第5話 魔王
赤く染まる世界、それを見下ろす自分、蹂躙された国が1つ無くなり、そして、アスクトへの侵攻が始まる。
隣には、ハイリ姉さんと、もう1人、靄がかかっていて誰かわからないけど、そこにいた。
目を覚ますと、ハイリ姉さんに強く抱きしめられて、息が出来なくなる。
ハイリ姉さんの体を必死に叩いて、ハイリ姉さんを起こそうとするが、一切起きる気配がない。
「もごむごむが、んぉんー!(ハイリ姉さん、起きてー!)」
僕の意識は強制的に失わされた。
どれくらい時間がたったのか…、目を覚ますとハイリ姉さんはすでに身支度を整えていた。
「フューくん、早く準備して。」
「………はい。」
僕は反論することなく、身支度を整えていると、迎えの人が来たようで、どうやらまだ早朝のようだ。
僕達は国王のいる王の間に案内された。
玉座を恐る恐る見てみると、そこにいたのは僕達と年があまり変わらない少女だった。
「うん、よくきたわね。
私は、魔王、魔王ウィーセよ。」
魔王、それはアスクトでは世界を壊す存在として言い伝えられている職業だ。
しかし、この少女はこの街の王だという。
そしてこの街は、技術的に進んでいる上に、暮らす人達も明るい顔をしている人が多い。
「あなた達の世界では、私って悪者なんでしょ?
でも、私達からすれば勇者の方が悪者よ?」
「そんな…。」
ハイリ姉さんが言葉を失う。
まぁ、僕達を襲うような人間達だからね。
………あれ?どうしてこんな…、もしかして、記憶が少し戻った?
だが、何も思い出せない。
とりあえず思い出せない記憶は置いておいて、魔王の目的を聞こう。
「それで、あなたは何をしたいんですか?
預言者の僕の力を借りてまで。」
「それは………、アスクトの完全な破壊、そして、アスクトに隠れている卑怯な神の討伐。」
アスクトに神がいる?
そんなこと………、ハイリ姉さんの方を見てみても、首を横に振り、知らないと言われた。
「そりゃそうよ、あなた達が勇者を信仰したりするのを力にしているんだから、本当のことなんて教えないわよ。」
それは、そうなんだろうけど。
「それに、あなたの預言者は最も特異な職業なの。
起こりうる未来をすべて知ることなんて、普通は出来ない。
それが出来るあなたは、すでにアスクトて隠れている神の未来をすでに見えているはずよ?」
「僕は短期間の予知専門だよ。
はるか先の未来を見るには、予知夢しかないよ。」
「その予知夢、一体何が見える?」
そう言われると、答えに窮してしまう。
赤く染まる世界の中、殺戮が行われている、なんて言わなければならないのか?
だが、そう説明しなければ、納得して貰えないだろう。
そう思ったので、僕はそう説明した。
「なるほどな、で、見えていたのはアスクトの街なのだな?」
僕は頷き、未来が変えられることだけを告げ、僕はアスクトを滅ぼす気がないことを説明した。
「でも、あなたが居ないとアスクトを滅ぼせないと、私達の世界の預言者は言っているわ。」
「僕はアスクトを滅ぼす気はないですよ?」
「でも、あなたが居ないとアスクトを滅ぼせないと、私達の世界の預言者は言っているわ。」
あなたを逃がす気はない、と目が語っていた。
「フューくんの自由を尊重して。」
「自由よ?私達に協力するなら。」
「それは自由じゃない。」
「それに、フュールさんは私の…。」
「フューくんは私と一緒。」
未来が見えた。
王の間は魔王、ウィーセの放った魔法で吹き飛んだ。
ハイリ姉さんは無事なようだ。
とりあえず王の間にいた全員が無事だった。
「………駄脂肪、その脂肪燃やしますよ。」
「やれるものなら、まな板。」
聖女と魔王、やはり相容れないようだ。
なんとか間に入って落ち着かせなければ、と思ったが、未来視はすべての未来でどうにもならないことを伝えてきたので、僕は落ち着くまで喧嘩を見守ることしか出来なかった。