1-6 召喚人VI 〜確認作業〜
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召喚が成功した事によって、ドームでの引きこもり生活がやっと終わると思っていたであろうアイちゃん。
だけど、召喚出来たのは一年前にもやってしまったらしいのと同じケース、人間だった。
しかもだ、その人間はなんか暗い感じで一人、勝手にいなくなってしまう。
やっと引きこもり生活を終わらせる事が出来ると思っていたのに、いなくなってしまう召喚人。
アイちゃんが狼に追いかけられていたのは、多分俺を追い掛けていたんだろうな。
そんな怖い思いまでして、どうにかドームまで戻ってこれたアイちゃん。そして俺と再会したわけだ。
森ですれ違った感じからして、俺が戦えるやつだと思ってただろうな。
そして今度こそ一緒に町に向かえると思っていたわけだ。
絶望の引きこもりから希望を見つけ、希望に逃げられ、絶望に追いかけられて、希望と再会して、とうとう希望と共に願いが叶う。
アイちゃんとしてはそんな心情過程だったと思うんだけど、繰り返そう。
俺に戦うだけの力がない。
召喚人として戦えるだけの力が皆無なのだ。
……べー、まじべーだよこれ。
俺に呼ばれて不思議そうにしてるけど、それでもどこかウキウキしているように見えるアイちゃんに、俺はこんな事を言わないといけないのか?
無人島に漂流してやっと救助隊が来たと思ったら、その人も漂流者だったとか、そんな感じだぞ?
つ、辛すぎる!
「えーと、アイちゃん?」
「はい。なんですか?」
無垢な表情が俺の心にナイフの如く突き刺さる。ぐふっ。
思わず吐血しそうになるけど、ま、負けんっ俺は負けんぞ!
一度大きく深呼吸をした後、俺は真剣な表情で口を開いた。
「正直に言うと、俺に戦う力はない」
「……え?」
唖然とした表情を浮かべているアイちゃん。
俺、心の吐血。
「え、えーと、それってどういうことなのですか?」
「こんな事言ってもわからないかもしれないけど、俺は森でアイちゃんとすれ違った後、狼に食い殺されているはずなんだ」
「……え?」
唖然すると同時に首を傾げて疑問符を浮かべているアイちゃん。
当然だ。当事者である俺だって意味がわからないんだから。そんな奴から説明を受けても理解出来るわけがない。
「た、食べられた? それならどうして健太さんはここにいるのですか? い、生きてますよね?」
「……多分」
それはちょっと俺自身自信がなかったりするんだよなー。
俺ってもしかしてゾンビ? その内食欲に支配されたりしちゃうのか?
何もわからない。得体が知れない。
「し、失礼するのです」
そう言って頭をぺこりと下げた後、俺の顔をペタペタと触りまくるアイちゃん。
えーと、アイちゃん?
意図がわからないけど、とりあえずこのままやらせておくか。
「んー。ちゃんとあったかいですし、生きてるはずなのですっ」
「そ、そっか。よかった」
胸の前でガッツポーズを取りながら、自信満々な顔でそう教えてくれるアイちゃん。
何それ可愛い。
「えーと、アイちゃんに確認したい事があるんだけどいいかな?」
「はい、なんですか?」
「ほら、俺って遠くの国から召喚されたからさ、俺の中にある召喚獣のイメージとこの国の召喚獣が同じなのか確認したいんだけどいい?」
「はいなのです。わかりました」
遠くから召喚されたって設定便利だなー。
さて、これで俺の復活についていくつか考えていた仮説の確認が出来るな。
「さっき言ってたけど、召喚獣ってのは召喚士の祈りによって召喚される力の化身みたいなものなんだよね?」
「はいなのです」
「召喚獣は常に召喚してるわけじゃなくて、必要な時に召喚するって感じ?」
「そうなのです」
「それじゃあ、通常の召喚獣には個性というか、感情というか、心はあるの?」
「……どういう事なのですか?」
おっと、ちょっと難しい事聞いちゃったみたいだな。
さてはて、どう噛み砕けは伝わるかね。
「そうだなー。召喚士と召喚獣の関係性っていうのかな」
「関係性ですか?」
「そう、召喚士が召喚獣の糸を手に取って操ってる感じなのか、それとも召喚獣という生き物を従えている感じなのか、どっちが近い?」
「……ふえ?」
だめだこりゃ。噛み砕いたと思ったら妙な形で固めちまったみたいだ。
わかりやすいどころか、言ってて俺自身疑問符大量生産だな。
「えーとそうだな。召喚獣自体に己っていうか、人格はあるのか?」
「あっ、なるほど。そういう事ですか」
おっ、どうにか伝わったらしい。
「えーとですね、召喚獣というのは基本的に召喚士の祈りによって生まれる召喚士の力のイメージが具現化した存在なのです。つまり、召喚士の分身みたいな存在なのです」
基本的にって言った所で微妙な顔をしてたから、多分俺という人間を召喚してしまった例外があるからなんだろうな。
「それでですね、言葉を交わす事は出来ないですけど、意思疎通はある程度出来るのです」
「召喚士と召喚獣の間に絆のようなものはあるって事?」
「はいなのです」
つまり召喚獣にも感情までとはいかなくても、心のようなものがあるって事か。
だけど、それならその心は一体どこからやってくるんだ?
俺みたいに異世界の存在を召喚し、使役しているのであれば召喚獣が元々別の世界で持っていた心をそのまま引き継ぐって形で心を持っていてもおかしくない。
だけど、アイちゃんの話だと召喚獣というは召喚士のイメージから作られる存在。つまり、元は想像、空想だ。つまり無のはずなんだ。
召喚獣に一つの生き物としての心が備わっているとすれば、獣、動物レベルの心だとしても、それは一体どこから来る?
アイちゃんの話をそのまま受け取るとしたら、召喚士というのはイメージから一つの生命を作り出す能力を持っている事になってしまう。
……いや、多分だけどそうじゃないんだ。
アイちゃんは召喚士。見習いだとしても、その本質は普通の召喚士と同じはずだ。
もしも召喚士が己のイメージを生命として具現化する能力を持っていたとしたら、今ここにいる俺の存在が何よりの矛盾になる。
だって、俺は想像上の生き物じゃない。
地球の日本という島国で生まれ、東京で育った人間だ。
だけど、もしも、もしもだ。
それが全て想像だとしたら?
俺が生きていた世界。その全てが元々アイちゃんの心の奥にあるイメージの世界だとしたら?
……いや、この仮定はあまりにも極論過ぎる。
こんな仮定よりも現実的な仮定。
それは、そもそも召喚士という存在の定義だ。
だけど、この仮定をするには一つ確認したい事があるな。
「ねえアイちゃん。召喚獣は召喚士の力のイメージが具現化したものなんだよね」
「そうなのですっ」
「それじゃあ、召喚士が呼び出した召喚獣は召喚士のイメージと完全に一致した状態で呼び出されるのか?」
「えーと、そうですね……むぅー」
目をつぶり、考え込むアイちゃん。少し経ってから一人頷くと、目を開けた。
「いいえ。聞いた話だとイメージに近い形で召喚されるらしいですけど、完全に一致してるわけじゃないみたいなのです」
「そっか。ありがと」
「はいなのですっ」
頭を撫でると嬉しそうに目を細めるアイちゃん。これは完全に懐かれたな。
それに、これで俺の仮説がほぼ確実だって事もわかったな。
召喚士は己の中にある力のイメージを具現化する能力者なんじゃない。
己の力のイメージに最も近い獣を異世界から召喚する能力なんだ。
創造ではなく、異世界からの召喚。
そう考えればアイちゃんが俺を召喚してしまった事だって矛盾がない。
異世界の存在なんて普通はわからないからな。異世界から来るのが会話の出来ない獣だけならそこから情報を得る事だって出来ない。
俺が獣ではなく、人だったからこそ出来た仮説だ。
この情報はこの世界にとって常識を一つ変えてしまうようなものだ。
正直言ってこの仮説に自信はある。というか、そうじゃなかったら召喚士の有り様が人間のレベルを超えている。
想像に命を吹き込むなんて、そんなの神の領域だ。
この話は誰にもしないほうが良さそうだな。俺が死ぬまで俺一人の心に秘めておくべきだろう。
さて、これで次の確認だな。
「ねえアイちゃん。召喚獣が戦いの中で敗北する事ってある?」
「はいなのです。いくら力の化身とは言っても最強というわけにはいかないのです」
「それなら、召喚獣が戦いで死ぬ事もあるって事?」
「えーと、そうですね。死ぬというのとは少し違うと思いますが、ある程度のダメージを受けると勝手に消えてしまうです」
「そっか。それじゃあ、召喚獣は一度消滅しちゃったら、もう同じ個体を召喚する事は出来ないの?」
「えーとですね。一度自動消滅するとどこかのドームに行ってもう一度お祈りをしないとダメなのです」
「つまり祈りをすれば帰ってくるって事?」
「はいなのですっ」
ふむ、召喚士見習いっていうからわからないって言われる事もあるって思ってたけど、随分と知ってるみたいだな。
まあ、本職よりもそれを目指している者の方が意識レベルが高いからより知ってる、というか覚えてるって事はあるもんな。
「帰ってきた召喚獣は消えてしまった個体と完全に同じなのか? それとも姿が同じだけで心は別?」
「過去に召喚士の一人が確認をしたみたいなのですが、ちゃんと同じ子らしいですよ?」
アイちゃんの顔には「どうしてそんな事を確認するのですか?」って書いてあるようだった。
確かにアイちゃんとしては疑問符大量発注かもしれないけど、これは俺にとって大切な事なんだ。
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