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決着

 おそらく、相手は自分が何をされたのか理解できていないだろう。


 巨大で素早く、自動迎撃で全ての攻撃に対応してくる腕。それが唯一の障害だった。

 ヤチはその腕に【再生】を掛けることによって、時間を巻き戻すまではいかなくとも、動きを鈍らせた。


 全盛期のスキルレベルであれば逆再生するように相手の動きを巻き戻せたし、俺は己を極限まで【加速】することで疑似的に時を止めてその中を動けた。

 しかしリセットされた今はそこまでの反則技はできない。だが、この程度の相手なら十分だ。


 俺は緩慢な動きで迫る腕を難なく潜り抜け、ナイフを離しテェテェの首を両手で絞めた。


「【加速】ッ」


 血液を高速で循環させることにより、意識を奪う。

 殺してはいない。その力加減を練習する時間は、異世界でいくらでもあった。


 テェテェの膝ががくんと折れ、地面に付いた。白目を剥いて、そのまま倒れる。

 念のため【鑑定】で状態を確認した。確実に気絶している。

 自動迎撃をしてきた腕も、本人が意識を失っていては動かないらしい。


「よくやったわ」

「けっ、お褒めいただき光栄だよ」


 吐き捨てるように言うが、その怒りの矛先は自分自身だ。

 こんな技術、身に付けていない方が幸せだった。なぜならこれを使う場面は、いつだって人間相手だ。会話が成立しない魔族はそもそも生け捕りになどしない。人間を生け捕って――


「アレは必要なことだった。ケイが気に病むことじゃないわ」

「ああ。わかってるよ」


 ヤチが近づいてきて、テェテェの方に手を置いた。そして【再生】を発動させる。


 これらのスキルは、遠隔で使用するよりも素手で触れることで飛躍的に効果を上げる。対象が気を失っているのなら、なおさらだ。


 【再生】によって、持続的に時間を戻し続ける。つまり、対象は時間が経過しない状態になる。時の檻に閉じ込めるのだ。

 効果が続く限り、目を覚ますことはない。


 ほんと、俺の【加速】とは反対の効果だよな。


「さて、と」


 軽く伸びをして肩をほぐして、厚木さんに向き直った。

 厚木さんは怒涛の展開に目を丸くしながら、棒立ちしている。


「こいつ、どうしよっか?」

「あの、多田ちゃんは」

「それも含めて、だよな。俺のナイフじゃ切れないし」


 どういう原理か、女子生徒が一人腕の中に捕らわれているのだ。

 人質であれば死んではいないのだろうが、取り出す手段がない。


 【再生】によって時間が止まっているから、今から悪化するということはないだろうが、急ぐに越したことはない。


「厚木さん、あなたのかかりつけ医ならどうにかできないのかしら。宇宙人に関係する病院なのでしょう?」

「あ、はい。診てもらえると思います」


 そうか、ヤチが調査していた病院なら、テェテェ星人の対処法も知っているかもしれない。


「生徒会長も、その、知ってるんですね。それに不思議な力を持ってる」

「宇宙人に不思議と言われるのは複雑な気分ね。私とケイは少し特殊な経験をしているだけよ」

「そうですか……助けていただき、ありがとうございました。桂木くんも、ありがとう。本当に助かった」


 厚木さんは、深々と頭を下げた。

 厚木さんは誘拐屋に狙われ、弱みを握るために友人を標的にされた。詳しい事情は分からない。だが、助けられて良かった。

 このお礼と、安心したような表情だけで行動した甲斐があったってもんだ。


「では病院に行くとしましょうか。最高神並びに連なる神々よ、異界の狭間を貸し与えよ【収納】」


 ヤチがすらすらと詠唱すると、テェテェと香川が空中に現れたブラックホールのような渦に吸い取られて消えた。

 気配一つ残さず、完全にこの世界から消滅する。


「え!? 今の亜空間転移?」

「かぁー、【空間魔法】かよ! 羨ましい」


 【収納】とか日本で使えたら絶対便利じゃねえか。

 熟練度次第じゃ実質容量無限で、時間経過のない隔離空間に物を収納できるチート魔法だ。そういうスキルが欲しかったんだよ俺も。

 あいにく俺のスキルは戦闘に偏りすぎて、そんな便利スキルは持っていなかった。


「私はケイみたいに脳筋じゃないのよ」

「うるせえ、鑑定すんぞ」

「女の子二人の前で堂々とセクハラ行為を公言するなんて……あら、そういえばあなた厚木さんに」

「ストップストップ! 俺が悪かった!」


 厚木さんに【鑑定】したおかげで助けることができたわけだが、さすがにバラされるのはイメージが悪すぎる。

 厚木さんは会話の内容がほとんど理解できておらず、首を傾げている。


 ヤチに舌戦を挑んでも基本勝てないので、いつも俺が辛酸を舐める結果となる。

 ちくしょう、こいつにも何か弱みがないものか。


 突然ヤチが微笑みながら歩み寄ってくる。人によっては女神の微笑に見えるらしいが、俺には悪魔のそれにしか見えない。


「そういえば、さっきのはカッコよかったわね」

「は?」

「なぜ助けるのか。それは俺が――勇者だからだ」


 声を低くして決め顔をしたヤチが、耳元で囁いてきた。

 さっき俺がばっちり決めたところじゃねえか!


「てめぇ」

「あはは、さすが勇者様ねぇ!」


 またしばらく弄られるな、と憂鬱な気分を抱えながら、病院に向かうのだった。

 絶対いつか弱み握ってやる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者二人一応選ばれただけあって相性は少しいいのですね。成立しない友情的な感じで 更新お疲れ様です。応援してます。
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