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「おかえりな……」
二階と玄関フロアを繋ぐ階段をかけて降りたヴィルリアは、満面の笑みで出迎えたまま固まってしまった。
これは夢だろうか。自分は立ったまま寝てしまったらしい。
あの兄が見知らぬ少女を抱きかかえている。
少女の様子から人助けだろうが、本来は侍従が抱えているべきもの。決して貴族の男性が抱えているはずのないもの――平民のような少女を。
「お、お、お兄様!人さらいは犯罪ですわよ!」
「……なにを言っているんだ?これは拾っただけだが」
「拾……っ!?人は落ちているものだはありませんわ!いいえ、それよりもまずはどこかに寝かせなくては!」
あまりのことに驚いていたヴィルリアだが、見たことのない服装の少女はぐったりとした様子でこの騒ぎにもピクリともしない。
服も肌も薄汚れ、黒く流れる髪も痛んでいるのかぼさぼさとしているのも気になるが、今はそれよりも休ませることだろう。
見るからに何かありましたと言わんばかりの少女の素性は、一先ずおいておいた方がいいい。父や兄が調べるだろう。
ヴィルリアは執事に部屋の用意と医者の手配、侍女たちに身を清めるよう頼む。ヴィルリアの命を受け、家人たちが動き出すと同時に、広間の扉が開かれた。
「帰ってきたかリュート。……おや、いったいこの騒ぎはなんだ?」
「お父様大変ですわ!お兄様が女の人を連れてまいりましたの!」
「……リュート、早く花嫁を見つけろとは言ったが攫ってくるとは」
「父上まで……」
兄――リュートはヴィルリアと同じ鉄色の髪を軽く振り、疲れたように言うと「違います」と反論した。
この少女は帰り道本当に倒れていただけで、人助けに連れ帰ってきただけで他意はないこと。
さらにこの国でも珍しい黒髪の上に、召喚の儀に似た服を着た少女を見ていることから安全面を考え連れ帰ってきただけだと説明した。
その間にリュートに抱かれていた少女は家人に渡され、草々に玄関フロアから部屋に移されている。今は身を清められていることだろう。
「召喚の儀でか」
「はい」
「……詳細は後で聞こう。まずは着替えてきなさい話はそれからだ」
「はい」
「それからヴィルリア、スティーリアが嘆いていたぞ。あとでお小言を聞いておくように」
「お母様……。承知いたしましたわ」
父――プロクスの言葉にヴィルリアは肩を落とし頷いた。
体の弱い母だが礼儀作法には厳しい。淑女はこうあるべきという姿を体現しているかのような女性だ。
今の騒ぎが母の耳にまで届いていたことは、父の登場で分かっている。これから貴族の淑女について長々とお小言を頂くことだろう。
イヤイヤながらも後回しにすると、さらに厄介なことになることは経験から分かっているので行くしかないと項垂れた。
その後、母にこってりと絞られ、意気消沈で自室に戻っていたヴィルリアはこれ以上起きていることに疲れ、草々に寝所へと向かい夢の中へと旅立った。
少女のことを聞いたのは翌日。
その少女が意識を取り戻したのも翌日のこと。