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短編集 ひとさじの塩  作者: 水玉カエル
4/6

4さじめ

「未来の文学者」


 400年前のニンゲンが書いた小説を読んだ。

 古典は苦手だけど、気になって仕方のないものがあったからだ。


「銀河鉄道の夜」


 この時代には、今のように飛行車は存在しなくて、地上を走る機械と空を飛ぶ機械に分かれていたらしい。


 ある日、ぼくは古典の教科書に載っていた美しい挿絵に目を奪われた。空を飛ぶテツドウとやらが、今の飛行車にあまりにもそっくりなのだ。

 ニンゲンが想像できるものは全て作ることが出来る。昔のえらい人の言葉が脳裏に浮かんだ。でも、先人の夢だった飛行車に、

これまで特別な思いを抱いたことはなかった。気にも止めていなかったからだ。


 挿絵がどうしても忘れられなかったぼくは、その日のうちに図書館へアクセスし、「銀河鉄道の夜」のデータを借りて読みふけった。


 反重力システムが開発されてから早100年。空も地上もすべて同じ機械で移動出来るようになった。


 じいさまに聞くと昔は違ったらしい。地上はクルマとデンシャで、空はヒコウキだった。宇宙旅行へはウチュウセン。世界はたくさんの機械で埋め尽くされていたそうだ。


 音楽を聴く機械、時間を見る機械、ご飯を作る機械、映像を見る機械、掃除をする機械。昔は1つの機械に1つの機能しかなかったのだ。


 今ありとあらゆるものが1つの機械で完結する。昔よりはきっと豊かだけれど、味気のない時代だ。

 科学の進歩と共に「希望」という言葉が形骸化していった。ぼくらはもう、望む前に欲しいものが手に入る時代に生きている。


 ぼくは、あの挿絵を見て「希望」というものを初めて経験した気がする。

 正直、小説の内容は難しくてよくわからない。けれど、美しい挿絵に込められた先人の憧憬が、心にこびりついてチクチクさせる。昔のニンゲンは、こんな風に飛行車に憧れたんだろうか。それはとても羨ましいことだ。

 

 ぼくは次の日の朝、学校にアクセスするのをやめて、国立国会図書館へ赴くことにした。閉架のVR資料を見たいのだ。

 昔の人が憧れた飛行車、いや、銀河鉄道に乗って。


 国会図書館には、今から300年前のVR世界のデータがあった。それ以前はVRというものが存在していなかったらしい。ぼくは少しモヤッとしたが、とりあえず300年前のデータを体験することにした。


 驚愕だった。

 世界は色彩で満ちあふれていた。

 ぼくの時代から見れば、何にも無く、不便で、無秩序、漠然とした汚さのある300年前。それなのに、美しい。

 ここには何でもある。夢も希望も絶望も、全てがある。


 それからぼくは、浴びるように古典を読んではVR世界に入り浸った。それがどうしてもやめられなくて、大学は文学部へ行き、大学院に進み、修士、博士、気づいたら教授になっていた。


 そのままVR文学研究の第一人者となり、うっかりノーベル文学賞を取った。

 ここ百年ほどは受賞者がおらず、世間でも文学賞の存在は忘れられていたから、もはやぼくが作家だろうがなかろうが、なんでもよかったらしい。

 

 受賞に沸き、群がるマスコミにぼくはこう答える。

「希望を失った我々でも、美しさを感じる心は失っていない。小説の素晴らしさなんてわからなくてもいい。文学研究は、我々の心に揺さぶりをかける先人の残滓を、見逃さないことが重要なのだ」


 それを聞いた大体のマスコミは「はあ?」と言う顔つきをする。

 それでいいのさ。ぼくが飛行車の美しさに中々気づけなかったように、凡人が当たり前のものの美しさに気づくのには400年くらい掛かるからね。


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