第5話 楽園
見てしまった。
滴る液体、綺麗な薔薇。
芳醇な、独特の生臭さが漂う。
これはなんだ。
なんだろう。
自問自答が際限なく繰り返される。
終わらせてはいけない。
続けよう。
目が離せない。
何故。
話してはいけない。
何故。
考えてはいけない。
何故。
その日からだろうか。
途絶えたのは。
※妖精族視点
果たして、酒池肉林は楽園として足りえるだろうか?
現実とは程遠い夢物語、それこそ伝承に近いモノかも知れぬ。
地獄絵図を縮小させたものが今の生きる、私たちの世界。
であれば、そこに楽園など存在しない。
天国の器にふさわしくない。
例えばそう、酒池肉林は。
果てれば終わりである。勿論種を跨げば例外はいる。
が、連中は人外種と区別され、総称して異種と呼ばれる。
鬼種、触手種、狼種、土竜種など。
姿や形は違えど、共通しているのは『絶倫』ということだ。
加え、ほぼ雌ばかりが生まれる。
絶倫に、雌。
忌むべき組み合わせであり、悪魔の仕業が絡んでいる。
歴史については追々、知っていくことになるであろう。
異種に対して、性的な悪戯をする、雄が通る修羅道である。
最初は確かに楽しいのかもしれない。
実際、軽い遊戯程度に手を出した連中が腐るほどいた。
忌々しいことだが、人種…、滅んだ子孫の末裔である妖精種。
人種の遺伝子に影響され、欲に積極的な馬鹿が生まれてくる。
基本的には雄が、稀に雌が。
末路は想像に容易い。
鬼種、狼種ならば、ある程度遊べば開放される。
悲惨なのは触手種と、土竜種だ。
飼い慣らされ、2度と帰って来れはしない。
ひとつ
永遠に搾取され、死してなお、その身体は朽ちない
ふたつ
魂と生命を、もて遊ばれる
みっつ
残酷な種、連れ去られたものは数多、種以上に
大人から子へ、言い伝えられる。
滅んだ人種を、反面教師に歩んできた。
歴史は大よそ数千年の時だろうか。
言伝は年を重ねるごとに重みを増し、今では大層な御伽噺となっている。
子どもたちに言い聞かせる為に体裁はそうなった。
しかし、事実を礎として作られたこと、忘れてはならない。
「帰ったか」
「馬鹿はいたのか」
村に最高位に近しい連中が出迎えてくれた。
表情は様々ではあったが、大方無事に帰ってこれて安堵している様だ。
少々心配させてしまった様で申し訳ない。
「ああいた」
「なんだと」
驚嘆と呆れの声、どよめきが漏れる。
教育の中で異種の逸話は数多聞かされるものだ。
中でも、得に酷い逸話が猫種であった。
義務的教育であるため、通常なら頭の片隅にでもあるもの。
それに加え、時期が時期であるため硬く言いつけられるはず。
「連れて行かれた雄はどうも人種のどれかだ」
「それは興味深いな」
「同胞か?」
首を横に振る。
数多と連れて行かれたが、近年はいない。
あれは違うだろう。
「貴様が知らんということは知られざる種がいるのか」
「気になるでござりますな」
口々に声があがる。
皆の考えはもっともだ。
妖精種である我々は知識が大好物だ。
知らぬことが耐えられぬ、知ることが何よりの喜び。
「しかし此度は」
「そうだな」
馬鹿のために村一つを差し出す覚悟をせねばなるまい。