第4話 おかしな雄
*猫種族視点
猫種族の村、タィナ領の自宅にてハナは娘たちの帰りを待っていた。
タィナ領には大きく立派に育った木が多い。
さらに猫種族の強靭な爪、牙は木の中を容易く彫ることが可能だ。
高い場所に登る事も好み、生きる殆どを木の上で過ごす。
狩り以外に降りる事は滅多に無い。
天敵を避けるためなのだが、今ではただの名残だ。
伸びすぎた爪や牙を研ぐのにも木を多用する。
木のみを比べれば、タィナ領程立派で猫種族に都合の良い木は存在しない。
そもそも広大な面積を森と化す規模、隠れて暮らすにはもってこいである。
よって、タィナ領は猫種族にとって楽園のような場所であった。
胴の太さもある木の枝に座り、足を宙にバタつかせ遊ぶ。
尻尾で絶妙にバランスを取り、楽しげに鼻歌を。
猫種族は戦闘においても柔和な身体、俊敏な動きを活かし高高度な戦闘を可能とする。1匹で追っ手20人を返り討ちにした逸話は周知だ。
狩りにおいても、他の種族から戦鬼と謳われ恐れられ。
可愛らしい見た目に反し、猫種族は忌み嫌われ、遠ざけられる。
それは持ち合わせている別名の所為でもあった。
「まだかしら娘たち」
猫種族には雌しか生まれない。だから村には雄がいない。
だとすると、どのように種を増やすのか?
当然、雌同士では交尾など不能だ。
ヒントを出すとすれば、猫種族は異種間による交配が可能である。
さらに、猫種族は孕めば必ず雌の子が生まれる。
どれほど他種族の血が濃くとも、必ず猫種族の子となる。
それは呪いの様なモノであり、太古の昔神より罰として受けたとも言われている。
真偽はハッキリとしていないけれど。
珍しいといえば珍しいことではあるが、雌しか生まれないため、雄をどうしても必要とせねばならない。発情期ともなれば手が付けられなくなるのは明白。その時はどうするか?
簡単な話、雄を攫って来るのだ、他種族の。
「お母さん」
「ただいま」
「あらお帰り。メチ、ケミ。随分遅かったわね」
太い枝の間を跳ねこちらへ近づいて来る。
無造作に立ち上がり、声を掛けつつ成果を確認。
メチが背中に雄を背負っている。
数は1と少ないが、無いよりは良い。
追っ手もいないみたいだし、上手くいったようで安心した。
「少し手間取っちゃった」
「しっかり連れて来れて偉いわ」
メチは雄を連れてくるのは2回目、ケミは初めて。
上出来だと思って良いでしょう。
大概は疑いの目しか向けられないのだから、難易度はそれ相応である。
話しかけるのでさえ背を向け、逃げ出されるのだから。
「さて、家にもどりましょうか」
「「はぁーい」」
先導しつつ思考にふける。
元気よく両手を突上げる愛しき子たち。
1を3でするには無理があるかもしれないけれど。
やってみなくちゃわからないわよね。
どうやって楽しもうかしら。
*妖精種族
「男が一人攫われました。どうしますか?」
「毎年恒例だとは言われているが、ああも容易く攫われるとは一体どこの種族だ?」
「まったくです」
気付かれない程度の魔法で観察していたが、巣まで連行されれば、相応の評価だ。
猫種族の恐ろしさを教わっていないのか、それともただ単に記憶に無いか。
どちらにせよ、愚かな男だ。
この時期のタィナ領では魔薬が豊富、値段もかなりのものだ。
手付かずの宝の山を目にして、果たして手を出さない者はいたためしがない。
立ち入る者は後を絶たぬ。
宝物庫へは片道通行だがな。
「死んでしまう前に救出するか」
「よろしいので?」
「見殺しにするのはいい気分じゃないだろう」
猫種族から救ったともなれば感謝はされど、忌しがられはしない。
名声があがって信頼も取れる。
あわよくば貿易も築きたい。
だが、一筋縄ではいかない。
それもそうだ、相手は戦鬼。
猫種族の獲物を横から奪うとなると、骨が折れる。
俊敏さもそうだが、狡猾さも飛び抜けている。
村にいる頭抜けて優秀な連中で隊を組んで、勝てるかどうか。
下手をすればこちら側は2人、3人は連れて行かれる。
傷を負わせられるかも怪しい。
どうしたものか。
「一旦引く、続け」
男が連れて行かれた逆方向へ疾走する。
喰われるまではもう少し時間が有るはずだ。
それまでに作戦を整えなければ。