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空知らぬ雨  作者: 睦鬼
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男の目線。

「あなたのためなら死んでもいい…」

 新宿にある安いキャバクラHIKARIで、安い酒とそこそこの見た目の女達と何を話すでもなくはげた女好きのクソ上司の機嫌をとる。これは毎週金曜日のルーティンワークとなっていた。家に帰りたいわけでも、女と酒を飲むのが嫌いなわけでもないのでいいのだが、クソ上司の内容のない薄っぺらな話を長々と聞かねばならないことは苦痛でしかない。だが、これが昇進のために使えるのも、人と関わりを持つことによって何かあったときにも人を使えるのは経験上しっている。そして、顔は悪くはないとおんなの反応を見ればわかっているのでそこらへんの適当な女を抱く。

将来は安泰。己の欲も満たされている。


…だが、虚しいのだ。

 どれだけ酒を飲んでも女を抱いても、 “将来の為” “お金の為”と、メリットのみを求め行動している自分の人生とは一体何なのかとふと疑問に思う。妻を目取れば私の生活が変わるのでは、と思い適当に家事をこなせるそこそこの見た目の女と結婚した。だが、妻は私を愛していた。それこそ狂うほど私を愛していた。私のなにが妻をそこまでにさせたかは分からない。だが、私はやはり虚しいのだ。満たされない。この女は私の虚しさ、この心の穴を埋めるには足りない。


この人生が悪いのか?

私の生き方が間違っていたのか?

そうか…ならリセットしよう。死んでやり直そう。


 妻のいない時を狙い包丁を片手に時計を眺めていた。この時計の短針が0になったら死のう。そう思いながら包丁を固くにぎり締めた。

…3、2、い

“ガチャッ”玄関の扉が空いた。タイミングの悪い女だ。だが、まぁいい。

“グサッ…”

生暖かい液体が包丁をつたいはたり、はたりと床へ落ちてゆく。

「あなたっ!!」馬鹿な女が叫びながら私の元へ駆け寄る。泣きながらマフラーを私の腹へと押し付け流れ出る血をとめようとしている。だが、真っ白なマフラーは私の血を吸い真っ赤に染まってゆく。

「…や、やめろ」私は死にたいのだ。この心にぽっかり空いた穴を埋めたいのだ。

…ポタッ

「なんで…なんでこんな事に…」女が泣いている。美しない顔がさらに醜く歪み涙をながしている。

「…」意識が…視界が霞んでゆく…

「私はこんなにもあなたを愛しているのに…あなたと共にありたいだけなのに…」

「あなたが死ぬのなら、私も死にます。あなたと共にどこまでも行くましょう」

「…」この女は……


——


「1月1日未明に、男性と女性の遺体が高級マンションの一室で見つかりました。警察は遺体の見つかった部屋を捜査中ですが、夫婦の自殺と断定し、事件性はないとの事です…」


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