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とあるシナリオライターの野望

作者: 紫ヶ丘

恋愛要素はほぼ皆無。




私は乙女ゲームが嫌いだ。

特にどこにでもいる普通の女の子が憧れのあの人に振り向いてもらえるよう自分磨きを頑張る系のやつ。

最初は素っ気ないイケメン達も主人公のパラメータを上げてデートという名のカウンセリングを重ねたら簡単に落ちる。

どこにでもいる普通の女の子?

はぁ?

普通の定義間違ってない?

そもそも主人公って時点で普通じゃないし。

普通じゃないから主人公なんだし。

秘めたる才能が目覚めてない云々でスタート時は普通の女の子なんだよって言う人もいるかもしれないけどさ主人公補正ついてる時点で普通じゃないし。

まずその歩けば当たると言っても過言ではない驚異的なイケメン遭遇率を無くしてから普通を語れよシナリオライター!!──って私だよ!


──はぁ、空しい。

全部ブーメランで返ってくる。

クリティカルヒットで瀕死でございってか。

あぁどうしよう。

週末までに形にしなきゃなんないのにさわりがちっとも浮かんでこない。

大体さぁ十五周年記念作品なんて大層なもんに私みたいなペーペー使うなっての。

いくら二作続けて売れたからって記念作品なんだから初代のシナリオライターさんにまかせりゃいいじゃん。

ファンだってその方が喜ぶよ。

初代あってこその続編、番外編なのにさぁ。

私だってメインじゃなきゃ嬉々として参加したのに。

なんでサブじゃダメなのさ。

サブの方が遊べる分性に合っているのに。

あ~もうムリ!

何がさわりだけで結構ですだ。

さわりって本筋だよ?

一番大事なとこだよ?

簡単に言ってくれるよね~。

いやもう正直に言おう。

私にはメインはムリだって。

番外編とファンディスクだから際どい搦め手使えたけど正式な続編じゃムリムリ通用しない。

いつものように新しい試みをもりもり盛りまくって下さいね~って続編でそれやったら下手したらファンから総すかん食らうってわからないかねぇ。


──いやまてよ?

サブには本家さんがいるんだから私のシナリオがダメだったらそっちにいくんじゃない?

フッフッフ、いーいこと思い付いた!

記念作品だからファンのド肝を抜きたいというご要望にお応えしようじゃないか。

よーしよし唸れ私の右腕!









「……ありえない。ありえないわこんなもの。──鈴木さん、あなた何考えてるの?」


淡々とした口調ながら静か~な怒りが立ち上っている本来メインシナリオライターでなければならないはずのお方、篠山さん。

ちなみに私が鈴木です。

うっしっしっ計画通り。

ぷるぷるしちゃって子うさぎちゃんみたいでちゅねぇ~?

プロデューサーさんもさぞ怒り心頭──ありゃ?

おーい、プロデューサーさんや、何呑気に私の駄力作を読んでるんですかい?

早く君にはまだメインシナリオは早かったようだと言っておくんなまし。

犬っちディレクターもどうした?

いつものようにきゃんきゃん鳴いてくれないとプロデューサーさんが同調してくれないじゃないか。


「──鈴木さん、あなた今作が十五周年の記念作品だと聞かされているわよね?」


「もちろん伺っております」


キリッと表情を引き締めキラーンと眼鏡を光らせ答える私。

あっ、眼鏡は伊達です。

雰囲気作り大切よ?

ビリッ──おおっと本家さ~ん、それ破っちゃやあよ?

内容が駄目駄目でも私の睡眠時間削りまくって生み出した力作なんだからぁ。

処分するならシュレッダーへgo!

え?さっきからテンションがおかしい?

そんな事ないよ?

ただの三日半徹夜してハイになっているだけさぁ。


「……わかっててこれなの?これを前作とどう繋げるの?シリーズ物なのよ?」


しかり。

あなたの疑問はもっともです──が。


「──繋げる?なぜ繋げるのでしょう?シリーズを通しての謎や伏線は前作のファンディスクで一応全てを回収しました。……多少、いえ、かなーり強引な手段を用いた自覚はありますが。つ ま り!十五周年記念作品だからと言って必ずしもシリーズを踏襲する必要はないのです!」


何てうっそー!

あります。

踏襲する必要ありまくりです。

なぜならそのシリーズの十五周年記念作品だから。

だからってそれを認めちゃあ私がメインシナリオ書かなきゃならねぇ。

私は知らぬ存ぜぬメインには関わらぬ!


「今回本家の篠山さんを差し置いて私のような若手をメインシナリオに起用しようという意見が出たのは偏にマンネリ脱却、いえ、新しい風を吹き込むためではないのですか?岩木さんからお話を頂いたときにも新しい試み、ファンのド肝を抜くような展開をとのご要望でしたのでてっきりそういう意図があるのだと」


思ってませんがね。

金太郎飴シナリオでもキャラは魅力的だし個別ルートは萌えたし燃えた。


「……まっ、待ってください!確かにそういうリクエストをしましたがそれはあくまでシリーズ内で納めてくれるものだと」


すまんね岩木さん。

ここは作品のために犠牲になってくれ。

ちなみにこの人二作前から私をこのシリーズに引っ張り込んだ張本人であーる。


「……マンネリですって?」


おっほ、怖過ぎ。

力入れすぎて私の駄力作がかんだ後のティッシュ並みにくしゃくしゃだ。

しっかし意外だなぁ。

ここまで言ってもプロデューサーは静観か?

犬っちがなんか言ってくださいオーラ出してるぞ?


「プロデューサー、まさかこのシナリオを採用するつもりですか!?こんなシナリオ、ファンを馬鹿にしてるとしか思えません!」


篠山さ~んいいぞいいぞ~!

ついでにメインやるって言っちゃってくださーい!

っていうか他の人もどんどん言っちゃって~!

ほれ、犬っちも岩木さんもずずいっと──言わないんかぁーい!?

ありゃ?

犬っちどうしたよ?

きゃんきゃん犬っちの名が廃るぞ?

つーかディレクターだろ?

こんなシナリオ通しちゃまずいっしょ?

十五周年記念作品だよ?

ホレ!

言っちゃえっ!

私は何にも気にせんから!


「……だが面白い」


空気読めよゴラァ!

おめぇプロデューサーだろ!?

その目は節穴か!?


「なっ!?で、ですがシリーズ十五周年記念作品としては相応しくありません!こんな結末誰が喜ぶんですか!?」


「シリーズに拘らなければいい」


「ああ、確かに」


はぁ?

犬っちまで何同意してんの?

頭沸いてんの?

一つ作るだけでどんだけ金掛かるかわからんおめぇさんらじゃなかろうに。

仮に別作品として出すってなれば結局私がメインになるじゃんかよ!?


「ちょっと待ってください!私はこのシリーズのために睡眠を削りまくって──コホン、このシリーズの続編として書いたのですが?」


「こんな結末ではシリーズの続編として認められないわ」


「決めるのはプロデューサーですよ!」


メインはムリ。

断固拒否だぁ!


「あなたね、これは乙女ゲームなのよ?どこをどうしたら悲劇で終われるの?ユーザーが求めているのは幸せな結末でしょう?」


「ですから幸せな結末を用意してるじゃないですか。めでたしめでたしの後に悲劇が待っていようともそれを見せないように組み立てたつもりです」


「見せないようにした理由は?この二つのシナリオをプレイしてもキミの言う悲劇は表面化していない。ユーザーに気づかれない結末など無意味じゃないのか?」


くそ、犬っちがトーンダウンしやがった。

追い込み猟が始まりそうでヤバイ。


「……フレネミーですよ」


「フレネミー?」


「今作のテーマを私はフレネミー……簡単に言えば友達のふりした敵でしょうか?としています。詳しくは各自で調べてください。このシリーズは主人公と幼馴染み、主人公とライバル、主人公と悪役令嬢というように対になる存在がいます。それを受けて今回もヒロインと王子の婚約者候補のライバルという関係にしました。あえてヒロインを主人公としていないのは二人とも主人公だからです。一つ目のシナリオがヒロインを主人公とする物語なのですがここで一つ仕掛けをしています。王子と結ばれてめでたしめでたし。ライバルもあくまで婚約者候補なだけであって婚約者じゃないのでヒロイン達を祝福してくれました、おしまい──となるところでエンディングの一枚絵に意味深なコマンドを表示させるのです。あれ?これはなんだ?入力しても何も起きないぞ?どこで使うんだ?そしてあれこれ探すうちにバットエンドを見つける。しかし手順を踏んでからでないと隠しシナリオは解放されません。もしかしたら全てのエンディングを見終わっても見つからないかもしれない。しかしそれも必要なんです。ユーザーにライバルを誤解させるための時間としてね。その後ある程度の期間をおいて公式サイトで隠しシナリオの存在を知らせて欲しいと思います。餌をばらまき離れたユーザーをもう一度釣り上げるんです。次に二つ目──つまり隠しシナリオですがこれはヒロインの結婚後に起こる王国の危機を救うべく立ち上がるライバルを主人公にしています。上手くイベントをこなせばヒロインに成り代わって王妃になれますしライバル用の攻略キャラも登場させます。家が所有する騎士団の新人、旅の途中で知り合った訳あり青年、立ち寄った村の用心棒等々ヒロイン側と被らないキャラ付けでエンディングも同程度を用意してもらえればなぁと思います。あと出来ればヒロイン側よりもこちら側にやり込み要素の重きをおいて欲しいです。それによりライバルの腹黒さや隠された悲劇からユーザーの目をそらせますから。ちなみにこのライバル側のシナリオはファンディスク等を婉曲的に潰すためのものです。エンディング後数年で舞台となる王国は他国に攻め込まれて滅びますからね。続きなんてありません。このシリーズは他国の王子や王女が攻略キャラやライバルとして登場してきましたよね?そして国同士の不仲を主人公が見事解決めでたしめでたしという甘々ぬるま湯風味でしたが今作は他国から属国の如く見下されていたら?虎視眈々と狙われていたら?そんなキリリと辛い大人風味──たかが小娘一人の愛の力で国同士の諍いを止められるわけねぇだろぶぁ~か!を念頭に作りました。なぜなら十五年ですからね。当時の少女も女性になっています。多少のスパイスは必要と感じました。王国を利用する隣国、その後ろにいる帝国、袋の鼠の王国の束の間の幸せ──滅びのカウントダウンは止まらない、悲劇は覆らないと言うことを二人の主人公を通してそれとなく匂わせるんです。とは言ってもよくよく深読みすればこれ詰んでね?くらいのゆるーいものですが。だって十五周年記念作品ですからね。悲劇が目に見えたら売れません。落とし穴だってそうでしょう?隠してあってこそ落ちたときの衝撃がある。騙されたと怒るユーザーがいたとしてもそれをやり込めるくらい作り込めばいいのです。幸せな結末などユーザーの妄想に任せてしまえばいいのです。悲劇は喜劇というでしょう?ライバルがフレネミーなだけでなく私達こそがユーザーのフレネミーなのです。シナリオがこれでも音楽、絵、操作性が抜群に良ければ何とかなるはず!特典やおまけをつけるのはもちろん、公式サイトにもショートストーリーや漫画などをのせて全社を上げてこの作品に力を入れてますよアピールすればまさかどう転んでも詰んでるストーリーだなんて気づかれない!──と思いたい!というか思わせるために皆さんの力が必要なんです!合い言葉はフレネミー!友達だと思った?残念敵だよ!をユーザーにぶちかましましょう!イエーイ!!」


必殺ノンブレスマシンガン。

これを遮れるやつは未だ現れていないのだぁ!


「──鈴木、何徹だ?」


「三日半!」


どやぁ!


「……プロデューサー、どうします?二作品作る余裕はありませんし十五周年記念作品だから出資してくれたところもありますから、簡単にシリーズとは別作品作りますとはいきませんよ?」


「シリーズ物に装えばいい。初代のシナリオが恋と友情で揺れる恋、次が王国と隣国で揺れる恋、その次が身分違いで揺れる恋、前作が種族の差に揺れる恋──とりあえず揺れとけば問題ない。そうだろう?」


おうふ。

プロデューサーが言う言葉じゃねぇ。


「何を揺らします?」


そりゃ恋でしょ。

犬っちよ、お前にぶら下がってるもん揺らすわけにはいくまい?

ぐははっ、思考がげひーん!


「ライバルキャラを誤解させる方法は考えてるのよね?」


「はい。表面上ライバルにはヒロインの友人兼お助けキャラとして登場させます。暗躍していた事をユーザーに認識させるのはバットエンドの中でも真のバットエンドだけです。ただのバットエンドには影すら登場させません。そうじゃないとフレネミーだと誤認してもらえないでしょう?」


「お助けキャラ──情報や役立ちアイテムを提供させるのか?」


「それら全てに裏があるとか良さそうですよね。実は抜け道だったとか違法アイテムだとか」


「それなら買い物も実装させませんか?店で買うものよりライバルから貰うものの方が明らかに性能がいい──どうでしょう?」


「……いっそのことライバルの方はRPG系にしてみるか?ライバルをヒロインよりも爵位を高くするのは決まっているんだ。金にものを言わせて傭兵を雇うもよし、違法アイテム使ってヌルゲーにするもよし、使いすぎてバッドエンドになるもよし。さわりの部分は育成よりも冒険だろう?それならやり込み要素を増やしやすい」


「ライバルのキャラ付けに注意が必要ですね。あからさま過ぎず適度な距離感。声優も実力派だと裏を読まれそうな気がするわ」


「かといって若手過ぎても浮くだろう。中堅でラスボス経験もあるが幼馴染み役が多い、そんな声優がいいんじゃないか?──よし、伝を当たってみよう」


「ヒロインには実力派がいいわね。ライバル側シナリオでのラスボスでしょう?」


「難易度も高めにしたいな。ヒロインは王妃になれるほどの実力なんだからそれを下すには手こずってもらわないと」


「いいですね。じゃあヒロイン側はシリーズを踏襲してライバル側に新しい試みを詰め込む感じでいきましょうか?」


「鈴木くん、どうかな?」


「いえーっす!皆さまにお任せしまーす!責任逃れ上等!メインシナリオなんかごめんさぁ!」


「何を言ってる?お前がメインに決まっているだろう?」


「篠山さんにパース!」


「だが断る!」


「ちょっ!?篠山さん!?キャラ崩壊してません!?」


「──ところで鈴木、一ついいか?」


「ふぉい?」


「どうして悲劇なんだ?フレネミーというテーマはわかるが覆らない悲劇にするほどの理由がわからない。」


「フッフッフ、それはズバリ異世界転生ですよ!最近ね乙女ゲームの世界や漫画や小説等々の世界に入り込んだり生まれ変わったりしてイケメン達との甘い恋や友情を育んだりヒロインとして悪役令嬢をざまぁしたり悪役令嬢としてヒロインをざまぁしたりするのが流行ってるんですって。だから次はそういうのがやりたいだとか読みたいだとか耳にタコが出きるぐらい言われまくってお手紙攻撃されまくって頭に来たからこの世界観ならキャッキャウフフできねぇだろ?ざまぁ!したくて書きました。必殺ざまぁ返しなり!ふはは!反省はしておらぬ!」


さぁ諸君?

こんな不純な動機のシナリオを使おうというのかね?

ふぉっふぉっふぉっ。


「……あれだけ面白いと言ってたくせにまさかのアンチ発言!?」


「犬っちよ、これはアンチ発言ではない!異世界ものは大好きだし大好物だけどそれはそれ、これはこれなり!」


「……やはり初心にかえる意味も込めて恋と友情で揺れる恋でいいんじゃないかしら?王子とヒロインの間で揺れるライバルという風にも取れますし」


篠山さん空気は吸うだけでなく読むものでもあるんやで?


「いや、このシナリオ読んだらヒロインに友情なんか全く感じてないぞ?」


「ライバル視点ではなくユーザー視点ならそういう風にも取れるということです。つまり──」


「受け手に任せるって事か」


「はい。別にイメージを固める必要はないんです。あくまでそういう感じ、雰囲気ですよと言えばいい。ある程度の情報を与えて後は受け手の想像にお任せしてしまえばいいのです。だって私達はフレネミーなんですから」


篠山さーん、それムリがあると思いまーす!


「王子をどういうキャラにする?滅びのカウントダウンを知っていて足掻くかそれとも諾々と受け入れるかで変わってくるぞ?それにいつ自分が継ぐ王国が隣国の傀儡であり隣国は帝国の属国だと知るんだ?それとも既に知っているのか?」


「……あなた様の御心のままに」


「決めてないそうです」


「──そうか」


「とりあえずユーザーをざまぁしたい一心で書きました。この目の下のクマさん見えます?月の輪熊ですよ?」


「鈴木さん、あなた疲れてるのよ。寝なさい」


「メインシナリオから外してくれるまでは私は寝ない!」


「ルールールルルー」


「ぇ?犬飼さん?」


「うぐぁ~!負けぬ、私は──」


「ルールルルーウーウー」


あー犬っちのハスキーボイスはさ・い・こ──ぅ


「よし」


「……犬飼さんってそういう人でしたっけ?」


「何のことかな?──プロデューサー、今のうちに詰めときましょう」













フレネミー?

おかげさまで売れ行き好調です。

特別ボーナスも出たし懐ぬっくぬく。

しっかしきゃんきゃん犬っちこと犬飼三郎と結婚するとは思わなかったなぁ。

あやつの追い込み猟は半端ないぞ。

気づけば逃げ道全部潰されてるし。

まぁなんだかんだ幸せだけどね~。



追伸

いないとは思うけど万が一このゲームに転生しちゃった不運なあなたに朗報です。

社長から直々にお言葉がありまして、ほんのちょーっぴり希望を潜ませました。

だがしかーし!

希望はあくまで希望。

何もしなければバッドエンドにまっしぐらさ!

ざまぁ出来るものならやってみそ?

フハハハハ!




鈴木一子と犬飼三郎はこの話の以前から付き合ってます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンション高すぎて笑ったw [一言] なんか実在したらすごい話題作になるか炎上作になるか微妙な綱渡りが
[一言] このゲーム作品を読みたいな。
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