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異世界ヒロインが現世に召喚された話  作者: みたろう
第三章 エルーシャ姉妹編
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第105話 スピリチュアル・ドール③

「んーとその、トロデロポーム? は、ユーラが操ってるってことで合ってるのか?」


 変哲な名前を気にしている暇はない。まずは人形が動く理由を、本人から聞こうじゃないか。


「合ってるよ。人形操術ね。魔術の一種さ」


 魔術とは、変魔術のこと。幻術なんかもこの仲間だ。

 しかし、操る術ということは術師がどこかに隠れているということになる。

 少なくとも同じ建物内ではない。近所に秘密基地でもあるのか、または街のどこかに隠れているのか。


「お前自身はどこに隠れてるんだ?」


「隠れてなんてないよ。出向いたのは最初だけで……教団のアジトから操作中だ」


 教団のアジトって何県の何市にあるんだろう。

 どうせ行けないからという理由でレジギアから明かされていないが、まさか北海道から操作しているわけはないよな。


「面白いねぇ、色んな魔法があって」


「イヒヒ、どうも」


 やめろ、コイツを褒めるな霊戯さん。

 いい気になって暴走されたらどうするんだ。


「……そいじゃ、君が逃げないうちに聞こう。単刀直入にだ。君は多分、教団員なんだろうけど……何が目的なのかな?」


 霊戯さんの予想が当たっているかどうか、これでハッキリする。

 因みに、ここで「アジトを飛び出した異世界人を捕まえるためなのかな?」とか言ってしまうと、その異世界人のことを知っているということは、教団員の誰かと繋がっているとバレる。


「イヒヒ、実はね……二日前。もう何十分か経てば三日前。召喚された異世界人がね、どこかに行ってしまったんだよ、預言者を無視して……」


 術師の様子は窺い知れない。

 声のトーンや口調でなら、ギリギリ察せるかも。

 今は……なんか、面倒そう。


「僕はその異世界人を捕まえて連れ戻す役を担ったってわけさ。イヒヒ、さて今頃餓死してるかなぁ~……」


 してはいないだろうな。

 つい昨日、二人殺されたばかりだ。あの殺し方からして、犯人は「ド」が付く狂人。生活の場が無かったとしても、そう簡単に死ぬ奴じゃない。

 そういえば、その異世界人による被害は伝えるのか?

 もし伝えれば、コイツはさっさとここから撤収しそうなものだ。

 通常起こるような事件ではないから、異世界人と結び付けて考えるのは自然。伝えてもレジギアのことが知られる危険は無い。


「死んでないよ。最近、都内で火事が多発しててね……森が燃やされている。あんまり不思議だから、ちょうど異世界人の仕業なんじゃって疑ってたところなんだ。きっと君の言うのは、そいつ」


 代わりに、というわけじゃないが、霊戯さんが言ってくれた。

 俺が下手に言ってミスをするより、彼に任せた方が確実。そう思って黙っていたのは正解だった。


「へええ……イイネ。その人、祭壇の破壊とかやらかしてたから、教団内でも処罰を与えようって意見が主流なんだ。君らが行方を追っているならぁ~今だけ協力したいなぁ~」


 協力だって?

 レジギアとも協力関係にあるのに、このユーラとも仲良くしないといけないのか。

 個人的にコイツ嫌いだから、できるなら関わりたくないし、敵というなら動けなくしてやりたいよ。

 でも一応、目的は一致している。事件現場の記録で大体の位置を把握している俺達と、教団だけの知識を持ったユーラが協力すれば、異世界人の捕捉はこのまま進めるよりも早まるだろう。

 レジギアでは預言者に遠すぎるから、ユーラと協力することで判明する事実があるかもしれない。

 どちらのメリットも大きいんだ。そのことを利用して何かしようとしているのかもしれないが。


「協力する間僕達に危害を加えない、という条件付きでなら、いいよ」


「ソッチこそね」


 霊戯さんの余裕の表情。彼とユーラはきっと、全く同じ笑顔で協力を締結した。

 不安はもちろんある。しかし、霊戯さんが認めたのなら大丈夫かという安心もある。

 ただ、俺達の詳細な活動内容は見られないようにするべきだ。危害を加えないのは協力の間というなら、その期間が終了すれば再び敵同士となる。こちらの動きや様子が完全にメモられていたら、敵対した瞬間に殺されるだろうからな。



*****



 ユーラは寝室に向かって歩き出した。

 寝室にはエルミアと天原さんが。いきなり襲うことはしないとは思うが、不審なので着いて行った。


「君がウワサのエルミア・エルーシャかぁ~」


 通学路で突然肩を掴んでくるオジサンみたいな調子である。

 好戦的じゃないのが却って怖い。闇討ちとかされないだろうか。仲良くして、取り敢えずは敵対心が無いのを理解させ、背後から……って。

 エルミアもやっぱり訝しがっている。


「泰斗君……この人形が物音の正体なんだよね?」


 天原さんを守るように腕を出しながら、エルミアは俺に問う。


「ああ、人形操術師ユーラ。人形は名付けてあるらしいんだけど……トロ……何だっけ?」


「トロデロポームくんだ。忘れないでよ」


 怒られてしまった。

 何が「忘れないでよ」だ。忘れてくださいとお願いしているような名前だろうが。

 霊戯さんの何倍も付き合いにくいパーソナリティーを持っている、一口に言うと「めんどくさい」奴だ。


「よろしくねぇ~エルミア」


 一層気色の悪い、ニタニタっとした声質で、ユーラは言った。

 まるで好みの女性を発見した男のよう。とことん利用してやるぜって意気の。

 全く、対立するしかなさそうな輩だ。



*****



 エルミアにも事情を説明し、理解してもらった。

 今夜はお休みする。動くのは明日からだ。何も知らない天原さんの家で、ぐっすりと眠って体力をつける。


「よしよし、これでオッケー」


 また物音だ。霊戯さんがリビングで何かやっている。

 彼のことだから無意味な行動ではないと思い、睡魔にタックルしてリビングに赴いた。


「何してるんですかー?」


 人形のある棚の前に、霊戯さんは立っていた。

 ご機嫌な様子だが、遊びではないということは雰囲気で察せた。

 俺が後ろから声を掛けると、霊戯さんは振り返って人形を見せてくれた。


 人形が縛られている。

 ドラマで犯人に捕まっている人質のような感じで、手足の自由が奪われている。

 おまけに目の部分に黒い布が巻かれていて、恐らく人形の目を通して物を見ているユーラは、視界が真っ黒に染まっているだろう。


「しないとは思うけど、夜中に襲ってこれないようにしたんだ。これで安眠でしょ?」


「なるほど」


 手足を縛って移動を封じる。

 目を見えなくして魔法という手も使えなくする。

 ユーラは脱出できなくなったわけだ。企みが無くとも物音がしたら起こされるし、良い策だな。

 毎日こうしていれば、天原さんが苦しむこともなくなる。一番はユーラと共に例の異世界人を見つけ、彼がここに居座る必要を無くすことだが。


「ね、いいでしょ? ユーラ」


「まあいいよ、許すよ」


 そこで霊戯さんはピコンと何かを思いついたようだ。

 二階に上がり、すぐに戻ってきた。


「声出されるとうるさいから、これもプレゼント」


 トロデロポームくんの口にガムテープが貼られた。

 多分だけど、ユーラと人形は連動している。つまりこれで、ユーラは夜間に喋ることができなくなった。


「ンーンー」


 完璧だ。



*****



 朝になりました。


 天原さんに「とある所で人形を調べたい」と嘘をついて、近くにあった公民館で話し合うことにした。

 子供や老人が本を読んだり、謎のゲームをしたりしている。そんな公民館の隅で、灰色の煙を漂わせながら机に向かっているのが俺達だ。


「さて、僕らの持つデータをユーラに明かそうか」


 現在までで六件確認されている火事の現場を、地図を広げてユーラに見せた。


「どんどん進んでるねぇ。かなり遠い」


 六件目の現場付近にまだ居るなら、ここからは相当離れている。別に行けないわけではないけど、どうせ見つからない。


「このライン……意図してのものだろう。ということはだよ、誘ってきている」


 実際に、定多良さんと緑山さんは誘われて殺されたようなものだった。次の現場はここだ、と特定して待機していたから、殺されてしまったんだ。

 エルミアやラメに行かせれば戦うこともできた。だが誰であろうと、同じ結果になっていた気がする。根拠は無いけど、勘がそう言っている。


「じゃあ次にヤツが来る所を予想して、待ち構える……ってゆーのは、ヤツの作戦にハマってるわけだね」


 そうか、根拠はそれだ。

 次に自分が向かう森を予想させ、行かせる。そして待ち構えている奴らを殺す。これが作戦。

 こんな作戦を実行できるということは、自分の能力に過剰な自信があるということ。同じ異世界人が「十二人の戦士」だということが伝えられているなら、その戦士にも勝てると信じているわけで。

 ナルシストなだけで本当は貧弱だ、という可能性に賭けるなんて頭の悪い行動をしてはいけない。飛んで火に入る夏の虫だ。俺達は考える脳のある人間なんだから、火には入らない。


「どうしましょう……」


 エルミアは俺の隣で悩んでいる。

 ちなみに反対側の隣にはラメが座っている。


 ところで、敵がどんな能力を持っているのかが少し気掛かりだ。

 火事や爆発からして、火属性の魔法を多用するのだろう。そのたった一つしかわからない。

 もしかしたらヴィランのような、特別な能力を持っているのかもしれない。べべスやユーラのような魔術も対処が難しい。

 せめて能力と強さだけでもインプットすれば、戦うことになっても勝機を掴めるかもしれない。


 ……そうだ。


「この六つの現場、全て調べてみるのはどうですか? 何か敵の能力が分かるかもしれません。場合によっては戦い方も考えられるようになります」


 霊戯さんは「その発想はなかった」と言うように目を丸めて感心の頷きを繰り返している。

 なんだか嬉しい。これは、俺の発想の勝利だ。


「そうしてみようか」


 ここで今日の予定が決定した。

 ではでは足立区まで車を走らせようじゃないか。運転するのは霊戯さんだけど。

 天原さんにはどう説明しようか。調査の一環と伝えれば納得してもらえるかな。


「天原さんには上手いこと説明しないとですね」


 俺は立ち上がり、ぐーっと伸びをした。結局安らかに眠れなかったからだ。


「僕はジョシュセキにでも乗っけてね」


 ユーラは動かないポーカーフェイスで言った。

 すると、それを聞いた霊戯さんは彼の頭を掴んで持ち上げた。


「いいや? 君は連れて行かないよ」


「エエッ!? 何でさ!」


 ユーラは焦ってジタバタし出した。口は動かないくせに手足は動くんだから。

 それにしても、ユーラを連れて行かないとは何事か。

 協力した意味が無い。


「だって君は、教団員そのものなんだから。僕達の行先に応じて隊を派遣し、包囲することも可能なわけ。それを防ぎたいんだよ。六箇所のどこに行くかは絶対に教えないから……ま、天原さんとお留守番してて」


 抜け目のない霊戯さんであった。

 嫌いだけど敵対心は無さそうに思えたユーラだが、霊戯さんはまだ心配だったようだ。俺達がユーラから受ける物が無くないか?

 いや、今日はあくまでも敵の能力の調査。いざ戦うとなればユーラにも参戦してもらう。


「折角仲良くなれたのになぁ~。僕、そんなことするつもりないよぉ~?」


 その口調で反論されると途端に信用できなくなる。

 これは留守番させるのが正解だ。霊戯さんが言ったのと同じことでなくとも、何かしら迷惑は掛けられるだろう。未来が見える。


「ってことだから、お留守番よろしくね」


 天原さんと一緒に居ると、ユーラは全く動けない。何故なら、ユーラは人形の作者、つまり天原さんの彼氏を尊敬しており、その意思を尊重しているからだ。天原さんに正体を明かすことは、絶対にできない。


 というわけで、ユーラには内緒で、最初の現場へ行くことに決まった。時間が余れば次の現場にも行く。

 メンバーは俺、霊戯さん、エルミア、ラメの四人。良いものが得られるといいな。

第105話を読んでいただき、ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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