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「この色とか、すえちゃんにどうかな? あ、そっちの帯! 弓弦ちゃんに似合いそう!」

「すえ、このいろがいい!」

「こちらの色などはいかがでございますか? 葵様が普段お召しになっている水干と似た色でございますし、父娘で揃いにするのも面白いかと存じますが……」

「おとうしゃんとおそろい? したい!」

「すえちゃんってば、本当に葵の事大好きだよねぇ」

 きゃいきゃいとはしゃぎながら、娘達は市を見て歩いている。末広比売は初めて自分の足で歩いて回る市に目を輝かせているし、弓弦は弓弦でいつもほど肩ひじ張らずに市見物を楽しめているようだ。いつものように葵が横にいると、ついつい姿勢を正したくなるのかもしれない。

「そうだ、葵や父様達に、お土産を買っていこうか?」

「お土産……でございますか?」

 首を傾げる弓弦と末広比売に、紫苑は頷いた。

「そう、何かお菓子とか」

「それでしたら、葵様には筆など如何でしょう? 先日、瓢谷様に新調するよう言われていたようでございますし……」

「えー? 符の出来を左右する物なんだし、筆は自分で調達させようよ。……って言うか、それもう随分前の話なのに、まだ新しくしてないの、葵?」

「おとうしゃん、またわすれてた、ってよくいってるの!」

「……やはり、買って帰った方が良いのでは……?」

「良いよ良いよ、自業自得! ちゃんと自分で気付いてすぐ用意する癖をつけさせないと!」

「……左様でございますね」

 取り留めの無いお喋りを楽しみ、時には市で売られている物に目を向けてあれこれと意見を交わし合う。特に弓弦と紫苑は、どちらも年頃の娘であるためかお喋りに花が咲きがちだ。それが、まずかった。

「やーっ!」

 突如末広比売の叫び声が響き渡り、二人はハッと振り向く。見れば、薄汚い恰好をした数人の男達が末広比売を捕らえ、担ぎ上げていた。

「すえちゃん!」

「何をなさっているのでございますか!」

 二人の顔が険しくなり、男達を睨み付ける。その剣呑さに、辺りの人々が一斉に後ずさった。遠巻きに事態を見守る人々の輪の中に、弓弦達と男達が残された形だ。

「なんだ、こっちも中々の上玉じゃねぇか。良い値が付きそうな顔してやがるぜ」

 その言葉に、紫苑が小さく舌打ちをした。その言葉から、相手が何者なのか察したのだ。

「人攫いだよね、こいつら。どう考えても……」

「こんな白昼に堂々と……!」

 睨み付ける二人の前で、男達は末広比売に短刀を突き付けた。そして、末広比売の命が惜しければ大人しくついてこいと言う。

 何とかしたいが、人質を取られてしまっては迂闊に手を出せない。辺りの人々も、手に手に太刀や短刀を持つ男達を恐れてなすすべもない様子だ。それに、これ以上末広比売に怖い思いをさせたくない。

 二人は悔しげに顔を歪ませながらも、だらりと体から力を抜いた。男達が、それっという声と共に二人を取り囲む。

 そして男達は、人々を刃で脅しながらいずこかへと行ってしまった。一連の事態を見ていた人々は、二人の行く末を憐み、あるいは己の不甲斐無さを今になって後悔し罵り始める。

 そんな光景を見詰める、一人の人物がある事を、人々は知らない。知っていても、気にしてもいない。

 その人物は暫くすると数歩後ずさり、かと思うと身に纏っていた狩衣の袖を翻して、勢いよく駆け出した。そして、その行き先を気にする者は、やはり誰一人としていなかった。

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