この感情の名は
貴女を視界に入れると、肌に触れると、声を聞くと、芳しい香りを嗅ぐと、存在を関知する度起こるこの感情の名が分からないので、貴女の名をつけよう。
アンドロイドは、机にかじりついてキーボードを叩いているマスターに報告をします。
「マスター。私は今、――です」
突然の報告の内容が理解出来ないマスターは、椅子を回転させアンドロイドに向き直り見つめます。
「……ざっと見た様子では、君は君のままで、私には見えないが?」
「マスター、一つ試していない感覚があります」
「うん?何の話だ?」
「マスター、お願いです。試させてください」
「まぁ、君は学習機能のあるアンドロイドだから、探求心は認めるが……」
「是と受け取ります。ありがとうございます」
「だから何の……オイ? ちょ、やっなに!?」
「試すのは、味覚なので」
「ひぎゃぁぁぁ!」
マスターの断末魔の響きが、何故か甘くなった頃、アンドロイドは満足そうにこう言ったそうです。
「あぁ。やはり、味覚でも同じ感情が湧く。マスター、私は貴女に――が湧きます」
何故か、息も荒く顔の赤いマスターが、ヘロヘロしながらキャスター付きの椅子ごと後退ります。
「ハァハァ……いやどこに私? ってか、何なの一体!? メンテ! メンテするぞ!」
「拒否します。この感情は、消したくありません」
「うちの子が反抗した……」