよう斜め上方向へ押した。

 右手は相手の左腕を掴んでいる。できるだけ抵抗力を弱めるためだろう。


「ぐっ……死ねっ、馬鹿!」


 咲喜が挑発とも取れる暴言を吐いているが、エルミアは咲喜が無策で敵に突っ込むようなことをするとは思っていなかった。きっと何か意味があるのだと考え、周囲を確認して彼女の意図を汲み取ろうとする。


(さっきの人の物が……)


 エルミアは、近くに転がっている銃を見つけた。ついさっき殺した男が持っていた物だ。恐らく弾は入っている。


「そんな力で勝てると思ってんのか、女!」


 男はそう言うと右膝を曲げて咲喜の腹を強く打った。咲喜はその攻撃に耐えきれず両手を男から離し、その所為もあって同時に反動で尻餅をつく。


 エルミアはその様子を横目に、未だ上手く動かせない手をなんとか伸ばす。


(届け……あと、ちょっとで……)


 そして、遂に伸ばした手の指の先に銃が触れた。そのままこちらに引き寄せ、右手で完全に握る。


(使い方は……こう?)


「邪魔だ、お前が先に死ね!!」


 男は自身の行為を妨げられた怒りに身を任せたのか、咲喜に標的を変えて銃口を向けた。


「……先に死ぬのは……貴方、ですよ」


「……は?」


 男が困惑した声でこちらに顔を向けた。エルミアはそんな彼に構うこともなく、銃のトリガーを引いた。


 ――バンッ。


 銃弾は瞬く間に男へ到達し、彼の胸を貫いてその命を奪った。男の身体は無気力に倒れ、それ以上動くことは無い。


「痛っ!」


 発砲した衝撃が手首に響き、床から少し浮かせていた手が床に打ち付けられた。


「エっ、エルミアさん……」


 咲喜が安堵と悲哀の篭った声でエルミアの名前を呼ぶ。そして、しっかり立ち上がらないままエルミアの傍に寄った。


「大丈夫……ですか? 突然倒れてしまって……」


 と、咲喜はエルミアを心配している。


「すぐに治るから大丈夫です。……と、それよりも……ありがとう。咲喜さんがああしてくれなかったら二人共々……どころか、皆んな死んじゃってましたよ」


 少し上からエルミアの様子を覗き込むように見下ろす咲喜に、無事と感謝を伝えながら見上げ返した。


「それは……良かった」



*****



 ――数分前。


 俺と霊戯さんと透弥は、エルミアと咲喜さんと離れて正面の出入り口近くの壁際で敵を待ち伏せしている。

 俺が左側、霊戯さんと透弥が右側で待機している。これは透弥に言われた事だが、一番殺傷能力のある剣を持っている俺が先制攻撃すれば戦いが楽になるためだ。


 俺はできるだけ敵に見えないように、体の右の方で剣を縦に構えている。

 また、透弥と霊戯さんは足で攻撃できるように構えている。


 ――ザッ。


 壁の向こうから足音……奴等が来た!

 敵の体が少しでも視界に入ったら俺が飛び出して、首でも斬ってやる。

 だが、もし失敗したら……と思うと冷や汗が垂れる。


 スっと白い物が入ってきた……銃の先端だ。まだ、もう少し体を入れてきたらだ。


 ――っ!


 手首が見えた。今だ!


 そして俺は両手で持っている剣を上に高く振り上げ、丁度良く視界に入った男の首元を狙って振り下ろす……が、


 ――バキンッ!


 敵の男は俺が襲い掛かるのに気付いてしまったようで、俺が剣を振り下ろすのと同時に銃を向けて発砲した。

 銃弾は運良く剣に直撃し、俺に当たることは無かった。


 ……だが、流石に土製の剣が銃弾に敵うわけもなく、直撃した部分に亀裂が生じて剣が二つに分かれてしまった。

 俺は剣の柄を持っていたため、俺の力が働かない剣先は回転しながら俺の方へ飛んでくる。


 ――スッ。


「いって……」


 その剣先は俺の額に掠りながら斜め上方向へ飛んでいった。大怪我って程じゃないが、掠った部分が切れて少し血が散った。痛い。

 しかも、痛みで反射的に傷口を左手で触ってしまった。その所為で余計な刺激が額を走る。


 左手を離すと、真っ赤。自分では分からなかったけど、こんなに血出てるのか……。


 俺の右手に残っているのは三分の二程度になってしまった剣。届く距離が短くなった分、敵を斬るっていうのは難しい。

 ……その代わり先がトゲトゲになってサイズも小さくなったから……それを活かすなら、投げる?


 俺は剣をブンと思いっきり投げてみた。勿論鋭い方を前にして。


「フン、これで殺せるわけないだろガキが」


 俺が投げた剣は彼の右腕に当たったが、咄嗟にした攻撃にはいまいち力が乗らなかったようで、少し傷付いた程度……あれじゃ意味無い。

 しかも、声で気付いたが最初に俺を騙した奴じゃないか!


「よくも騙したな……俺を」


「ハッ、騙されたのが悪いんだ。あの場で殺さなかっただけマシだと思えよ」


 と男は言ったが、そんなことで納得できるわけないだろ!


 ――バンッ!


「うおっ!?」


 銃声と……透弥の声! そうだ……そっち側はどうなってるんだ!?


 男の後ろを覗くと、俺に近い方から順に透弥と霊戯さんと……もう一人霊戯さん!?

 ……あ、そうか……偽物もいるんだ。


「オイちょっと助けてくれ! 銃を奪われちまったんだ!」


 手前の霊戯さんが、俺と対峙している男に向けてそう言った。助けてくれってことは、偽物の方……不味いぞ、透弥と霊戯さんが死ぬ!


「ああん? ったく、仕方ねぇなあっ!」


 男はそう言うと、俺に注意しながらも向こうに銃を向けた。これじゃ本格的にヤバい……。


 ――!


 違うぞ……手前の霊戯さんは調子と言動こそ敵側のように感じるけど……若干ニヤついている。

 本物だ。

 姿と声が似せられている事を利用した、直接手を下さずに勝つ戦法!


 次の瞬間、バンッという銃声と共に奥の方の霊戯さんが鮮血を噴き出して倒れた。弾が当たったのは左腕で、右手で押さえながら蹲っている。

 最初から考えていたのか、それとも即興か分からないけど……霊戯さんの頭脳はやはり桁違いだな。


「よぉーし、かかったな馬鹿め!」


 手前にいた透弥が、罵倒しながら男に殴りかかった。が――


「あれ?」


 男は、有ろう事か透弥の右ストレートを左手でいとも簡単に受け止めてしまった。


「俺を騙すなんてやってくれるじゃねえか、この野郎!」


 男は透弥の拳を握って動けなくさせてから、足で思いっきり蹴り上げた。

 その足は透弥の胸辺りにガッと当たり、透弥は背中から倒れる。


「ぐっ……がはっ……」


 胸を押さえ、苦しんでいる透弥……すぐに体勢を立て直すことはできないだろう。

 霊戯さんも現状を把握してはいるようだが、こちらもまたすぐに戦えるほどの距離じゃないし……。

 今やれるのは、俺だけだ。


 俺は落ちている剣を拾い、折れて鋭くトゲトゲした方を下に向けて男の背後を取った。


 エルミアに言われた、死にたくないなら……生きたいなら抗うという事。それが分かっていても、できるなら命を奪うことはしたくない。

 ……でも、俺含む誰もが死なずに勝てるには、こうするしかないんだ。

 この前は本当に殺すことはせずに終わったけど、今回こそは殺す。


 それが生きる覚悟、人を救う覚悟だと……俺はそういう解釈をする。


「あ……」


 男の首に刺さった剣は、肉を抉り、血管を抉り、対象の命を確実に奪う。

 すぐ近くでやった所為で……噴き出した大量の血が俺を襲い、殆ど何も見えない。


 でも、良いんだ……これで。


「危なかったな……透弥」

 第14話を読んでいただき、ありがとうございました! 最近アクセスが増えてて嬉しいです。

 次回もお楽しみに!

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