プロローグ
ズルルルルッ!ズルズルッ!・・・ちゅるんっ。
変な音が部屋に響き渡る。
この部屋にいる料理人の格好をしたオヤジが、片手にストップウォッチを持ち、固唾を飲んで一人の男を見つめている。周りの客もだ。若い男・・・いや、少年だ。近所に在る高校の制服を着ている。黒髪に黒い目、身長は160もないだろう。どこにでもいそうなその少年はラーメンを食べていた。ただし、大きさが違う。両手で大きい、普通の3倍ほどのお皿に入った麺を食べ終えたと思ったら、モヤシやワカメなどの具が残っている汁を飲み始めた。
ゴキュ、ゴキュゴキュゴキュッ・・・。
少年の喉が動くたび、一人、また一人と拳を握りしめる。
「っぷはー!」
すべてを食べ終えた少年は箸を台の上に置き、手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
その言葉にこの店の店主であったオヤジが手に持っていたストップウォッチを見る。
「ろ、ろっぷん、じゅうはちびょう・・・」
その言葉を聞いた瞬間、周りにいた客は歓声をあげた。逆に、店主は青ざめている。嫌な予感がして。その店主に向かい、少年はまたもや言った。
「おかわり」
店主は泣いた。絶望で。周りの客はどよめき「まだ食べる気なのか!?」「ありえない!」ーーそう。少年の座っている台の上には、先ほど食べていたお皿と同じ、空の皿が30はあるのだ。店主は後悔した。あんなチラシ、出さなければよかったと。
そう、少年はそのチラシを見てこの店にやって来たのだ。「メガ盛りスペシャルラーメン!10分以内に食べきれたら無料!お代わり自由(笑)」最後の言葉は絶対に食べきれるやつがいないと思い、冗談で書いたつもりだった。こんな奴がいるなんて、思いもしなかったのだ。
「俺の敗けだ!もう勘弁してくれっっ!」
今でも店が赤字なのに、これ以上食べられたら潰れる!そう思い少年にもう止めてくれるように頼んだ店主。周りの客はそんな店主を不満げな表情で見る。この少年がどこまで食べれるか見たかったのである。
少年はその言葉を聞き、少し悲しそうに眉を下げながらも「・・・ごちそうさまでした」と言い、隣の椅子に置いておいた鞄を持ち店を出た。「また来ます」と言い残して。
その言葉に店主はまた絶望し、「二度と来るなー!」と少年の背中に向けて叫んだ。