女の目線。
「私はお前を愛してはいない…」
整った顔立ち、高そうな時計に靴、彼の体格にあったスーツ、乱れひとつない髪型。私はこの人を一目見た時から愛していたのだ。場所はスーパーの惣菜コーナの前だったが、まるで彼は…そう、宮廷にいる王子様のようだった。私は彼のことを知りたくて、近くにいたくて猛アタックした。彼は結婚していなかった。そして結婚を望んでいた。好みのタイプは家事の出来る家庭的な女性だそうだ。家事は苦手だが、彼に好かれたくて一生懸命練習した。
「わ、私と結婚してください!」
「いいよ。結婚しよう」
…好き、好き、好き。私は彼が好き。今日、我慢できなくなり彼にプロポーズをした。彼も了承してくれた。ついに彼と結婚できる。彼と共にこの先歩んで行ける。
彼はいつも何を考えているのだろう。何を見て、何を聞いて、どこへ進んで行くのだろう。目的地なんて知らない。知る必要なんてないけど、私は彼の3歩後ろを着いて周る。彼が走れば私も彼と同じくスピードで。彼が止まれば私も止まる。いつまでもどこまでも一緒。結婚して今日で一年。彼に内緒でケーキを買いに行こう。
「しまった。財布を忘れちゃった」家を出て10分も歩いてしまった。けど、ケーキ屋について財布がないことに気づいたら、どっかの愉快な国民的主婦のようになる所だった。
“ガチャ”彼は何をしているのかしら。玄関の扉の音をたてないでこっそり入るつもりが重たい扉のせいか、音が部屋へと響いてしまった。彼を驚かせるのは失敗だ。また今度やろう。
はたり、はたり…
何かが垂れる音がする。なんだろう。蛇口をしっかりと締めてなかったのかしら。
「あなたっ!!」彼が自分の腹に包丁を突き立て血を流している。何があったの?何故?首に巻いていたマフラーを彼の傷口へ押し当てるが、血は止まらない。
「…や、やめろ」やめろ?なにを?なんで?
…ポタッ
「なんで、なんでこんな事に…」なんで彼が傷ついているの?彼が自分でやったとしか思えない程周りは静かだし、私にはなんで彼が自殺を図ろうとしているのか分からない。
「…」
「私はこんなにもあなたを愛しているのに…あなたと共にありたいだけなのに…」いや、私は彼が何をしているか理解する必要は無い。私はあなたのいつも後ろを着いて周りだけ。
「あなたが死ぬのなら、私も死にます。あなたと共にどこまでも行くましょう」大事なところで噛んでしまった。…恥ずかしい。
「…」
——
「1月1日未明に、男性と女性の遺体が高級マンションの一室で見つかりました。警察は遺体の見つかった部屋を捜査中ですが、夫婦の自殺と断定し、事件性はないとの事です…」