彼女のグッバイは優しくてしかたがない
初めまして。文月霊菜です。
やっと、初投稿です!
自分の小説家人生最初の作品は恋愛小説にしました!
まだまだ未熟ではありますが楽しんで頂けたら幸いです。
住む場所ぐらいは贅沢したいと思って少し奮発した一人暮らしのマンション。
そのリビングの隅に、わざわざ座れるように座布団をおいた。キャスターがとりつけられたオフホワイトの簡易的な本棚もそこによせてちぢこまって本を読むのが好きだった。
携帯電話に、好きな作家の文庫本、お気に入りのマグに注いだ砂糖入りのカフェオレ。
居心地のいいものばかりにかこまれて、働き始めた新米サラリーマンには似合わないキャラもののブランケットに足をかけた。淡いピンクの生地で、おそらく世界でいちばん有名なネズミのガールフレンドがプリントされている。
少し眺めてから、苦みをたっぷり含んだため息みたいな笑みをこぼした。
「どうしても似合わないな」
これは1か月前、付き合っていた年下の恋人がここに置いていったものだった。彼女といっしょによく隅っこにいたなあと、煙草の煙を肺に落とし込んで思い出す。
「体に悪いから、やめて!」
『タバコが及ぼす悪影響』というのをおれに会う前日に授業で習ったらしい彼女に、泣きながら言われたことがあった。
「肺ガンになる確率がものすごく高くなってね、脳梗塞にもなっちゃうんだよ!」
必死に訴えていた。
だけどおれはそこでやめることができなくて、
「ちゃんと勉強してるじゃん」なんて言って
あいまいにぼかした気がする。
煙草は俺を飾り立てる道具でもあった。
それをやめたら大人になれてない自分が彼女にバレてしまいそうで怖かった。
彼女のために煙草を止められない自分の方がよっぽど子供っぽいというのに。
自然と苦いため息がこぼれた。まったく甘さのない、この部屋。
このリビングの隅っこには、彼女と過ごした思い出もたくさんあった。リビングの真ん中には2人が余裕で腰かけられるソファがあるというのに、彼女はいつもここに来たがった。
2人は結局狭いところに収まってわらった。
笑んだままのくちびる同士をくっつけて、彼女がまた楽しそうに声をあげる。
ふう、と吐いた息は白く、天井に昇っていく。
彼女は俺に対して、タメ口を使ったし、愛称で呼んだ。最後にあった彼女の姿を、表情を、声を思い出す。別れ話を切り出されたのは、この家の玄関だった。
「じゃあね、こうくん。これだけはおいて行かせてね。わたし、子どもだから、こうくんに簡単にわたしのこと忘れてほしくないの」
彼女はいつも通りの自校の制服で、すごい悲しそうな顔で重い声を落とした。
吐き出す煙は途切れずに、ゆるゆるとひどく緩慢に上昇する。
小さい頃、俺は親父が煙草を吸うのをよく眺めていた。それは苦しそうで、煙たくてきらいだった。本来甘いものの方が好きで、そのまま成人をむかえた。子どもの時と同じでブラックコーヒーは飲めない、チョコケーキがだいすき。だけど、大学を卒業し就職に受かって、同僚がブラックコーヒーやビールを美味しそうに飲んでるのを目にして焦りがでた。このままじゃいけないんじゃないかと、なんとなく思った。そんな矢先に、当時付き合い始めたばかりの彼女とカフェに行った。
席につきメニュー表をひらいて、彼女は載せられたいくつものケーキの写真に目を輝かせる。散々悩んだ末にショートケーキを選んで、惜しみない笑顔でそれを頬張った。
その1連の動作に、俺は目から鱗が落ちるようだった。そして自分も彼女と同じように、ケーキを頼むのを躊躇してしまった。そのとき初めて俺はブラックコーヒーを飲んだと思う。
そしてその延長みたいに、煙草を吸いだして止められなくなった。
煙草に含まれるニコチンという成分には中毒作用があり、本人の意思で喫煙をやめるのが困難になり、一酸化炭素は……。
俺も覚えている。高校の時に習った、保険の授業。
苦いものを好むフリをして、自分を着飾ることのない彼女を勝手に羨んだ。
「それで残ったのが、このブランケットだってひとつだって……?」
自分を嘲笑おうとしたとたん、目かぽろぽろと涙がこぼれた。誤魔化すように煙をおもいきり吸い込む。案の定むせて、えづいた口の中に涙が入り込んできた。
口の中は苦くてしょっぱくて、喉は乾くし、頭もガンガンと痛んでもうわけわからない。
「…美月」
どうしようも情けなくなって、1ヶ月ぶりに彼女の名前を口にした。
きんこーん、と家の呼び鈴が鳴った。すぐに反応できなくて、天井眺めながら今鳴ったなと、ぼんやりおもう。重要な紙書類が届いたのかもしれないし、出なくては。
まぶたの腫れたひどい泣き顔なんて、その日あっておしまいな宅配の人に見られたってどうってことないだろう。ふらふらと立ち上がり玄関に向かった。ハイ、と内線で返事をしてみると、やっぱり宅配です、と女性の声。
鍵を開けて出迎える。しかし、そこには宅配の人はいなかった。
そのかわり、俺の元恋人がいた。
「美月…?」
「ひさしぶりだね、こうくん」
「みつ、き」
変わらない笑顔のまま、美月が立っていた。
どうして、なんて疑問が浮かんだけどそれは二の次だ。
ただ今は久しぶりに見た美月が懐かしくて、愛おしくてしょうがない。
その姿に膝が抜けるくらい安心して、崩れないように、美月に縋った。つよく抱きしめたら、彼女は抵抗もなく、俺の腕におさまった。
「美月、やり直して」
お願いだから、と言って息を吸うと甘い香りがただよった。付き合っていた時はいつも嗅いでいた彼女の髪のにおいだ。
「美月がいないとダメだった。ムリだ。ごめん…、毎日ブランケット、使ってて、」
「うん、知ってたよ」
背中に回された手が、いたいくらいに優しくて
涙があとから零れてくる。
「こうくんが、わたしがいないとダメなの知ってたよ。……でも、素直になってほしくて、さぁ」
顔上げて、って言われた通りにすると、ハンカチで涙まみれの顔をぬぐわれた。ピンクの水玉のハンカチだ。端っこにやっぱり、ネズミのガールフレンドのモチーフ。無性に恥ずかしかったけど、今はそれも嬉しくてされるがままになっていた。ふふ、と美月が笑う声がした。
「こうくん、子どもみたいだね。……さて、」
美月はハンカチをポケットに仕舞って、笑った顔から一転してきっと厳しい顔をしてみせる。
「反省、しましたね」
「しまし、た」
「煙草、やめてね」
「はい」
「よし、じゃあ言うことは?」
「ごめんなさい、もう意地はりません……」
「よろしい」
満足そうに笑う美月を見たら、また涙がでた。
どうやら安心で涙腺がゆるみきってるみたいだ。美月の優しさが嬉しくてしょうがない。
ありがとう、と泣きながら呟いた。ああほら、もう、なんて美月笑いながら、また涙にまみれた俺の頬を指でぬぐった
「それで?」
「……え?」
美月はからかうような視線を向ける。その視線と、言葉の意味がわからないでいると、彼女は二の句を告げた。
「まだわたしたち、ヨリを戻してないんだけど」さ」
「…あ、」
全部わたしにやらせるつもり?と少し頬を膨らませた美月に、少し頬が赤くなった。今さらだけど、エスコートも何も出来ないで、俺ってすごく情けない。気を取り直し、姿勢もなおして、彼女の両手を自分の手でそっとにぎる
まっすぐに美月の目を見て言う。
「あなたが好きです。また、俺と付き合ってくれませんか」
改まってみるとすごい恥ずかしい。耳の付け根まで熱くなるのを感じた。
「………当たり前じゃない」
でも、わたしだって寂しかったんだから、と言う美月のくちびるに謝罪の意味をこめて
キスをした。1ヶ月ぶりのそれはやっぱり柔らかい。触れ合わせていたくちびるは濡れていた。
美月と目が合ってお互いに苦笑いする。
ああ、なんて青臭いんだ。「ケーキ買ってきたから、ふたりで食べよう」
「…うん」
「こうくんはチョコケーキが好きなんだよね」
「な、なんで知ってるの?」
「さぁ、なんででしょう」
でも、すごく甘くて、しあわせ。
まずは、読んでいただきありがとうございました!どうだったでしょうか?
言いたいことがたくさんあるかと思いますが最後まで読んでくださった皆様にはほんとに感謝です!
さて、そろそろ本格的に冬ですね
気がつけばあっという間に今年も終わりに近づいていますね…
冬といえばもちろんクリスマスですよね?
リア充達がイチャイチャと…
え?自分?もちろん予定は入っていないですよ笑
自分も恋人が欲しいものです…
つまらない話はこれぐらいにしておきまた次回のお話しでお会いしましょう。
次回作もよろしくお願いします。
文月 霊菜