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第三章 つどえるものども・10

 夜半。三四郎は『歌声』に揺り起こされた。


「うるわしの月の銀

 きらめく星の真理よ

 波涛を砕き行く 誉れの帆船

 たくましき男ども

 愛しい貴方

 きたれ きたれ

 わがむねのなかに――」


 おそらくは彼女の国の言語なのだろう。三四郎には英語でもないその言葉の意味が取れなかった。

 だが――

 きっとフォローのつもりなのだろう。歌声とともに出現した中世ヨーロッパの港町の『幻』を観劇させられ、その男と女、人々の営みを目の当たりにし――


 ――否!


 そんな絵がなくとも、言葉がわからなくとも――歌の心が十分理解できたのだった。

 彼は着替えを始める。

 荷物を鞄にまとめる。

 最後に『鞭』を手に取り、逡巡ののち、それも鞄の『中』へ――


 ああ、窓を開く! 俺は自らの意思で窓を開いている!


 冷えた空気が体を包み込む。


「振り仰げ星の夜――」

 庭を突っ切る三四郎の姿があった。


「プラヴァ、我が小鳥よ……」

 窓から見送る、エドの姿があった。


「我らが航路を指し示せ――」

 街路を走る三四郎。


「海原を突き進め 偉大な船よ――」

 足音が響いた。


「伝説の男たち――」

 角を曲がる。


「愛しい貴方――」

 そして、前方の路上の中央に――彼らが――彼らが――


「きたれ きたれ――」

 三四郎は、二人の前に立ち止まった。


 セイレンとノリのデュエット――

 おお、ノリよ! そしておお、セイレンよ――

 妖しの歌声の魔美姫・セイレンの名は、けっして伊達ではなく!

 二人はあらん限りの魂込めて、歌声を響き合わせていたのだった――


「――わがむねのなかに」

 馥郁たる音の香りの中、大輪の花がその花びらを開ききるように、二人は歌い終えた。


 アリアがにっこりと笑った。まずパートナーを賞賛した。

「ノーリ、よかったわよ! パーフェクト!」

 三四郎の顔を見て、さらに笑みがこぼれた。

「準備はOK? 行くよ! 青い鳥を探しに!」

「あ、ああ!」

 彼女はすぐに言葉をつなげた。

「ノーリは当分、キミを仲間にするのは止めることにしたって。だから安心して!」

「アリアの――命の恩人のご意向だから」

 静が精いっぱい重々しくうなずく。

「サンシロオー、キミの洗礼名は、なあに?」

「――ユダ」

「OK、ユダ&ノーリ!」

 アリアは親指を立てた。

「行くぜ! 仲間たち!」


 汝疑うなかれ、ただ信じるべし――

 ――が、神よ、俺は見たい!

 俺は、あなたが、恥ずかしくも自身を『神人』と称するこの者どもよりも、比較にすらならぬほど優れているところが『見たい』!

 この者どもがあなた――俺?――に、『敗北』するところが見たいのだ!

「――!」

 ああ、本当にそうなのか!?

 俺よ!?

 ――ああ、始まるのだ! こいつらと! 俺は――? 神よ――!


 一瞬後悔の念がよぎった。

 しかしなぜか、このとき三四郎の胸の内には、昂ぶるなにかでいっぱいに満たされていたのだった――!





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