1-5 召喚人V 〜言いたくない〜
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えーと、どゆこと?
「えーと、どゆこと?」
おっと、おもわず思った事がそのまま口に出ちまったぜ。テヘペロ。
……うざいしキモいな、うむ。
「え、えーとですねっ」
俺の反応のせいか顔を真っ赤にしてうつむいてしまったアイちゃん。
やばい、可愛い。
「そ、そのですね」
一回言葉を切ってゆっくりと深呼吸をするアイちゃん。
そうだぞー、深呼吸にはリラックス効果があるかな。
落ち着きたい時にはベストだ。
「ふうー……えと、ですね。健太さんをここに召喚してしまったのは私なのです」
それはさっきも聞いたな。
「その、これは既にわかっている事なのですが、人を召喚してしまった場合……そのですね……」
視線がさっきからブッレブレ、まったくといっていいほどに定まってない。
動揺し過ぎだ。深呼吸の効果が全然ないじゃないか。
いや、それだけの事を言おうとしてくれてるのか。うん……良い子だな。やっぱり。
アイちゃんが何を言いたいのかはなんとなく想像が付くし、俺の方からいうか。
「ねえアイちゃん?」
「は、はいっ!」
名前を呼ばれた途端、ビクンと身体を跳ねさせるアイちゃん。
そんなアイちゃんの頭を撫でながら俺は笑いかけた。
「安心してアイちゃん。俺はもう、戻る場所なんてないから」
「……え?」
目を見開いて、まるで時が止まってしまっているアイちゃんに俺は続けた。
「戻せないんだろ?」
「……はい、なのです」
数歩遅れて時が動き出し、俯向くアイちゃん。
やっぱりアイちゃんが苦しんでたのはこれだったんだな。
前に召喚された奴が単純にこの世界を気に入ってしまったという可能性だって当然ある。
だけど、転移は転移だけど完全に事故による転移。
途中神様が現れてチート能力だとか、チート武器をくれるわけじゃない。
物語の主人公なんかじゃないんだ。戦いの中ですごい能力に目覚めるとか、敵の幹部とかライバル的に奴から「あいつ戦うたびに強くなっていやがる」とか言われるような事もない。
安心安全なんてかけらもない状態で、こんな危ない世界を来てしまったら普通は思うはずだ。
元の世界に帰りたいと。
だけど、一年前に召喚されたらしい奴は今、旅をしている。
つまり、元の世界に帰らずこの世界に一年以上も留まってるって事だ。
いやまあ、そもそもとしてそいつは別に日本からではなく、この世界のどっかから呼ばれただけって可能性もあるけど、とりあえず俺の予測があってたから今は気にしない方向で。
ともかくだ。
召喚は出来るが送り返す事がアイちゃんには出来ない。そもそも人を召喚するつもりなんてなかったんだ。
事故による不測の事態ってヤツなんだ。
そりゃそうだ。人を召喚したのは想定外。ならはその解決方法なんて知ってるわけがない。
だからアイちゃんは悪くないんだ。
それに、俺にとって召喚されたのは多分ラッキーなんだ。
召喚なんて普通じゃありえない経験をしなきゃ、俺はきっとあのひき逃げで終わっていただろうからな。
だから、アイちゃんが苦しむ必要なんてないんだ。
「アイちゃん。大丈夫だよ。俺は君を恨んだりしてない。むしろ感謝してるくらいだ」
「感謝……ですか?」
「そう。君のおかげで俺はまた人間に戻れたんだ」
仁美が死んでしまってからの俺は本当に堕落していた。
高校にも行かず、もちろんバイトだってしていなかった。
毎日毎日、ただ起きて、両親のお金で買ったご飯を食べて、漫画を買って、小説読んで、ゲームして、そして寝る。
本当に人として終わりかけて、いや、終わっていたんだ。
仁美という太陽を失って、俺という世界は闇に包まれてしまったんだ。
この世界に来て、仁美がいると知った。
だけど、それと同時に仁美は俺じゃない誰かと結ぼれていて、君という可愛い子供までいた。
君の年齢からして仁美にとって今の旦那さんとは結構な時間を共に過ごしているはずだ。
多分、俺と一緒にいた時間よりも長いだろう。
そう思ったら、俺は人として考えちゃいけない事まで考えてしまったんだ。
自分のものにならないなら、死んでしまえば良かったのに、と。
そんな事を考えてしまった自分を知って、絶望した。
ああ、俺はこんなにも醜い人間……いや、もはやモノだったのか、と。
目覚めた後は出来るだけ考えないようにしていたけど、ひき逃げと狼、二度経験した死の感覚に怯え、また引きこもりになろうとしていた。
それではダメだとわかっていたのに、それでも自分ではやめられなかった。
だけど、君の悲鳴を聞いた瞬間、自分の意志とは関係なく身体が動いたんだ。
君を死なせるわけにはいかない。
あいつの、仁美の大切な娘を死なせるわけにはいかないって、思った。思えたんだ。
動機としては微妙だけど、それでも君のおかげで俺は動けた。
引きこもりのドアを開けてくれたのは君なんだ。
「まあ、アイちゃんとしては意味不明だと思うけど、とりあえず俺は君をきっかけに目が覚めたって事」
「そ、そうなのですか?」
あからさまに疑問符を浮かべているアイちゃん。
まあ、当然だろうな。理解しろだなんて言うつもりないし。
「ともかく、俺としては元の場所に戻れなくても困らないって事」
「そ、そうなのですか?」
「そっ。だけどさ俺ってだいぶ離れた所から召喚されたみたいなんだよな。だからこの国の事とか、文化とか、道具とか、いろいろとわからない事があると思うんだ。だから、教えてくれるかな? 責任、取ってくれるんだろ?」
「は、はいなのですっ!」
俺が少しキザな笑みを浮かべながら言うと、アイちゃんは力強く頷いた。
☆ ★ ☆ ★
「えーと、それでは町まで案内しますね?」
「よろし……ん?」
アイちゃんが落ち着いた後、そう言って扉に向かおうとした彼女の背中を見て思わず声が出た。
「どうかしましたか?」
俺の声が聞こえたらしく、立ち止まり振り返ると首を傾げているアイちゃん。
「町までどれくらい歩くのかな?」
「えーと、一時間ぐらいなのです」
一時間か、結構遠いな。
……ふむ、安全を考えればやっぱし男のプライドなんて投げ捨てるべきだよな。
「アイちゃん。ちょっと話があるからこっち来てくれる?」
「ふにゅ?」
元気よく町に向かおうとしていたアイちゃんを呼び戻すと、彼女は不思議そうな表情のままやってきた。
「まず前提として、アイちゃんはさっきの狼に対抗する力はあるのかな?」
「えーと、私自身にはないのです」
「それじゃあ町からここまでどうやってきたのかな?」
「えーと……」
何故か気まずそうに視線を逸らすアイちゃん。
……ざわざわ。
「アイちゃん?」
「その、ここしばらく町に戻ってないのです」
「……つまり?」
果てしなく嫌な予感がするのだが?
思わず声が低くなってしまった。
「その、早くお母さんに認めて貰いたくて勝手にここまで来たのです」
「……つまり、ここまでは来れたけど帰れなくなったと?」
「……なのです」
怒られた子供のように落ち込んでしまうアイちゃん。まあ、どっちもその通りなんだけど……。
あれ? それならどうしてアイちゃんは外で狼に追いかけられてたんだ?
アイちゃんは召喚士。召喚士の戦闘能力って召喚獣だよな。
あれ、その召喚獣って俺じゃね?
……えーと、つまりまとめるとこういう事か?
お母さん、つまり仁美に認められたくてアイちゃんは危ない森の中を通って、どうにかこうにかドームまでやってきた。
しばらく帰ってないって事は、ドーム内で生活してたって事になる。
アイちゃんの顔色は特に悪くなってないし、ある程度の食料はあったんだろうな。
外にはあの危ない狼がいるから帰れなくなった。
帰るには召喚士の戦闘能力である召喚獣を呼び出すしかない。
そしてやっとのことで呼び出されたのがこの俺。アイちゃんはやっとの事で召喚獣を、というか召喚人を呼び出す事に成功したんだ。
だけど、ここから出るための頼みの綱とも言える俺が一人でドームからログアウト。
アイちゃんとしてはやっと召喚出来たと思ったら、その召喚人が一人で勝手にいなくなってしまった。
……うん。アイちゃんには悪いことしたな。
「うぅー」
さてはて、この落ち込んでいる少女に俺は言わないといけないのか?
俺に戦うだけの力がないと。
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