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短編集 ひとさじの塩  作者: 水玉カエル
5/6

5さじめ

「成長し続ける企業」


 弊社のビルが伸びた、という一報が入ったのは昨日の晩のことだった。秘書の坂本くんが言うには、夜九時過ぎ、弊社のあたりでゴウゴウと地鳴りが起きたかと思うと、その勢いでグイッとワンフロア増えたらしい。

 ぼくはビルの様子を確認するため、いつもより急いで出勤した。今度はどこが伸びてしまったのだろうか。

 

 弊社の前につくと、早朝なのに人だかりが出来ていた。みんな出勤途中で弊社の異変に気が付いたらしい。

 いつもの場所から見上げたビルは、昨日よりも明らかに空を占拠していた。


 どうやら増えたのは人事部と監査室のあるフロアらしい。

 人を増やし、監査を厳しくしろということか。ビルが弊社の伸びしろを勝手に判断してくれるのはいいけれど……。


 このビルを建てるとき、先代の社長は建築会社に「成長し続ける会社に相応しいビルを建ててください」と言ったらしい。

 だけれど、4階建てのビルがグングン伸びて37階建てになるとは、予想していなかっただろう。


 いい加減ビルを見上げるのも疲れたぼくは人混みをかき分けて何とかビルに入った。自席について一息つくと、坂本くんを呼んだ。


「坂本くんが昨日報告してくれたとおりだな。これから新しく人を増やして監査を厳しくするよう、関係部署に通達してくれ」


「わかりました、社長。ですが、そろそろもういいのでは? 今のままの人事で、十分ではありませんか」


 坂本くんは少しげんなりしているように見えた。


「……いいんだ。このビルは、うっかり事業が後退したら業務時間中でも何であろうとお構いなしに縮む。そして真っ先に潰れるのは決定権者であるぼくがいる社長室だよ坂本くん。同じ轍は踏みたくないんだ」


 坂本くんは少しおどおどしたあと「わかりました」と弱々しく返事をすると、社長室を出て行った。

 ぼくは椅子に深く腰掛け直すと、6年前に起きた社長室の悲劇を思い出しながら、フゥと1つため息をついた。


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