俺の愛を受け取れ!
透古堂HPの「100のお題」47番「都市」というタイトルで公開しているものです。
ずいぶん潜っていかないとたどり着かないし、せっかくのバレンタイン・ホワイトデーネタなので、こちらにも載せさせていただくことにしました。
よろしくお願いします!
二月十四日は雪だった。
高校生活もあと一か月。
三年生は週一回の登校日さえ出ておけば、あとは自由登校だ。
バレンタインデーが登校日に当たっていたのは、学校の粋な計らいなのかどうか、わからないけど。
男子校なのを考えると、ただの偶然としか思えない。が。
俺は大量にチョコを作った。
ちまちまとラッピングもした。リボンもかけた。
「俺の愛だ! 受け取れ!」
クラス中にばらまいた。
「未来のパティシエの手作りか」
「や。ショコラティエだって」
俺が四月から製菓専門学校に行くのを皆知っている。
さっそく食って感想を言う奴もいる。
「見かけと違って繊細な味だなあ」
おいこら。ひどいぞ、お前ら。
外見で菓子作るわけじゃないって。
ま。俺はでかくてごついから、そんな感想が出ても仕方ないかもしれないが。
俺はさりげなく教室を見回す。
セツリはまだ来てないか。
カシハラセツリ。
俺の本命。
俺と正反対にちっちゃくて細くて頭がよくて、四月からは東京の大学に行くことが決まっている。
俺が行く専門学校は、県庁所在地とはいえ、地方都市。
セツリが行く大都市とは比べものにならない。
「あ」
思わず小さく声が出た。
窓の外、ちらちら雪が降る中を、セツリが歩いてくる。
顔の半分が埋もれるみたいにマフラーを巻いている。
「おーい、セツリ!」
窓を開けて、大声で呼んだ。
息が白い。
うしろから「寒い!」「早く閉めろ」と級友がうるさい。
セツリが俺を見上げる。
「早く上がってこい! 俺の愛があるぞ!」
俺はリボンをかけたチョコレートの包みを振って見せた。
セツリが目を細めて、ちょっと笑っている。
もしかしたら。
冗談だと思われているかもしれないけど。
冗談のように紛らわせているけど。
本当は。
セツリの分だけ、違うチョコだ。
特別がんばって作ったチョコだ。
短い手紙も入れた。
書きたいことはたくさんあったけど、何をどう書いていいか、わからなかった。
どう書いても、かっこつけてるか、かっこわるいかのどっちかの感じになる。
しまいには、もうやけになった。
セツリへ。
特別な愛をこめて。
もし、こたえてくれるなら、三月十四日、二時に中央公園の時計の下で。
それだけ書いて封をした。
それから卒業式まで登校日は二回あったけれど、セツリは何も言わなかった。
でも、いつも通りに接してくれた。
俺も、何も言わなかった。
何も言えなかった。
三月十四日は強い風が吹いていた。
花粉だの何だの、やたら飛んでいるらしく、目が痛痒かった。
俺はマスクをして、中央公園の時計の下で待っていた。
セツリは。
来ないかもしれない。
不安が心の中を渦巻いて、
俺は顔をあげられなかった。
風のせいだと、そんな感じに装って、ずっと下を向いていた。
「……」
俺の名を呼ぶ声がした。
顔をあげると、セツリがいた。
「オレの気持ち」
セツリは小さな紙袋を差し出した。
袋の中には、リボンをかけた小さな箱と、カードが一枚。
カードには東京の住所。
「俺、専門学校出たら東京で仕事探すから」
「ん」
「そんで、すげえショコラティエになるから」
「ん」
「そんで、毎年、お前に、すげえバレンタインチョコ送るから」
「ん、待ってる」
ちょっと目を細めて、セツリは笑った。