榊ユーマ
クキュルルルル・・・ゴゴッ・・・グゥ~
教室に響き渡る音。黒板の前にたつ先生が額に青筋を浮かべ、右手に持っていた白いチョークにヒビが入った。
「・・・榊」
静かに問いかけてるはずなのに、教室には冷気が漂う。先生は何故だか「榊」という人物と断定している。
暫くして、一人の少年がお腹を押さえながら立ちあがった。見覚えのある彼は昨日、ラーメンを沢山食べていたあの少年だった。
「・・・はい。お腹空きました」
グルッキュ~・・・。またあの音がした。先ほどの音は、少年のお腹の音だったのだ。
「・・・昼、食べていたはずだろう」
先生のいうとおり、榊と呼ばれたあの少年はこの授業が始まる前の昼に教室でパンを食べていた。食パン(6枚切)を10袋ほど。
「はい。でもたりなかったみたいです。ご飯買ってきてもいいですか?」
榊のその言葉に先生の額に青筋が増えていき、怒りによって体が震えて始めた。クラスメイト達は先生と榊から視線をそらした。触らぬ神に祟りなし。
「またお前はっ・・・」
先生が榊に怒鳴ろうとしたその時、
教室の後ろのドアが開いた。
そこにはだるそうな不良が立っていた。右手に何かがぎゅうぎゅうに詰め込まれたコンビニの袋を持っている。見た目はギラギラな銀の髪に赤いメッシュが入っており、黒い目はこちらを睨んでいるかのように鋭い。身長は170は越えているだろう。制服をだらしなく着崩しているように見えるが、シルバーチェーンや赤いピアス、十字架とドクロのネックレスなどが合わさり、それが彼にとても似合っている。
不良少年は教室を誰かを探しているかのようにキョロキョロと見渡す。立っていた榊と視線がバチリと合わさった。するとだるそうな様子から一変。頬を染め、目が輝きだした。
「っユーマ!」
授業中にもかかわらず、不良少年は榊に向かって歩いていく。榊の事をユーマと呼んだことからして、「榊ユーマ」が名前なのだろう。目の前に着くと、手に持っていた袋をガサゴソと開きはじめた。その袋の中は大量の食料だった。
「お腹すいてると思って色々買ってきたぜ!どれがいい?全部でもいいぞ?」
周りの生徒達は唖然として不良少年を見ている。話しかけられたユーマは食料を受け取り、顔は無表情だが目がとっっっても輝き始めた。
「・・・っっありがとう!」
感動で体が震えている不良少年には目もくれず、ガサゴソと袋から取りだし机の上に並べるユーマ。
(何から食べようかな・・・)
ワクワクと食料を眺めては一番最初に食べるものを選んでいる。そんなユーマを見ながら不良少年は拳を固く握りしめ断言した。
「ユーマのためなら俺、何でもするぜ!!」
その姿は、まさに犬である。頭に犬の耳と尻尾が見えた。
まるでハムスターのようにメロンパンを食べるユーマ、それをニコニコと見る不良少年。そんな和やかな空気をぶち壊すように、大声が響き渡った。
「・・・っ二人とも授業が終わるまで廊下に立っていろ!!榊は食料没収だっっ!!」
先生のその言葉に、ユーマは幸せな気分から一転、絶望した。