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「入学しない」という誘惑

体内の魔力と空間上の物質とを交わらせて、様々な物理現象を引き起こす「魔法」


そのなかでも闇属性魔法は、攻撃能力こそ高いのだが、攻撃にしか使えないという、不器用な特性を持っていた。


俺は、そんな闇属性魔法の使い手である。


というより、異常なまでの魔力数値と、闇属性魔法適正に恵まれてしまっている。



子供のころからなぜか妙に才能があり、それを使って近くの森で動物を狩ってみたり、たまに現れる、モンスターとかいうみょうちきりんな生物を倒したりして調子に乗っていたことがあった。


一番記憶に残っているのは、中学生のころだろうか。


別に攻撃できることが役に立つ場面はあまりなかったけれど、周りの人にできないことを自分はできる。それが何よりうれしくてたまらず、俺はかなりの厨二病を患っていた。


右腕に包帯を巻いたクラスメイトからは相棒と呼ばれていたし、女子からもモテたので内心それはもうウッハウハだ。


闇属性魔法さんありがとうございます!!と中々本気で思っていたし、初対面の相手にも魔力数値を引き合いに出せば勝手に驚いてくれた。

まあ魔法の英才教育を受けたわけでもないので、あくまで数値だけ異常なだけで、使うこと自体がとてもうまいわけではないのだが。


とにかく、闇属性魔法の才能でちやほやされたもんだから、子供の俺は天狗になり、世の中を甘く見て怠惰に過ごしていた。


テレビで魔法を使って働く人々をみて、俺もこんな風になるんだろうかと思ったりしながら、勉強もろくにせず過ごす毎日。

そうして、人生を調子に乗って適当に過ごしながらに、俺はこう思っていた。


いや、この才能あればぶっちゃけどうにかなるっしょwww


助走をつけて全力で殴りたい。

そしてそのまま高校三年になり、このふざけた思考が現実になってしまう。


今思えば、それは俺の人生をガラッと変えてしまうスイッチのような出来事だったのかもしれない。

さすがに進路を考える時期になり、遅れた勉強のペースを少しずつ取り戻していた秋の日の放課後......。


いつもお世話になっているサーカス団にバイトをしに行こうと、友達と軽口をたたきながら下校しようとしたある日、廊下で頭の薄い担任から声を掛けられた。


要約すると、校長から話がある。だそうだ。


この学校の校長は、未だ30代半ばの年齢でありながら、バリバリ教師をまとめるエリート。能力があれば30代でもなれるらしい。

今年から配属された先生だが、無駄に顔がイケメンなのであまり好きではなかった。僻みである。


とりあえず校長室に入り、なにか怒られるようなことしたっけ?と思いながら校長の向かいの席に座る。

そんな不安も杞憂だったのか、若々しい目をした校長から告げられた言葉は、予想だにもしないことだった。


「単刀直入に、まさかまさかの話なんだが......」


「まさかまさかの話なんですか」


どうやら切り口的に俺が修学旅行で女風呂を除いた案件ではないらしい。


「その......実はルファルシオン学院から、入学の招待状が届いていてね......」


「なるほど、ルファルシオン学院から......へ?今なんて?」


単刀直入に告げられたその言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げる。

それもそのはず、ルファルシオン学院といえば、あの国立の超巨大研究学園だ。

具体的に何をしているのか等は知らないが、とにかくすごい学校だと聞いている。


俺に送られてきたのは、その世界の最先端を行く大学からの「入学しません?」通知らしい。



「招待状に”闇属性魔法学”と書かれてるから、恐らくそれ関係なんだよね。まあ君の才能を考えれば妥当だけれど」


軽口を叩くような口調で校長が言うが、一応俺の人生分岐点なので、もっと固い感じでお願いしたい。


「なんだ?その、すごく名誉なことなので入ることをおすすめするようん、それがいいんじゃないかな」


というか、言葉遣いからしてとにかく滅茶苦茶胡散臭い。普段もっと冷静な人なのだが、完全に取り乱してるだろこれ。


「それで、具体的になんで俺なのかっていうのは......?」


その質問をした瞬間、校長がすっと目をそらす。


やっぱ絶対何か隠してるなこの人。


「あの、なんで俺がルファルシオン学院からそんな招待状が来てるのかもっと詳しく教えて......」


「後生だからさ、頼むよ!決めるのは君だけど、その決定がいろんな人の人生変えるということも考慮して考えるように!あとで親御さんとも三者面談するから!それまでに考えておいてくれ!もちろん前向きにね!」


急にどうしたんだろう。さすがに困惑するのだが......。

この人は頭がおかしくなったのだろうか。それとも最初からおかしいのだろうか。


校長の勢いに気おされながら、俺は思考を巡らせる。



ルファルシオン学院は、魔法・科学技術を研究する大学だ。国中から優れた若者を集め、将来有望な人物を育てる、国のお墨付きの最上位学院。

ここ数年、開発の余地が有り余る科学技術部門でなく、農耕の時代から使い古され、開発の余地はほぼない魔法部門になぜか入学者を多く割いているとニュースで報道されていたのを見たことがある。


なんでも理事長が急な方向転換をしたらしく、政府もこれに対して黙り込んでいるため、世間からは疑問の声が上がっているらしい。

その影響で田舎の公立校に通う、闇属性魔法だけはまあまあできる俺に目を付けたのかもしれないな。


入ってしまえば卒業まで住むところも食べるものも提供してくれるらしいし、そっちから「入学してくださいよ~」と言ってきたのなら、思い切って入学してみるのもいいかもしれない。


ただ、そうはいっても疑問は残る。一般人とは比べ物にならない魔力、闇属性魔法適正。それだけを見れば、招待される可能性はあるのかもしれないが、それを使いこなせているかを証明するのが試験や大会での実績というやつだ。


実績がない人間に、世界最高の学院という夢のような進学の選択肢が与えられる。そんなうまい話があるのだろうか。


やばい、頭がこんがらかってきた。



「す、すまない。少し取り乱した」


少しじゃなくてすごくだと思いますよ。


「まあ、その、なんで君なのかってところは、私にも分からないんだよね。文書に書いてあることは情報が少ないし......。あっ、でも心配しないで!この招待状は信頼できる公式機関によるものだからさ!」


まあ、分からないならそれでいいのだが、なんでそれを隠したりするのだろうか。俺がそれに不信感を感じて入学を拒否するかもしれないからか?それにしては怪しさ満点だったが。


......ん?


「校長、もしかして俺がルファルシオン学院に行けば自分の評価が上がって給料上がるかもとか、昇進できるかもとか、そんなくだらない理由で」

「......君、校長室に勝手に入るのはよろしくない。話は一通り終了したんだから、道草せずにまっすぐ家に帰りなさい。誤解を解くように言っておくが、別に君がルファルシオン学院に行こうが、この学校や私個人の評価が大幅に上がってメリットがあるわけではないからね。この学校の評価が上がって質のいい生徒が増えそうだとか、私が教育委員会の上のほうに行けるかもとか、そんなことは一切ない」


なるほど......。


この出世欲の権化め!!!


そんなこんなでもめているうちに、もうすでにあたりは薄暗くなっていた。



バイト先に仕方なく休ませてほしいと連絡を入れ、家に帰るため自転車を走らせる。


ルファルシオン学院か......。


俺的にはもちろん滅茶苦茶ありがたい話だ。ありがたすぎる。もはや学生ではなく研究対象として捕獲しようとしているのではないかと思ってしまうほどだ。


4年間の生活保障とルファルシオン学院の卒業履歴。

そして何より「受験がない」というのが俺を誘惑する。


もちろん、同時に少しだけ嫌な予感もあった。何の前触れもなくこんな招待状が届くだろうかという違和感だ。


秋の夕暮れも終わりかけ、そろそろ自転車をこぐ体も冷たく感じる。


進路のことより、火属性魔法が出したいという欲求が大きくなってきたので、結局その場で答えは出さず、家に帰ってから考えることにした。


かくして俺は、自宅の暖房器具でぬくぬくとしながら、人生においての大きな判断をすることになったのである。

お試しで投稿しました。現在別のWeb小説サイトで2話以降を連載中です。

「闇属性魔法が使えなさすぎる!!」

の同一名タイトルがあるらしいので、適当にサブタイトルを付けまくりました。

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