夜
私は楓の家の結界を確認する。今日も何も異常はない。私はほっと胸をなでおろす。こここ最近殺人事件が起きているのでこの土地にも影響が及んでいると思ったが、どうやら杞憂だったようだ。これなら麻友さんにもいい報告が出来そうだ。麻友さんというのは楓のお母さんの名前だ。私の師匠といった存在だ。
ところで私は魔法使いだ。この世界には人の科学だけでは説明できない不思議な力があってその存在を理解し、その力を行使している者達。それが魔法使い。その一人が私。魔法使いうのがどれだけの数いるのか私は知らない。でもこの町には少なくとも五人の魔法使いがいる。私が認識している限りではの話だが。まあ一人は魔法の力を行使できない状況にあるのだが。
しかし、そんな枝葉末節はいい。現実にある問題を私は片づけるないといけない。ことは深刻だ。ここ最近この町周辺で殺人事件が起きているがそれはおそらく魔の者が行った仕業ではないかと思っている。そして、それを行った人物はおそらくこの街の者ではない。何せ相手を本当に殺しているのだ。この世から全くもって。そのものがこの世にいたという証拠を何もかも消している。まるでその者が最初からこの世に存在していなかったかのように。死体は残っている。しかしだ。その死体が誰の肉体だったのかは魔法使いでない者達にはわからない警察には何が起きているのか何が何やらさっぱりのはずだ。何せ私たちにすらこの殺人事件を起こしている者が何を行っているのか私にもわからないのだから。存在を消すそんな事象聞いたこともない。消されるとはどういう感覚なのだろうか。私は考えてみる。
例えばだ。私に好きな人がいるとする。ここでは私はただの魔法使いではなく普通の一般人であるとしよう。そして、その好きな人が今事件を起こしている者に消されてしまったしよう。私は何も思うところがない。その人に対する気持ちも想いも何もかも消えてしまう。その人が消えてしまった時点で気持ちも想いも空気に溶けだして雲散霧消してしまう。それは悲しいことだと私は思う。そして許される行為ではない。私にはだから許せない。今この夜にも跋扈する魔の者が。私にはどうしても許すことができないのだ。私はなんとしてでも殺人事件の犯人を自らの手で捕まえたいのだ。いや、殺人事件というよりはこの事件は消人事件といった方が適切なのか・・・・。
「おい、凛よう。」
「何?」
「そんな難しい顔をしてどうするんだよ。考えるんなら作業をしろ。自分の感情を仕事の途中で確認する奴なんど三流なんだよ。手を動かせ。」
「わかってるわよ。そのことくらい。あなたこそ見つけれないからイライラしてるんじゃないの?」
「当たり前だ。俺が生きてきた中でこんなことは初めてだ。相手の影も形もつかめないなんてな。」
「じゃああんたは用無しじゃない。まあわかってたことではあるんだけど。」
「喧嘩売ってんのか凛?」
どすの利いた声で相棒は私を威圧する。並みの魔法使いなら萎縮してしまうだろう。何せ相手は・・・・なのだから。
「だまれ。」
その声を私は一蹴する。こいつに呑まれるのはここじゃない。今じゃない。
「さすがだな。お前の意思の強さには毎回感服するよ。だから俺はお前が私の物になるのが楽しみだ。」
「私は絶対にお前の物にはならない。」
「言ってろ。お前は絶対に溺れる。人という醜い生き物だお前も。強欲な人間は必ず溺れる。せいぜい気を付けるんだな。お前の心なんてお見通しだ。綺麗な見た目に反してお前は醜いよ。どこまでもな。どんだけお前が俺のことを相棒だとか思っても俺にとってはお前は汚く醜い食べ物だよ。まあ今日は俺は消えるよ。できることなんてないしな。力が欲しいときは呼べよ。」
「ああ消えて。」
そういうと彼は消えた。
「毎回本当に鬱陶しい。」
でも、私は彼が相棒だと思っているし今の私になくてならないのは事実だ。今日は一人でこの町を一人で回らないといけない。使い魔らしくない使い魔に文句を垂れたいところだが、あいつの言う通り作業をしないといけない。それがどこか癪だった。