育児方針!
週に一度、ほのちゃんちのお義父さんが契約してくれたヘルパーさんが我が家に通ってくる。
それは出産前からでなにかと助けられた。
不安な時の相談や家事。産まれる子供の教育方針。
産まれる前はほのちゃんがほとんど関わってこないという不安感を彼女らにかなり慰められた。
うちに来るメンバーは固定で五年契約。三人チームなのは誰か一人が体調を崩しても対応できるようにと対人相性のためだとか。
一人は母と変わらない年頃の人。
一人は私と変わらない年頃の人。
一人はその間くらいの年頃の人。
新しい事と古いことを共有して最適化させるにはいいのですと年長のリーダーさんが笑う。ついでに若さをゲットですよと。
週に一度五時間というのが基本時間で急に人手が必要な時も連絡をすれば対応してくれるという。
「問題がなければそれでいいのです。不安な時、疲れてしまった時、お力になるために私達はいます」
流行りの病気や気をつける対策をおさえての会話は楽しくてほっとした。
早期に職場復帰するつもりだと言えば、「不安なら契約時間を伸ばす要望を出されては?」と提案された。
それはほのちゃんが「必要ならね」と言って終わった。
確かにうちの家事は母さんとほのちゃんでまわってる。私の関与は実はほぼないに等しい。
週一の補助で楓が生まれてからの片付け不足が補われていく。
私、私は夜起こされることもなく、朝急かされることもなく、ごはんは起きた時に持ってくるか食べにくるか確認されて準備される食事にタイミングをあわせての楓の授乳。その間に母さんかほのちゃんが部屋の掃除してたりで全然大変じゃなくてぽかーんとしてた。
ほのちゃんは母乳でもミルクでもどちらでもいい派でどのメーカーのミルクが好みなのか、好みがあるのか模索しているという話を母さんとヘルパーさんから聞いた時のポカーンは抑えられなかった。合わなかった、気に入らないミルクはどうなるのって思ってたらクッキーとか、パンケーキとかになってるらしい。ほのちゃん、意外性が多いよ。甘いもの好きなの知ってたけど。
この時期、ヘルパーさん達は週二日で来てくれて楓を可愛がってくれた。
それは睡眠時間の確保のためだと聞いたけれど、うん、寝れてる。むしろほのちゃん寝てるのかな?
ほのちゃんはヘルパーさんたちがくると私と母さんに任せて自室にこもってしまう。
楓の日常は私より母さんの方が詳しくてちょっと悔しい。
楓の日常メモのような日誌をヘルパーさんたちに見せていた。あとで見せてもらえば楓の育児日誌ほのちゃん著だった。
夜のミルク時間を見て『あ、私全部寝てる』と気まずく感じたりもした。
「育児あんまりできてない」
ほのちゃんにむけて呟いたのはもう少ししたら会社復帰って時期。
「体調整えて、仕事に備えるのが菊花のすることだろう?」
「育児参加しないのは違うでしょ?」
「菊花は仕事が好きでちゃんと伸びていきたいんだろう?」
うん。それはそう。
「それにちゃんと二人とも元気だろう?」
きょとんとしてるとこほんと咳払いされた。
「互いにできることをする。したいことをするためにおぎないあうのも家族、だろう?」
「うん。家族ー!」
気がついたらほのちゃんに抱きついてた。
「産まれるまでは菊花が頑張ったんだから、体調を整えて元気に楽しく菊花らしい能天気さで生きていくのが一番いいと思う。したいことをすればいい」
抱きついた私をなだめるようにほのちゃんの手が動いてる。
「でも、ほのちゃんは?」
私ばっかり好きなことって。
私の髪を撫でる手が止まる。
「前倒しで仕事はすすめてるし、家事は嫌いじゃない。育児は姪っ子をみてたから少しは慣れているし、観察日記はなかなか楽しい」
いや、ほのちゃんにいるのはかわいい甥っ子だよね?
あんまりしつこいいじりは嫌われるよ?
「楽しんでる?」
「……ああ。楽しんでる。苦手なことはお義母さんが手伝ってくれてるし、菊花もヘルパーさんもいるだろう?」
「……ほのちゃんの苦手って対人関係くらいで完璧じゃない」
何言ってんのってつい反論してた。
料理も掃除も日曜大工も経理も私より色々できるくせに!
追求すると洗濯と掃除は得意じゃないらしい。そういえば、母さんが洗ったやつを私がたたむ役だっけ。片付けるのほのちゃんだけど。
「って、経験値少ないだけじゃない!」
「大きい声出さない。菊花だってそうだろう?」
経験値少ないだけ。
納得できない。どうしてだろう?
「夜だって……」
「仕事しながらみてるだけだし。癒されるよ?」
「睡眠時間!」
「昼間はお義母さんや菊花がいるし、馬鹿兄んとこの義姉さんがちょくちょく様子みに来てくれるしね」
近所にほのちゃんのお兄さんの家があって子供がいないお義姉さんは三日に一度は寄ってくれている。だから昼間は寝やすいと反論が封じられる。
「核家族じゃない利点だな」
「私が仕事に戻ったら……」
言いかけて気がついた。
振り返れば私が手を出さなければ効率化されるんじゃないか疑惑。
文句は言われない。ただなんていうか、はらはらした視線が私が育児従事時にはすごく感じるのだ。
それは母だったりほのちゃんだったりお義姉さんたちだったり、ヘルパーさんだったりする。
「困ったらヘルパーさんに頼む?」
対人苦手だからってそこをおして無茶されたら嫌だなって思うの。
困ったような息を吐いただけのような笑い。
「わかった。その時はちゃんと手配する。約束だ」
「うん」
ああ、なら、いいか。