放課後
私は自分の身のありようが恨めしい。私はなぜ卜部の家の者としてこの世界に生を受けてしまったのだろうか?なぜ普通の一般の家庭に生まれ、普通に暮らし、普通に育ち、普通に恋をして・・・・のような普通の生活が出来ないような運命の下で生まれてしまったのだろうか。
そこに私が選択する余地なんてなかった。
もともと私の意思など剥奪され、与えられたものは卜部の家という名の意思だけ。
でも私にとってその意思など関係ない。私がこの先したいことはあの人と恋をして、一生添い遂げるということだけ。
そのためには終わらせなくてはならない。この卜部の意思とやらを。しかしこの意思は手強く私を強く縛り離さない。
でも希望はある。私が恋した人はその意思のレールの上で必要なピースだったから。だから私はこの家の意思を継ぐ者として君臨できる。たとえこの意思が血塗られた意思であったとしても。
魄の際とはいったいどういったところなのだろうか?私は楽しそうに笑みを浮かべる。いつも通りに。
しかし今日の邂逅でわかったのは彼がいつの間にかただの空っぽになっていたということ。彼は私に関しての記憶を有していないらしい。それはつまりどういうことか?
「忘れたのではなく、記憶を消されたのかしら?」
十分にあり得る話だ。相手が上位の魔法使いであることは知っている。その中に記憶消去の魔法があっても何ら不思議ではない。かくいう私もその魔法は使える。一般人限定の話であるが。
しかしどうやって彼に魔法をかけたのだろうか?私には想像できない。今の彼なら容易い。だが昔の彼ならどうだろうか?無理だ。魄の際にまで達するかとおもわれていたくらいの彼だ。それはありえない。だが・・・・私は知っている。起こったことはありえなくないのだということを。では誰だ?そのようにしたのは?
「まああの女しかありえないか・・・・・。」
私はたいそう憎たらしいあの顔を思い浮かべ、不愉快な気分になる。まあいい。どうにかなる。
私は考えをまとめながら、迎えに来た車に乗り込んだ。やっと呪いから解けて彼に会えたというのにやることが増えるわね。
でも彼女の心は少しだけ軽くなっていた。その表情は幼い少女が浮かべる笑みと同じだった。