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七曜の選士

 七曜町。元々田舎町だったこの地。ここ数年で急速に都市化が進み、高速道路が引かれ、ショッピングモールが出来、新築物件が多く立ち並ぶようになり、多くの人が移住してきて、異様な発展を遂げ始めた町だ。

 元々は七曜ノ神と呼ばれる一柱の神を祀る小さな町だった。今でもその面影を残す地はあるものの、それも失われつつあるが、その町にある七曜神社も廃れてきて、取り壊しの案件が立ち始めていた。昔から住む地域住民はそれに反対しているが、先行きは不透明なままだ。


 さて……なぜこの地が七曜町と呼ばれ、七曜ノ神と呼ばれる神が祀られるようになったのかを説明すると、その昔、妖やモノノ怪、鬼などと言った人ならざる者が跋扈していた時代、かつては小さな名も無き農村だったこの地に『七曜ノ神』と名乗る神が現れ、七曜の神器と呼ばれる七つの武器を出現させた。しかし出現したそれに触れてもまともに扱える人物は居らず、結局どうにもならないと諦めかけた時、武器が自ら動き出して人を選び、選ばれた者は大きな力を得て、その人ならざる者たちを封印した。そしてそのそれぞれの武具を手にした者たちは『七曜の選士』と呼ばれ、今も語り継がれている……という昔話があり、それを『七曜伝承』と言う。その元となった地として『七曜町』と呼ばれるようになり、『七曜神社』という、自社仏閣の多い京都にあってもおかしくないほどの立派な神社が建てられたのだ。

 そして、そんな七曜町に住む一人の青年が居た。茶髪であるという以外の容姿は普通。性格も少し気だるげだがそれなりに人付き合いもよく、面倒見も良いため友達はそれなりに多く、男女を問わない。成績は割と良く、運動神経は並みか、少し良い程度で、彼の名前を『五十嵐(いがらし) 聖也(せいや)』と言う。

 


 男とはいつだって特別感に憧れていて、自分がそうなりたいとは思わずとも、どこかで“かっこいい主人公”になって女の子からモテまくりたいー、とか、そんな事を願っている人も中にはいるだろう。この聖也もその例に漏れずそんな事を考えては……


「いやぁ、無理無理」


 なんてことを、学校に行くために制服に着替えながら、自室で呟いていた聖也。


「聖也ー!学校行くよー!」


「あいよー」


 聖也はごくごく一般的な家庭に生まれている普通の青少年だ。家族構成は聖也、姉、父の三男構成で、聖也はその姉に呼ばれて二階建ての家にある自室の二階から降りていく。

 階段を降りた聖也の目の前には、金髪ロングで褐色の肌をしていて、着崩してスカートを折りまくった姉の『千聖(ちさ)』がいた。胸元はガンガンに開いていて目線に困る聖也だった。3年生だというのに身長はなんと155cm程度と小さい千聖だが、逆にその身長の分の栄養が全部行ってしまったのかと疑うべき魅惑の果実が二つほど胸元に主張しまくっている、垂れ目と薄い唇が印象的な、校内でも指折りの可愛さだと言われている、元気とコミュ力が取り柄なアイドル風味のその姉が玄関で既に靴を履いて待っていて、聖也を見上げるように見ていた。ただでさえ背が低いのに、さらに玄関先に立っている関係で余計に小さいとは、聖也には言えなかった。


「ったくー、遅いってーの聖也!」


「ごめんて」


 そして、開いた玄関のドアの向こうには五十嵐姉弟の幼馴染である『雨宮(あめみや) 奏音(かのん)』が居て、聖也に手を軽く振っていた。

 奏音は千聖とは真逆のスレンダーない体型であり、クールな性格をしている。身長も165cmと女性としては高く、切長の目と黒髪ショートが印象的だ。しかし、これまた千聖とは逆で胸はあまり大きいとは言えず、いつも羨ましそうに千聖の胸を眺めていたりする。……先程姉の千聖をアイドル風味と例えたので、奏音はモデル風味と言っておこう。実際に居そうである。


「おはよう、聖也」


「ん、おはよ、奏音」


「よっしゃ、そんじゃガッコー行こー!」


 この三人の中で一番元気な聖也のギャル姉千聖は二人の手を引いていく。そんないつもの千聖に聖也と奏音は苦笑しながらもついていく。これが割といつもの光景であり、普段から三人仲良く学校に行っている。周囲のクラスメイトは『ザ・フツメン』である聖也に、何故これほどまでの可愛い姉と美人な幼馴染が居るのかと嘆いていたり、いなかったりだ。


「いやっはー、さすが夏!今日もいい天気だねー!」


 ただいい天気というだけで元気いっぱいの千聖に半ば呆れながらも素直に千聖に手を引かれる聖也と奏音。


「千聖さん、昨日の宿題はちゃんと出来ましたか?」


「えっ?しゅくだい?……あったっけ?」


 千聖はフリでもなんでもなく知らないと言ったような様子で聖也にそう訊ねるが、学年の違う聖也がそれを知るはずは無い。


「いや、知らんわ。俺に聞くなっての」


「……もう。卒業できなくても知りませんからね?」


「にぇへへー、だいじょびだいじょび!なんとかナルナル!」


 ならない気がする、と、この時の二人は思いながらも、それを口に出すことはなかった。割と再三言ってきたので、諦めている節があるのだ。しかし、嫌いにはなれないので、なんだかんだで世話を焼いている、と言うのが現状。ちなみにだが、奏音は非常に成績優秀で、今季の生徒会長も務めている。中々のやり手である。そして、聖也はその生徒会の副会長を務めており、しっかりと奏音のサポートをこなしている。いいパートナー同士である。


「そういや奏音。今日って委員会は休みだったよな。いつも水曜は委員会の集まりがあるはずなんだけど……なんかあったのか?」


「いえ、特には何もないわ。この前出来上がった二学期度の部活動経費の提出をするだけだから大丈夫よ。そこでまた先生方と会議の予定だから、聖也と千聖さんは先に帰っててね」


「およ!?聖也と一緒に帰れるのなんてめっずらしぃー!んっふふー、買い食いして帰るべ聖也!」


「ふーん、遅くなりそうなら連絡しろよ?迎えにいくから」


 聖也はバイク乗りを趣味にしており、カスタマイズやらの知識は持ち合わせてはいないが、大型バイクの免許を持っており、それを取得するために父親に必ず返すからと土下座までしていた。夏休みはバイトと友人との予定でいっぱいである。


「……ふふっ、ええ、そうするわ。夜道は怖いから」


 そんなこんなでいつものように授業が始まる。既に一学期末のテストも終わっている7月19日。夏休みに向けてみんなのテンションも上がってきていて、授業の合間の会話はここのところ夏休みを予定を立てようとする話ばかりで、かく言う聖也や千聖や奏音もそれは例外ではなかった。


「おう聖也!今日珍しく生徒会の集まり休みなんやろ?いっつも付き合い悪いんやから、今日ぐらい遊びに行くん付き合え」


  夏休みまでの消化試合のような授業も終わり、関西から越してきてこの学園に通っている高校からの友人である『松浦(まつうら) (しゅん)』が聖也を遊びに誘っていた。


「あぁ、舜か。……今日は珍しく一緒に帰れるって言って姉ちゃんが喜んでたんだ。悪いけどパスな」


「あー?!千聖センパイと帰るぅ?!なんちゅー羨ましいやっちゃ!」


 何度も言うように、千聖は学校内の男子生徒の憧れで、聖也の友人にも千聖の事を可愛いと思っている男子は多い。


「うるっせーなぁ、お前らにとっては魅力的な女でも、俺にとってはただの姉なんだっての。なんなら姉ちゃんも誘うか?100%カラオケになるけど」


「マジか!俺はかまへんで?」


「はぁ……はいはい、ちょっと連絡してみるわ」


 そうして千聖と合流した聖也と舜、千聖が連れてきた女友達や他の聖也の友人合わせて6人でカラオケに行き、飲み食いしたり歌ったりと、その一日を楽しんだ。そしてこれからもこんな日常が続いていくのだと、誰もが疑わなかった……この時までは。


「ん、電話だ。奏音から?あぁ、今終わったのか、迎えの電話か」


 遊んで帰ってきたところの聖也と千聖。時刻にしておよそ19時なのだが、そのタイミングで奏音から電話が入ったのだった。


「なるほどねー!よしよし!おとーさまには私から言っておいてやろう!迎えに行くといいぞー!」


「さんきゅー姉ちゃん。……もしもし?」


 普通に電話に出た聖也だったが、電話の主は普通の状態ではなかった。


『聖也……!よかった、助けて……!変な奴に追われてるの……!』


 小声だが、間違いなく緊迫した状態の声。その声を聞いた聖也もみるみるうちに表情が引き締まる。普段のぺーっとしている聖也も、本機になると表情がまるっきり変わる。それを見ていた千聖はすぐに只事ではないと察し、家に入って父親である『隆二(りゅうじ)』に報告した。


「何があった!?今どこだ!」


『七曜神社の中……!神社の前まで変な影みたいなものに追われてたの……!』


「変な陰……?幽霊……いや。そんなわけないよな……まぁいいや!すぐ行くから待ってろ!でも、見つかったらすぐ逃げてまた連絡してくれ!いいな?!」


『分かったわ、待ってる……!』


 聖也は家のドアを開け“七曜神社に行く”と叫んで、ガレージ内の木刀を取り出して背中にくくりつけ、カバンの中に懐中電灯を二つ放り込んで、すぐに自慢の大型バイクに跨り、ヘルメットも装着しないまま七曜神社へと飛ばした。法定速度ガン無視である。

 元々五十嵐家も雨宮家も古くからこの地に住み続けていた家で、当然聖也たちの家がある付近はまだ道路の舗装も最低限しか行われておらず、人の往来も殆どないため、法定速度など有って無いようなものなのだが……。


「着いた……!奏音!?どこだ!!」


 背中にくくりつけていた木刀を解き、カバンから懐中電灯取り出し、階段を照らしながら駆け上った聖也。人の気配の無い神社の中を照らし、奏音の名を叫ぶ。


「奏音!俺だ!聖也だ!!奏音どこだ?!」


「聖也!」


 叫んでいると、奏音が神社裏から呼び出してきて、聖也に抱きついた。よほど怖かったのだろうか、それとも全力で走ったのか、受け止めた聖也の手には制服にまで染み込んだ汗が付着して、かなり冷たくなっていた。


「……すげぇ汗、よっぽど怖かったんだな……もう大丈夫。とりあえずこれ着ろよ。その服じゃ風邪ひくぞ」


「え、ええ、ありがとう……見ないでね?」


「分かってる。この緊急時にそんなこと心配すんなっての」


 聖也は着ていた制服を脱ぎ、Tシャツ一枚に制服のスラックス姿になると、奏音にこれに着替えるように促し、奏音に懐中電灯を渡し、もう一つの懐中電灯をカバンから取り出して辺りを照らしながら木刀を構え、周囲を警戒していた。


「ありがとう聖也、着替え終わったわ」


「よし、とりあえず帰るか、ここに居ても怖いままだろ」


 そう聖也が言って降りる階段を照らした時だった。その階段から、ゆっくりと登ってくる黒い陰。


「!!!」


 それに懐中電灯の光を当てると、その黒い影には“首から上”が存在せず、黒い陰だと思っていたものは、本当にただ真っ黒なローブ姿の首無しだった。その手には錆びつき、刃こぼれした日本刀が握られている。どう考えても人間ではなかった。


「奏音、まさか、アレに追われてたのか?」


「……!!!そ、そうよ……あ、アレに!」


 聖也が奏音に、その首無しを視認したまま訊ねると、奏音は怯えたように声を震わせながら、叫ぶように聖也の質問に肯定した。それを聞いた聖也はさらに強く木刀を握りしめる。


「……クソっ!あんなところに突っ立ってられたんじゃどうやっても帰れないだろ……!」


 階段を登ったところで静止し、刀を持っている右側の肩がガクンと落ちていて、体が右側向かって非常に傾いているその首無し。よくあるRPG系ゲームでは動きもノロく、簡単に倒せてしまう雑魚的にも見えるが、その実物を目の前にすると、その名状し難いその姿にどうしていいのか分からなくなってしまう。


(確かにさ、妄想はしてたさ!英雄みたいに戦って女の子からモテたいとかさ……!でも、実際に起きるなんて思ってないっての……!)


「ど、どうするの聖也……?」


 不安そうな声音で聖也に問いかける奏音。普段の冷静な姿はそこにはない。今の奏音を守れるのは聖也だけ。


「……下がってろ、どうにしろアイツをどうにかしなきゃ帰れないだろ……!どうにか俺が時間を稼ぐ。その隙に逃げて親父たちに伝えてくれ!不審者に刃物で襲われてるってな……!親父たちならどうにかしてくれるだろ……警察にだって連絡してくれるかもだしな……」


「そんな!聖也を一人ここに置いていくなんて嫌よ!」


「でも、コイツをここで野放しにしたら他の人に被害が出るかもしれない……最悪誰かが殺されるかもしれないだろーが!……よし、よし……!行くぞ!……合図したらすぐにダッシュしろ!いいな?!」


「わ、分かったわ……」


 奏音の返事を聞いて聖也は頷き、懐中電灯を投げ捨てて木刀を両手で構える。


「っ、こ、このやろぉぉぉぉっ!!!」


 聖也は走り出し、思いっきり上から首無しに向かって振り下ろす。すると、ゲーム脳だった聖也が想像していたよりも早くその首無しは腕を動かし、素早く木刀を錆びた刀で受け止めた。


「今だ!!走れ奏音!!!」


「っ!!」


 合図に合わせて走り出した奏音。聖也は奏音を追わせないように連続で木刀を上下左右から振り回した。首無しは意外にも的確にその攻撃を受け止めるが、その隙に奏音は逃げおおせていた。単純だが、聖也の作戦勝ちである。


「……よっしゃ、成功……うぉおっ?!」


 しかし、喜んだのも束の間、首無しが刀を振り上げ、聖也に向かって振り下ろしたのだ。どうにか木刀で受け止めるが、錆びていても敵は金属の武器、自分は木製。強度差は歴然で、木刀に切れ込みが入っていく。


「うわっ、うぉぉ!!ちょっ、死ぬ死ぬ!!」


 アドレナリンが出まくって恐怖感が消えている聖也はなんとかギリギリで錆びた刀の攻撃を防いでいたが、いつまでもこの調子だと、いつか木刀が折られて丸腰になるのは必然。ならばと聖也は一旦距離を空けて体勢を整えた。すると、今までの攻防で異常なほどスタミナが消費されていて、自分が肩で息をしていた事に気がついた。


「はぁ、はぁ……なんだよこれ、戦うのってめちゃくちゃ疲れるじゃんかよ……!」


 額から流れる汗。しかし、敵は目の前に。その汗を拭う暇など、今の聖也には無い。さらに、首無しは聖也との距離を詰めて攻撃を仕掛けてくる。


「はっ!はぁっ!!おらぁ!!」


 技術も何もないただの一般人の攻撃を受け止める事など容易いと言わんばかりに、その首無しは攻撃を防ぎ、逆に攻め立てていく。先ほどまで階段の近くで戦っていたのに、気がつけば押し込まれて聖也の背中が神社


(このままじゃヤバい……俺、ここで殺される……?)


 そんな事すら頭によぎった時、階段を急いで駆け上がっていく音が聞こえた。


「聖也ぁ!!!無事か!!」


 駆け上がってきたのは父親である隆二だった。その後に続いて千聖と奏音も駆けつける。3人とも携帯のライトを使っており、聖也とその前に立つ首無しのこともライトで照らして姿を確認していた。


「親父!姉ちゃん、奏音!!」


 安堵感からそう叫んだ聖也だったが、そんなことはこの首無しにはそんな絶対の隙など逃すはずもなく、その錆びた刀は隙だらけだった聖也の左肩から切り付け、切れ味の悪い錆びた刀では表面を切るだけに留まるが、それでもノコギリで体を削り切られるようなモノだった。鮮血が飛び、境内の地面に赤い飛沫が落ちる。


「きゃぁぁああっ!!聖也ぁ!!」


 どちらの叫び声かも分からない。聖也が切られた事に対する悲痛な叫び。……聖也にとってもいままでそんな痛みなど体験したことはなく、とてもではないが耐えられないもののはずだった。だと言うのに……


「ぐぅっ!!クソ痛えじゃねえかこのクソがぁ!!」


 その痛みで怒りの臨界点に達した聖也は、自身を切りつけた事によって隙ができたその首無しを思い切り蹴り飛ばした。


「ぜってえ逃さねえぞこの野郎……!」


 首無しは完全に背中を地面につけて倒れこみ、聖也はさらにその首無しに追撃し、思い切り首無しの全身に木刀を何度も叩きつけた。


「ど、どうだクソ!クソッ!二度とっ、起き上がれぇっ、ねえようにっ!してやるっ!!」


 動きの鈍くなった首無しに対して、もう二度と起き上がらないよう、トドメの一撃とばかりに木刀を全力で振り上げ、ハンマーを叩きつけるように振り下ろした。


「でぇえええええい!!!……はぁ、はぁっ、!ぐぅぅっ、超いてぇだろうが!この首無し野郎……!かはぁぁぁ……」


 その後少し距離を取って座り込んでしまった聖也。しかし、そのダメージなど無かったかのように、首無しは立ち上がったのだった。


「お、おいおいマジかよ……!」


 首無しは再び錆びた刀を振り上げた。


「逃げろ聖也!!っちぃ!!」


「っ、っ!た、立てない……!……はぁ、ちくしょぉ……」


 後ろから隆二が首無しに向かって駆け出すが、間に合いそうもなく、ここで終わりかと聖也が諦めかけた時だった。


『……貴方は見せてくれました。誰かを守れる勇気を。自分の危険を顧みず、命を投げ出して他者を守る勇気を……持ちました』


「は?な、なんだこれ……走馬灯……?な、なんだよこの声……?」


 その声が聞こえた時、時間がまるで止まったかのように、走っている途中の動きのまま固まった隆二と、今まさに振り下ろされている途中の錆びた刀が目の前で止まっていた。


『……私は七曜の壱。陽を司りし聖剣。……【布都御魂(フツミノタマ)】』


「フツミノタマ……?」


『……はい。その亡者のような存在はその一体だけではありません……これからこの七曜町に出現してくるうちの、初めの一体に過ぎません』


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!……それじゃまるで、七曜伝承じゃないか!」


『……その通りです。前七曜の選士たちがこの者たちを封印したのが、大凡(おおよそ)千年前。その封印も千年の刻を刻み、綻びが生じ始めたのです。そこで、七曜ノ神は再び我々七曜の神器を目覚めさせ、新たなる選士を探していたのです。貴方がその一人目なのです。……“五十嵐 聖也”』


「お、俺が七曜の選士ぃ?!なんで俺……ああくそっ!まぁいいや!なんだってやってやる、俺もこんなところで死にたくないしな!」


『ありがとう……七曜の選士、聖也。私は常に貴方と共にあります。……受け取ってください。私を!』


 そして時間が再び動き出す瞬間、聖也の右手に握られていたはずの木刀は消え去っていて、握られていたのは傷一つ見受けられない、真っ直ぐな刃を持つ片刃の剣。その剣が収まるのだろうと分かる鞘も左手に握られており、聖也は導かれるように剣を振り上げていた。


「なっ!!?」


「聖也?!」


 キィィィン……と静かに、しかし鋭い金属の音が鳴り響き、首無しが持っていた錆びついた刀は、布都御魂によって切り裂かれ、刀身が境内に落ちて金属音を鳴らす。

 首無しは何が起きたのか分からないのか、完全に動きを止めていた。


(なんだこれ……技が、流れ込んでくる?……業火一閃……?だー!!もう!何が何だか分からんが、同じようにやればいいんだな?!やってやるよ!!)


 聖也は布都御魂を鞘に収め、深く腰を落とし、体を右側に向けるように捻ったと同時、その鞘に収めた刀身を素早く抜刀した。


「切り裂けぇぇぇえええ!!」


 すると、炎を纏った斬撃が飛び、首無しに直撃すると同時にその炎は一瞬にして首無しの全身を包み込んで燃え盛り、小さな爆発を起こして消えた。その場に首無しの姿は無く、完全に倒したと言う手応えが聖也の中に残っていた。


「……勝った……俺、生きて……」


 倒した安堵感からなのか、緊張の糸が切れたからなのかは分からないが、聖也はフッと意識を失い、倒れたところを隆二が抱きとめた。


「聖也!!……寝てるだけか……心配させるな。まったく……。ん?なっ、傷が無い?!……くそっ、一体何が起こってるんだ……」


「「聖也!!」」


 奏音と千聖も聖也に駆け寄って、先程切られていた胸元を確認して驚いていたが、とにかく家に連れて帰る事にし、隆二は息子を背負い、いつのまにか鞘に収まっていた布都御魂を奏音が持ち、ひとまず自宅に帰るのだった……。



────────



「ふっ、七曜の選士があのようなひよっこでは、此度の戦は我々……“妖”が勝ったも当然よのぉ……ふふっ、フフフフフッ……」

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