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事件

 午後の授業中、俺がしたことはクラスメイトを片っ端から鑑定することだった。


 名前を覚えるため、ではない。

 いくら鑑定したとはいえこの人数の名前を覚えるのは難しいし、覚えようという気がない。人間、興味のないことは覚えられないのだ。


 鑑定した理由は、他に宇宙人がいるかを調べるためだ。

 案外、宇宙人というのは普通に存在するのかもしれない。


 ちなみに、厚木さんが宇宙人ではないという線を考えるのはやめた。

 異世界転移があるのだから宇宙人がいてもおかしくない、という精神である。というか、異世界転移の方がよっぽど現実味がない。この【鑑定】スキルが残っていなければ、俺の壮大な妄想だったのではないかと疑うほどだ。


 対して宇宙人の場合、古来から学者が真剣に存在を考えていたものだ。

 現状、完全に証明された例はないが、むしろ地球にしか生命体がいないと考える方が無理ある。


 それが普通に地球人に紛れて生活しているというのは、SFの世界だけだと思ってたけどな。


【鑑定結果】

 種族:地球人

 種族:地球人

 種族:地球人

 種族:地球人

 ……

 ……

 ……


 結果は、他のクラスメイトはすべて人間だった。

 【鑑定】スキルの応用で、鑑定項目を絞ることで対象範囲を広げ複数にしたり、精度を上げることができる。今回は前者で、高等技術だ。


 個人的に同時鑑定と呼んでいるが、クラスメイト全員を対象として発動した。普通は視線などでターゲットを絞るのだが、訓練すると見ないでも使用できるようになる。戦闘中はいちいち見ていられないので、身に着けた能力だ。


 ひとまずクラスメイトには、厚木さん以外に宇宙人はいなかった。


 一安心ではあるが、これを学校全体や地域に範囲を広げた場合、どれだけの数存在するのかは未知数だ。

 そこまで広範囲になると一度には鑑定できないので、移動しながら繰り返すことになる。


 さすがに骨が折れるので、やる気はない。


「はい、ではこの問題を……厚木さん、答えてください」

「はい」


 宇宙人って、やっぱ地球を侵略したりするのかなぁ。


 いや、まだ宇宙人が危険だと決まったわけではない。

 ヤチも言っていたが、普通に学校生活を送っているのだ。


 厚木さんは、はきはきと英語の問題に答える。

 その姿を、俺はぼーっと眺める。


 解答は正解だったようで、中年のおじさん先生から褒められ、恐縮しつつはにかんだ。


 相変わらず優秀だ。先生の覚えもめでたく、目立つ欠点はない。

 そこらの地球人よりよっぽど、理想的な地球人をしている。


 俺が焦りすぎていただけなのだろう。

 宇宙人だからって、地球人に害を及ぼすとは限らない。それこそ、小説や漫画の読みすぎだ。


 何もしないのなら地球人と変わらない。


 これから何も起きないのなら、俺がわざわざ行動する必要はない。

 平和が一番だ。


 日常に戻りたい俺はそう結論付け、何も起こらないことを願った。


 しかし、俺の希望を打ち砕くように、異変が起こり始めることになる。

 呪いかってくらい周囲で事件が発生する勇者の性質は、どうやら引退してからも続くようで。







 異変が起こり始めたのは、二日後のことだ。

 家を出る時にうっかり「いってきます」なんて母に言ってしまって、小学校以来の挨拶に母親のテンションが上がり鬱陶しかったので、憂鬱なまま登校してしまった朝。


前髪の後退が進行し額が広い担任が、少しイライラした様子で教壇に上がり、挨拶もなしに口を開いた。


「多田さんが今日も休みです」


 それが仏頂面の理由か。

 多田が誰かは知らないが、生徒が数日学校を休むくらい、珍しくもなかろう。


 クラス中にだからどうした、という雰囲気が広がる。


「昨日休んだ時点で家には連絡したんですが、学校に行くと言って家を出たと仰ってました。そして、先ほど昨日から家に帰ってきていないと親御さんから連絡がきました。携帯にも繋がらない、と」


 そうなると、話が変わってくる。

 正確な情報はないので分からないが、大げさに言うと行方不明だ。


 担任は小さくため息を吐いた。


「誰か、多田さんから休む理由などを聞いている人はいますか?」


 先生の問いかけに、生徒たちが無言で否定する。


「そうですか……香川さん、仲良かったですよね?」

「えっ、うちですか?」


 香川さんが、驚いた様子で自分を指さした。

 先生も、藁にも縋る気持ちなのだろう。


「さあ……でも、多田ちゃんは真面目な子なので、家出とかはしないかなーって」

「僕も同意見です」


 嫌な予感がする。


 こういう時は、当たって欲しくないのに当たるんだよな。


「ご両親は、今日中に戻らなければ警察に捜索願を提出するつもりだそうです。我々学校としても必ず見つけ出すつもりなので、何か情報があれば遠慮なく教えてくださいね」


 担任はそう言って、さっさとHRを切り上げた。


 人によっては大げさと思うかもしれないが、学校の対応としては正しい。


 普段から問題を起こすような不良生徒ならいざ知らず、真面目な女子生徒が連絡もなしに二日間失踪するなど、大問題だ。ご両親も心配している。


 ちらっと斜め後ろの方に座る厚木さんの方を見てみると、青ざめた表情をして目を見開き、指先が小さく震えていた。


 絶対、何か関係ある。勇者として様々な相手と対峙した俺の勘が、そう言っていた。

 友達が行方不明になって心配している、という反応ではない。心当たりがある時の反応だ。


「はあ」


 こんなことなら【読心】あたりのスキルを持ち込むべきだったか?

 汎用性は低いし別に心の中なんて見たくないし、と思って選ばなかったんだよな。


 【鑑定】ともう一つのスキル。それに多少高いくらいの身体能力で、宇宙人に対抗できるだろうか。


 まだ厚木さんのせいだと決まったわけではないが、宇宙人関連なのは間違いないと思っていい。


「俺は腐っても勇者だからな」


 見過ごせない、よなぁ。

 正直、関係ないと言えば関係ない。


 行方不明になったのは、話したこともないクラスメイトだ。

 俺に直接被害がない限り、動く理由は薄い。


 けど知ってしまったから。

 俺が、解決できるかもしれない力を持っているから。

 守れるかもしれない人がいるから。


「勇者業、再会ってことで」

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