第1話 召喚、出会い、始まり
『ゲーミング・ライバルズ2020、今大会の優勝はこの男……朱海泰斗!!』
『ワアァァァァァァ』
暗い小部屋に響き渡った、パソコン越しに聞こえる飾られた名前と黄色い歓声。
その声を聴き、俺は嬉々として両腕を振り上げた。
振り上げた両腕を思いっ切り振り下ろし、目の前のデスクを叩いた。
「これで二連チャン優勝......これはキテる!」
これはいい。凄くいい。金の一銭も稼げずに生涯ニートで死んでいくと思っていたが、これなら暮らせるだけの金は自分で稼げそうだ。
嬉しいからか、口元がブルブル震えている。口角が上がっているんだろう。
しかし、なんだか今の俺は凄く不細工な顔をしている気がする。
*****
「……腹減ったな、コンビニ行こう」
ずっとゲームをしていると喉が渇くし腹も減る。そんなときは近場のコンビニで食料調達。
部屋から出て階段を下る。さっきの喜びで自然と足が階段を強く叩いてしまう。
一階の床に左足を着け、玄関口まで伸びる廊下に差し掛かろうと右足を斜め前に出したその瞬間。
「今日も学校に行く気はないの? 今日は文化祭だったらしいわよ」
聞き慣れた言葉だ。
高く、しかし呆れたような声が横から出てきて耳に刺さる。
それは紛れも無く俺の母親の声。
大会優勝。引きこもりでも稼げる明るい未来。そんな事に胸を高鳴らしていた筈なのに、なんだか急に現実に引き戻された気分だ。
例えるなら完成間近の砂のお城に水をかけられた、そんな感じに。
「何度言われても、学校には行かないから」
俺は微量しかない会話スキルをフル活用し、なんとか声のトーンを下げて冷めきった自分の感情を表してみせた。
母はそれ以上言うことは無さそうなので、俺は足早に家から出て行った。
*****
目的地であるコンビニは家から徒歩で二分程の場所にある。
そして今、俺はコンビニ手前の歩行者信号に辿り着いたのだが、ちょうど赤信号となり止められてしまった。
普段ならこういった待機時間というのは次に読むラノベとか、次に見るアニメとかを考えるのだが、今日に限ってはそうではない。
母の言葉がオタク的思考を遮って脳内を走り回る。
いくら聞き慣れた言葉と言っても、上がりきったテンションを振り落とされただけあって頭に残ってしまった。
学校には……もうあんなとこには行きたくないんだ。別に学力が無くたって、生きていけるだけの金を稼げてそれなりに楽しい人生ならそれで良いんじゃないのか?
……と、もうそろそろ青信号だ。
コンビニに行く度に通る道となると、信号が変わるタイミングは無意識の内に記憶するものだ。
そうすると、自然に信号を確認しないまま歩き出してしまう。
まあ尤も、俺に内蔵された時計は狂いを知らないからそれで良いんだけどね。
――ブウウウゥゥゥン。
左から車の走行音。音量的にトラックだろうか。左を向いて確認してみると、案の定そこには猛スピードのトラックが一台、こちらに迫って来ている。
――あ。
――――俺、死ぬのか。
一瞬で自分の行く末を悟った。もう既に一歩……というか三歩踏み出した後だ。
今から走っても避けられない。
死ぬならせめて、異世界転生とかさせて貰えないかな。よくラノベであるやつみたいに。
そうでもないと、俺悔いあり過ぎるよこの人生に。学校行ったとしても、行かなかったとしてもさ。
自分でも驚くぐらい思考が速い。死ぬ前ってこんなものなのか。
そんな悠長な事を考えながらも、未練と恐怖に苛まれて心臓の鼓動が耳に入る程に強くなる。
トラックの甲高いクラクションが鼓膜に響き、耐え難い痛みを予感させる。
その音は徐々に、でも確かに、小さくなっていく。
これが意識が遠のく、ということなのか。
まるで深い海の底に落ちて行くような、光が見えなくなっていく感覚だ。
目を閉じて死に行く感覚を味わう。今までありがとうな、俺の大好きなゲーム達よ。
フワッとした感覚に襲われる。魂が抜けたんだろうか。
イヤ、魂が抜けたならこうやって考える事もできないから違うのか。
すると数秒後、「ドサッ」という音と共に柔らかい物が体に当たった。一体何だろうか。
「危なかった……大丈夫ですか?」
柔らかく、温かな声が耳を撫でた。
目を開けると、紺色の髪に金の瞳、小顔でローブを羽織った異世界風な美少女がいた。
距離はゼロ、抱きかかえられている。
「トラックに撥ねられたはずの俺が生きていて、目の前には可愛らしい美少女……ということは」
その瞬間、俺の表情筋がぐにゃんと歪み、恐らくこれまでの人生で一番であろう満面の笑みを作った。
きたぞ、これは確実に。
それから少し息を吸い、数秒の溜めを作ってから、俺は叫ぶ。
「異世界転生、キターーーーーーーー!!」
「はえ?」
美少女は俺の喜ばしそうな表情と唐突に発せられた叫び声に呆気を取られているようだ。
まあ、無理も無いか。
彼女は少しの間そのまま固まってしまったが、直後にハッと気が付いた様子で言った。
「もしかして、風魔法で無理矢理助けたから軽く脳震盪でも起こしてるんじゃ……」
要らぬ心配だ。
俺はこのとおり平常運転。仮に脳震盪を起こしていたとしても異世界転生という十分な対価を受け取っている。
「って……あれ? ここ異世界か?」
辺りを見渡すと、信号があり、コンクリートで舗装された道路があり、電灯があり、コンビニがある。
俺の思い描く「異世界」というものは中世ヨーロッパのような建築物が並び、剣士や魔法使い、果ては獣人なんかがいる場所だ。
仮に、俺の中の「異世界」と実在する「異世界」が同じものとするなら、目の前にいる美少女はどう説明すればいいのだろうか。
今いるのは間違いなく現実世界だ。
何故なら先程と何ら景色が変わっていないから。
しかし目の前の美少女は「ザ・異世界人」な容姿で、俺が生きているということはトラックに撥ねられそうな人間を一人で救助した……つまり、それ程の力があるという事。
――という事は。
「もしかして君、異世界から来ちゃった?」
初めまして、みたろうです。
なろうどころか、小説自体執筆するのはこれが初なので、地の文での描写が下手だったり設定が曖昧だったりがあると思います。
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