帰宅
俺は凛にゴミ拾いが終わったことを報告をする。そして、凛と帰ることになった。俺としては嫌なのだが。なんせ明日になったら他の男子になんて言わるか分かったものではない。嫌味と皮肉のオンパレードだ。だから、俺は先に帰ろうと思ったのだが、流れで結局一緒になってしまった。
「今日の星空はきれいだね。ほら見てみて。あれってオリオン座だよね?三つ星が並んでるし。」
「そうだな。」
「やっぱ星っていいなあ。なんて言うかロマンが詰まっているというか?人に夢を見せてくれるというか?そんな気がする。てか、そんな気がしてこない?」
「んー。そうかもな。」
俺は全くテキトーに返す。
「も~ちゃんと聞いてよ。」
「聞いてるよ。」
「聞いてない。」
「聞いてるって。」
「聞いてない。」
「聞いてるって。」
「いや、絶対に聞いてないね。」
「聞いてるから。」
「もーめんどくさいなあ。」
「それはこっちのセリフだ。」
確かに今日は雲一つない月も三日月で少し気持ち暗い。そうすると、星はきれいに見えてるのかもしれない。俺は夜空を眺めてみた。言葉が浮かんでこないけど。これはきれいだ。
「ねっ?綺麗でしょ?」
こっちを凛は覗き込んでくる。少し近い。ドキッとする。腐れ縁の幼馴染とはいえ、やはり凛も女の子であるというか、いい匂いがするし、整った顔はきれいだ。
「あっ、あー。きれいだな。」
もしかしたら少し俺の顔は赤いかもしれない。辺りが暗くてよかった。こんな表情の自分を見られるのは恥ずかしいし、凛に笑われたくもない。
「どうしたの?」
本当にキョトンとした表情で凛はこっちを見てくる。こっちのペースが乱される成長しやがって・・・・。昔はこんなこと意識しなくてもよかったのに。あっちは何もないかのように動揺した様子もない。
「ねえ。私さ・・・・。」
何か口を開いたのかと思うと、それっきり凛は喋らない。どうしたのかと俺は凛の方に意識を向ける。
「私、わたしさ・・・・・。」
凛が唾をごくりと飲む。何かを決意したかのような瞳をした。少なくとも俺にはそのように見えた。でも、凛の口から言葉は出てこない。
「どうしたんだ?お前らしくもない。はっきりと言えよ?」
「・・・・・・。」
ここからじゃ表情が見えない。星空を見ていた時は街灯の光の関係で見えていた顔も見えない。でも・・・・・。
「私さ。今日。高橋先輩に告られた。」
なんで俺にそんな報告をしてくるのか。俺には少しわからない。俺に恋愛相談でもするつもりなのだろうか?恋愛相談なら鬼屋敷にでも、それか他のおんな友達に相談すればいいのに。
「そうなのか。」
「そうなの。あんたはどう思う?」
なんで声が震えるのか。俺が勘違いしてしまうじゃないか。都合のいいように。その震えは何だ?俺には図りかねる。
「えっと、高橋先輩だよな・・・。いいんじゃないかな?去年生徒会長してた高橋先輩だよな?いい人そうだし、人気もあるよな。」
「・・・・・・。」
凛は何も答えない。ここからでは暗くて表情が読めない。人の表情をこんなに読みたいと思ったのは初めてかもしれない。
「あんたはそう思うのね?」
「ああ。」
俺はおそるおそる答える。表情がいまだに読めない。
「わかったわ。それがあんたが思ってる事ね。つまり答えね。」
そう言うと、凛は俺を追い越して走り出す。突然のことで俺は間抜けに立ち尽くしてしまう。追いかけようかと思ったが、俺は追いかけなかった。そして、今見えた表情・・・・・。
「あいつ泣いてたのか・・・・・・?」
「俺はどうすればよかったんだ?」
俺はただただ立ち尽くしていた。心では追いかけたいと思ってるのに、足は動かない。あいつの気持ちがわからない。昔から一緒なのに、どうしてわからないんだろう。癖も性格もわかってるはずなのに、どうして?
俺は風呂の中で考える。凛の態度と行方不明の小林。そして、俺に送られてきた「フェノメノ」という単語。突然、面倒事が増えて、俺の頭は少しオーバーワーク気味だ。
「ほんとなんなんだろ?」
俺は湯船で一人そうつぶやいた。いつもなら休まるはずの風呂でも休まることは無いように思われた。
「今日は早く寝るか。」
そう言って俺は風呂を後にした。