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「葵、髪を一つまみ寄越せ」

「……はい?」

 隆善の言葉に、葵は固まった。勢輔を葵の内に迎え入れてから十数日経った、ある日の事。隆善が自室として使っている西対屋での事である。

 髪は陰陽師にとって、個人情報の塊だ。一筋あれば相手を呪う事ができるし、居場所を突き止める事も可能。「寄越せ」と言われて、「はい、どうぞ」と気軽に手渡せる代物ではない。

 じりじりと後ずさる葵に対し、隆善は「あのな」と面倒臭そうな顔をした。

「警戒なんざしなくても、おかしな事には使わねぇよ。大体、お前程度なら髪なんざ無くっても簡単に呪える。警戒するだけ時間の無駄だ。早く寄越せ」

 そう言われ、それでも尚躊躇う様子の葵に、隆善は深くため息を吐いた。そして、「わかった」と妙に穏やかな声で言う。

「その箒みてぇな尻尾髪を根本から切り取られるか、その前にてめぇで一つまみだけ切り取るか。十数える間だけ待ってやるからさっさと選べ」

 そう言う隆善の手には、いつの間にやら短刀が握られている。本気だ。

「わ、わかりました、わかりました! 一つまみで良いんですね!?」

 慌てて葵は己の短刀を懐から取り出し、首の後ろで括っている髪を左手で少しだけ摘まんだ。普段ろくに手入れをしていない髪は、既に日も高く昇っている刻限だと言うのに寝癖のように跳ねている。

 摘まんだ部分を短刀でぶつりと切り取り、懐紙に包むと葵は隆善に手渡した。

「何に使うんですか? 俺の髪なんか……」

 怪訝な顔をして問う葵に、隆善は「いずれわかる」とだけ言いながら、懐紙を懐に仕舞った。そして「用事はこれだけだ」と言い、言外に「とっとと部屋から出ていけ」と命じてくる。

 納得しないながらも葵は頷き、西対屋を後にした。この時の彼らの行動が、後日ちょっとした騒ぎを起こす事になるとも知らずに……。

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