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第11話 ただ、それを疑いもせず

 霊戯さんから買い物を頼まれたんだが、咲喜さんと透弥がいるなら俺が行く意味は無いんじゃないか?


「それ、俺が行く意味あります?」


「そりゃああるでしょ。知り合った人との友好関係は大切だよ」


 霊戯さんはそう答えた。つまり、俺に咲喜さんと透弥と仲良くしてほしいってことだな。


「羽馬兄さん、戻りました~」


 ちょうど良く、咲喜さんが透弥を連れて戻ってきた。透弥はさっきと比べれば機嫌は良いように見えるが、やはりどこか気に入らない様子だ。


「お、戻ってきたね。今、泰斗君にお使いを頼んでたところなんだ。咲喜と透弥も一緒に行ってきてほしい」


 霊戯さんが二人にも頼み込んでいる。直後、またもや透弥の耳を突く声が飛んできた。


「あいつと一緒に行くのかよ!?」


 俺、嫌われ過ぎじゃないか?


「お使いなんていつも一人なのに……今日はそんな大人数で行くんです?」


 咲喜さんが疑問を露わにした。一人で三人分の買い物なんて俺からしたら偉いことだ。

 俺は二人分の買い物すら母に任せているぐらいだからな。


「泰斗君とは暫く関係が続きそうだし、仲を深めるには最適なイベントじゃないかと思って」


 咲喜さんは霊戯さんの論に納得の意を示していたが、透弥はそうでは無さそうだった。

 咲喜さんは俺の方へ近付き、


「行きましょう」


 と軽く催促した。咲喜さんと出会ってから今までで一番距離が近くなった瞬間だったが、間近で見る程美しい女性だった。可愛いとも言えるな。

 さらには良い匂いがする。


「買い物だのお使いだのって、買ってくる物を言わないと分からないだろ」


 玄関近くに居た俺と咲喜さんの後方から、透弥の声がした。言われてみれば、俺達霊戯さんから買ってくる物を指定されていなかったな。

 俺、肝心なことを忘れ過ぎだ。因みに、咲喜さんが小声で「確かに」と言った事は本人も聞こえていると思っていなさそうなので、誰にも言わないでおく。


「ああ、そうだったね。ほら、このメモに書いてあるから」


 霊戯さんはそう言うと、ズボンのポケットから小さな紙切れを取り出して透弥に手渡した。

 透弥はそれを受け取ると、早足で俺達に追い付き、玄関のドアを開けた。

 俺と咲喜さんもそれに釣られて事務所を後にした。勿論、エルミアに「行ってきます」を伝えてから。


「俺達が通ってるスーパーは歩いて大体十分ぐらいの所にあるんだ」


「へえ、そうなのか」


 透弥が前を歩き、その少し後ろを俺と咲喜さんが歩くという形で進んでいたため、透弥は首を回して、俺と会話していた。

 透弥が前を向いた隙に、俺は透弥には聞こえない程度の小声で、咲喜さんに話し掛けた。咲喜さんはそれに気が付いたようで、俺に耳を傾ける。


「透弥っていつもあんな風に不機嫌なんですか?」


 これを聞いたのは単純に疑問に思ったこともそうだが、もし俺に嫌われる原因があるなら知りたいからだ。


「透弥はああ見えて人殺しとかそういうの許せないタイプなんですよ。だから、あの話を聞いてどうにも気に入らなかったみたいで……」


 流石姉、弟の考えることは分かるものなんだな。というか、人殺しが気に入らないなら俺がどう頑張っても関係は改善されないんじゃ?


「なのに羽馬兄さんったら仲を深めるとか、珍しく鬼畜野郎だったんですよ~。分かってる筈なのに」


 咲喜さんは少し笑いながら言った。「鬼畜野郎」が本当にそう思っているのか冗談の類のものかは置いておいて、咲喜さんもそう簡単に仲良くなれる状況じゃないと考えているのは明白だった。


「でも、霊戯さんって何か考えがありそうですよね。ちょっとどう言えば良いのか分かりませんけど、先の先まで見ていそうというか……」


 霊戯さんは、少なくとも出会ってからはずっと笑顔だ。その所為で、何を考えているのか、何をしようとしているのか分からない。

 だからこそ、頭の中では凄いことを考えているんじゃないかと思ってしまう。


「私もそう思いますよ。……私と透弥は親を亡くしたところを、羽馬兄さんに拾ってもらったんです。その時からずっと……羽馬兄さんは笑っている」


 拾ってもらった……親戚とかそういう関係だと思っていたけど、言い方からしてそうではなさそうだ。


「彼の笑顔を見ていると、どんなことを考えているんだろうって気持ちになるんです。そうしていると……別に好きとかってわけじゃないですけど……不思議と惹き込まれるんです」


 そう語る咲喜さんは、霊戯さんと似たような笑みを作っていた。その顔には一切の曇りが無く、心の底から霊戯さんを想っているようだ。


「羽馬にいは凄い人なんだよ」


 透弥がこちらへ振り向いて言った。もしかして聞こえてたのか?


「あら、透弥聞いていたの?」


「ああ、聞いてたぞ。羽馬にいの話が始まった頃からな。それより前は知らねぇ」


 まあ、途中から小声とか意識して無かったもんな。聞かれて困る話でもないし、良しとしよう。


「霊戯さんって探偵だけど……やっぱり頭が良いのか?」


「当然だ」


 透弥は食い気味で答えた。如何にも自信満々って感じの声だ。


「羽馬兄さんはね、どんな難事件も解決しちゃうんですよ。私と透弥も同じ探偵ですけど、到底及ばない程の実力なんです」


 生活を共にしている人がそう言うんだから、相当凄いんだろうな。俺じゃ絶対に辿り着けないだろう。


「特に凄かったのは俺達を助けた時だな。もう五年も前になる」


 霊戯さんの話をする透弥は、それまでよりも元気で明るい。


「助けた……って、拾ってもらったってやつ?」


「それだけじゃねぇ。俺達は監禁されてたんだよ、よく分からん所に。後から聞いた話だが、警察が二ヶ月かかっても俺達を見つけられなくて羽馬にいに依頼したら、一週間程度で見つけちまったらしい」


 監禁!? 霊戯さんについての話も勿論驚きだが、二人が監禁されていた事の方がずっと驚きだ。


「監禁……って何で?」


 言ってからでは遅いが、聞いちゃ駄目だった気がする。


「あ、ごめん聞いちゃ――


「別に聞いたって構わねぇよ」


 と、彼は特に気分を損ねた訳では無さそうだった。まあ、元々機嫌が悪いんだけど。


「まあ、今みたいな話を聞けば誰だって気になっちゃいますよ」


 咲喜さんもそう言ってくれた。


「俺達でもよく分からねぇんだよ、何でそうなったかなんて。羽馬にいも、俺達の居場所は分かっても犯人の特定には至らなかったらしい」


 犯人は分からなかった……って、犯人は現場に居なかったってことか? 霊戯さんでも正体が突き止められない程の犯人が現場を監視していないなんて不自然な気もする。


「だから、私達は今もまだその犯人を追っているんですよ。普通の依頼もあるので進捗は無いですけど」


「それでも、きっといつか見つけられますよ」


 俺は二人に、不器用ながらも励ましの言葉をかけた。


「ま、羽馬にいのことだし俺達が知らない内にも調査を進めて解決の道を辿ってるだろうよ」


「だよね」


 二人共 とも、霊戯さんのことを本当に信頼しているんだな。探偵じゃない俺でも、二人の口振りで分かる。


「でも、霊戯さんって可愛い一面もあるよな」


 カフェでの出来事だ。彼の見た目からしてブラックコーヒーとかそういうものを頼むと思っていたのに、「ニャンニャンいちごパフェ」と来たものだから意外だった。


「「可愛い一面?」」


 二人が口を合わせて疑問を唱えた。二人みたいな親密な関係の人にはそういったところは見せないのか?


「だって、カフェでニャンニャンいちごパフェなんて頼んでたんですよ。ちょっと意外じゃないですか?」


 俺がそれを発した直後、その場の空気が一変した。さっきまでとは全く違う……黒く、暗くなった。


 …………?


 俺、何か不味いことでも言ったのか?

 透弥と咲喜さんは僅かな間の後顔面蒼白になり、口も開けずにただ俺を見つめている。

 その緊張は空気に乗って俺にも伝わった。理由は分からないが、何か深刻な事態が起きたのだと。

 咲喜さんは絶望した、というような面持ちで口に両手を当てている。

 一方の透弥は……と、彼に目を向けると丁度口を開いた。


「お前……今、何て言ったんだ?」


 カフェの話か? 透弥の声は異常なまでに震えている。


「だから、霊戯さんがカフェでニャンニャンいちごパフェを頼んでいたのが可愛いって……」


 俺は言われるままに、さっきと同じ事を透弥に伝えた。


「イヤ……だって……」


 だって……何だ?


「……羽馬兄さんは……」


 咲喜さんが、透弥の言葉に繋げて言った。咲喜さんの方も透弥と同様の事柄を把握しているようだ。

 次に、透弥が再び何か言おうと僅かに空気を吸い、


イチゴアレルギー(・・・・・・・・)だぞ……?」


 と言い放った。どういう事だ?

 ……つまり、霊戯さんは自分のアレルギーを理解していながらイチゴを口にしたということ?

 でも、それならもっと早くに……俺達が事務所に居る頃には症状が出ている筈だ。俺はそれが何を意味するのかすぐに考え出せなかったが、二人に関してはそうではないらしい。


「つまりだ……さっき俺達と一緒に居た羽馬にい……イヤ、アイツは……羽馬にいじゃない!」


 ――は?


「今朝だって羽馬兄さんはアレルギーだからって、私達が食べたイチゴアイスを食べなかったんです……」


「……だから、偽物……」


 咲喜さんと透弥は途切れ途切れにそう教えてくれた。

 あの霊戯さんは偽物? 仮に何処かで本物と入れ替わったとして、俺はそんなの知らな――


 知らなくない。あれだ。


「カフェで待ち合わせた少し前だ……霊戯さんが事件現場に入った後のこと……俺は見てない!」


 霊戯さんが事件現場に来るまでのことは知らないが、探偵事務所から向かったのなら車から降りる事も無いだろうし、あのタイミングしか考えられない。


「泰斗さん……」


 咲喜さんが俺に呼び掛けた。


「事件現場、茶色い装束、エルミアさんが狙われている事……そして、何故羽馬兄さんに化ける必要があったのか考えると……答えは明白です」


 ――!!


「事務所に戻るぞ!」


 透弥が声を上げると共に、俺達三人は探偵事務所へ走り出した。


 何で警戒できなかったんだよ俺!

 エルミアと偽物の霊戯さんが二人きりになるって事……それはもう、攫われるか殺されるかしか道は無いだろ!



*****



 ――バンッ!


 探偵事務所に着きドアを勢い良く開けたが、案の定そこには二人の姿は無く、静まった部屋だけが取り残されていた。

 第11話を読んでいただき、ありがとうございました! 暫くキャラ達が話し合う場面ばかりだったところでの急展開……どうでしたか?


 さあ、泰斗達はエルミア、そして本物の霊戯さんを救う事はできるのか……!?

 次回もお楽しみに!

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