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鹿角フェフ小噺集

のじゃーさんと僕【短編版】

作者: 鹿角フェフ

 幸せだ。



 今僕は世界で一番幸せな人間だと断言できる。

 何故なら彼女と一緒に過ごすことができるからだ。


 ちんまい背丈に愛らしい金毛、狐耳、そして狐尻尾。

 少しだけ時代錯誤(じだいさくご)な和服、それでいてその美しさを寸分たりとも失わない装い。

 はち切れんばかりの笑顔、いじらしい仕草、こちらに必死に話しかけてくる彼女こそ……。



「そこで(わらわ)が――」



 そう、彼女こそ。



「――のじゃー」



 稲荷眷属(いなりけんぞく)の式神。のじゃーさんなのだ。




 ああ、可愛いなー、のじゃーさん。

 必死でこちらに話しかけるその姿がとてもプリティーだ。



 のじゃーさんと僕の出会いは一般的に言えば特殊な部類に入る。

 このデジタル時代の平成においてもひっそりと受け継がれる陰陽道。その流派の一つ、とある家元の次期当主として修行を積んでいた僕は、高校に入学してある程度その実力を認められるようになった事から稲荷眷属の修行引受をおこなったのだ。


 稲荷とは皆がご存知、キツネの神様。

 その眷属を式神として招き入れ、修行の手伝いを引受ける事によって自分が一人前で信頼がおける人物であるということを神様に示すのだ。


 そうしてやってきたのが のじゃーさん。僕は彼女を初めて見た時身体中に電撃を走るのを感じてその場で小一時間ほど痙攣してしまった。

 それは単純に一言で表せる、一目惚れってやつだ。


 そう、その出会いこそが僕とのじゃーさんの永遠に続くラブストーリーの幕開けだったのだ!




(あるじ)っ! (あるじ)っ! 聞いておるのか!?」



 のじゃーさんがプンスカ! といった様子で僕に詰め寄る。

 しまった! のじゃーさんに見とれるあまりに彼女の言葉を聞くのを忘れてしまっていた! なんという失態!

 失態はすぐに取り戻さなければいけない。のじゃーさんの好感度ポイントは常にマックスでないといけないのだ。それは義務であり権利だ、日本国憲法の前文にも書いてある。



「聞いているよ、のじゃーさん。 どうかしたの?」


「むぅ! やっぱり主は妾の話を全然聞いていないのじゃ! ヒドイのじゃ!」



 のじゃーさんが僕の嘘を即座に見抜くと(とが)めてくる。

 うう、ごめんよ のじゃーさん。のじゃーさんがあまりにも可愛すぎるのがいけないんだよ。誰だって のじゃーさんみたいに可愛らしい女の子がいたら(とりこ)になっちゃうよ。



「ははは、ごめんごめん。のじゃーさんに見惚れていたんだよ」


「むむ! そっ、そんなこと言われても騙されないのじゃ!」



 のじゃーさんは若干頬を赤らめながらもビシリッ! っと僕を指差し追求してくる。

 のじゃーさんは怒った顔もプリチーだ、プンプンといった表情の彼女は齢120とは思えないほどに純粋で天真爛漫(てんしんらんまん)だ。

 そう、のじゃーさんは人化の術を習得した高位の稲荷眷属である関係上、僕よりもずっと年上なのだ。その差は実に103歳になる。

 あ、駄目だ、これ以上年齢の話しは止めよう、ギャン泣きされる。

 のじゃーさんに年齢の話は禁句なのだ。もちろん、僕とのじゃーさんの間には年齢なんて関係ないし些細な障害でしかないことは明らかだけれどもね。



 それよりもだ、そろそろのじゃーさんの話をちゃんと聞かないと本当に怒られてしまう。

 眷属とは言えどものじゃーさんは稲荷の化身、その怒りは僕みたいな駆け出し陰陽師では抑えることなど到底出来ないほど強力かつ可愛らしい。



 早速僕は のじゃーさんのつぶらな瞳を舐め尽くすように見つめながら彼女の話を真剣に聞く。



「それで、話って何かな? もう一度聞かせてくれるかい?」



 さぁ、のじゃーさん。お話は何かな? のじゃーさんの全てを僕に教えておくれ!



「実は、この喋り方をやめたいのじゃ! 普通の喋り方がいいのじゃ!」


「なんですと!?」



 衝撃の告白! 天地を揺るがす激白!

 のじゃーさんがのじゃ語を止めるだなんて! なんという不幸! なんという悲劇!

 そのあまりの出来事に言葉が出ない僕を知ってか知らずか、のじゃーさんは嬉しそうにその恐ろしい未来を語りだす。



「これからは普通の喋り方に直すのじゃ! ひょうじゅんごで喋るのじゃ~」



 のじゃーさんはご機嫌だ。

 頑張るぞ! と言わんばかりに両手を天高く挙げながら嬉しそうに身体を左右に揺らしている。


 はわわわ、なっ、なんて きゃわたん なんだ のじゃーさん!

 ああ、天使の笑みだよ のじゃーさん。エンジェリックスマイルだよ のじゃーさん。

 もう完全に太陽のKomachiAngelじゃないか のじゃーさん!


 しかしっ! だがしかしっ! それだけは、それだけは許すことまかり通らないぞ のじゃーさん!



「いけませんっ!!」


「にょわっ!?」



 突然の叫びに のじゃーさんが驚きすくむ。

 ああ、驚いた顔もプリチーだよ のじゃーさん、きゃわわだよ のじゃーさん!

 でもゴメンネ、のじゃ語じゃない のじゃーさんなんてルーとご飯のないカレーライスなんだよ、このままじゃらっきょうになっちゃうんだよ!!

 そんな事、僕が、僕が許せるはずもない!

 僕は のじゃーさんの一挙一動を見逃すまいとその姿を視界に焼き付けつつも のじゃーさんを説得する。



「いや、ゴメンね。でも今のままでいいんじゃないかな? 無理することはないよ、のじゃーさん」


「ううう、でも……でも………」



 "エンジェル・フォール!"

 先程まであれほどまでご機嫌だった天使が途端にその笑顔を曇らせた、いつも元気な狐耳と尻尾も今や垂れ下がっている。

 ああ、僕はなんて罪深い人間なんだ、のじゃーさんを悲しませてしまうなんて! 僕は罪人だ! これは許されざる罪過なのだ! 死を持って償わなければいけない!

 あ、できれば刑罰は萌え死でお願いします。

 だがまてよ、僕が のじゃーさんに萌え死の刑を受ける前に確かめなければいけない事がある。



「うーん、どうして標準語で喋ろうなんて思ったの?」



 そうなのだ。のじゃーさんは決して思いつきで行動を起こす子ではない、きっと標準語を喋ろうと思ったキッカケがあるはずなのだ。

 僕の問いに答える気になったのか、のじゃーさんは少しだけ困った表情をしながら上目遣いでオズオズと切り出す。



「妾の仲間に言われたのじゃ、今時そんな古い喋り方だと変だって……」


「おい、どこのどいつだ? ちょっとぶっ殺してくる」



 僕の怒りが一瞬にして沸騰した。

 土御門(つちみかど)家の次期当主ナメんじゃねぇぞコラ、"脇役の分際"で僕の のじゃーさんに何たる言い草だ、先祖代々伝わる陰陽術でサクッと調伏(ちょうぶく)すっぞオラ!

 ここまでのじゃーさんを馬鹿にされて黙っている僕ではない、もうこれは戦争だ、聖地奪還を目的とした聖戦である。

 もちろん、聖地とは のじゃーさんの笑顔とそのまっ平らなエルサレムだ。

 さーってと! 久々に符咒(ふじゅ)でも行使するかな。呪術系の()はどこに保管してたっけ?



「おっ、落ち着くのじゃ主ー!」



 立ち上がりいそいそと陰陽術の道具箱を漁りだした僕に のじゃーさんすがりついてくる。

 突然のご褒美に驚く僕であるがここで止まっては男がすたる!



「離してくれ、のじゃーさん! 僕には のじゃーさんの笑顔を守る義務があるんだ!」



 そう、義務なのである。

 のじゃーさんの笑顔を守るのは僕に課せられた至高なる義務なのだ。

 そしてそれは権利でもある、アメリカ独立宣言にも書いてあったはずだ。



「友達なのじゃ! いじめちゃダメなのじゃ! (わらわ)に免じて許して欲しいのじゃー!」


「う! のじゃーさんが言うのなら……」



 むむむ、のじゃーさんのお友達であったのか……。

 これは早とちりだ。なんら価値の無い有象無象であろうと のじゃーさんの友達であるのならばそこには計り知れないほどの存在意義が生まれる。

 僕は居ずまいを正すと のじゃーさんに向き直る。



「ありがとうなのじゃ! やっぱり主は優しいのじゃ! 妾はそんな主が大好きなのじゃ!」




 大好きなのじゃ!………大好きなのじゃ!………大好きなのじゃ!………


 なん――だとっ―――!?


 奇跡とも思われる言の葉が響き渡る。

 一瞬にして のじゃーさんの金言が僕の身体中に染み渡った。




 これは……、これは……!


「エクセレンツッ!!」


「ひゃうっ!?」




 のじゃーさんは僕から大切な物を奪って行きました、それはなんですか?


 心ですっ!!


 僕の鼻より のじゃーさんへの熱い思いが血潮となってあふれだす。

 ああ、のじゃーさん。そんな唐突に愛の告白をするなんて僕はもうたまらないよ!


 ぼたぼたと零れ落ちる愛を必死に手でおさえる僕であったが、のじゃーさんが心配そうにこちらを伺っている。

 ああ! のじゃーさんに心配をかけるなんてなんという事だ!



「どっ、どうしたのじゃ主?」


「あ、ああ。ごめんね、ちょっとだけ愛が漏れだしたんだ」



 そう、これは愛なのである。

 僕の体内でオーバーヒートした愛が創聖合体(そうせいがったい)を引き起こして天元突破(てんげんとっぱ)してしまったのだ。

 まったく、ここまで愛を垂れ流させるなんて、いけない子猫ちゃんだよ のじゃーさん。

 あ、子狐ちゃんだったね のじゃーさん。



「あっ、愛!?」


「そうだよ、気にしないで。でも僕は のじゃーさんの喋り方は好きだよ? 今の のじゃーさんが一番かな?」



 うん。これこそが正に答え。まごうことなき真実である。

 のじゃーさんの のじゃ語は可愛い。可愛いは正義なのだ、否定するものがいるとすればそれは全て悪である。情状酌量の余地はない。



「えっ!? えへへ……嬉しいのじゃ、妾も主の声を聞くと安心するのじゃ」



 その瞬間! 僕に電流ほどばしる!

 なんと言うことだ! なんという事が起きたんだ! のじゃーさんが………のじゃーさんがデレたっ!! まぁいつもデレているんだけれど!




 だがっ! もう、これは……たまらん………たまらんばいっ!!


「マーヴェラスッ!!」


「にゃわー! また主がおかしくなったのじゃ!」




 愛………覚えていますか?

 いま僕は、世界が愛で構成されている事を魂で理解した。

 ああ、きゃわゆいよ のじゃーさん。きゃわわだよ のじゃーさん。

 僕は のじゃーさんの全てを受け入れんとその一挙一動を脳内に焼き付ける。

 のじゃーさんは式神だから電子機器には映らないからね、代わりにきっちりと僕のハートに君をメモリアルだよ のじゃーさん。


 だが待て、待つんだ僕。

 そろそろ落ち着こう、一旦落ち着いてゼロベースで考えよう、そろそろ、そろそろ のじゃーさんがお怒りになる。

 もちろん怒った のじゃーさんもプリチーではあるが彼女を怒らせることは僕の本意ではない。でも怒った のじゃーさんも久しぶりに見たい。


 いや……だがまて………いやしかし………。




「落ち着け僕、落ち着くんだ……平常心だ、素数を数えるんだ」


「主ー! しっかりするのじゃー!」



 出血量がそろそろヤバイことになっている。

 のじゃーさんに対する愛は強烈だ、本来ならば"ほどよい愛"が一番であるが彼女の微笑みがそれを許さない。

 ロリ狐っ娘は最強にして最高なのである!

 昔、僕は狐娘と結婚して一男もうけちゃったご先祖様の事をド変態だと馬鹿にしていたが、僕が愚かだったのだ。ご先祖様はド変態ではなく神だったのだ。



「ありがとうのじゃーさん。愛は時として己を傷つける刃と化すんだね」


「主が何を言っているのかわからないのじゃ! でもでもっ、大丈夫だったみたいで良かったのじゃー!」



 僕はこんな時でも気遣いを忘れない女神様な のじゃーさんへ感謝の言葉を伝える。

 そう、愛とは刃なのだ、愛すれば愛するほど己を傷つけてしまうヤマアラシのジレンマなのだ。


 僕は先程から愛の流出が止まらないいけないお鼻さんにティッシュをこれでもかと詰め込む。




 ふぅ、なんだかだんだん落ち着いてきたぞ。心なしか涼しくもある、あれ? 寒気かなこれ? 血の量大丈夫かな?

 でもまぁ、やはり混乱している時には のじゃーさんの声を聞くに限る。

 もちろん、平時であっても のじゃーさんの声を聞くに限るのだけれども。



「ご心配をお掛けしましたのじゃーさん。じゃあそういう訳だから今まで通りの喋り方でいいんだよ?」



 とりあえず本題にもどそう、結局、のじゃーさんが のじゃ語で喋ってくれれば良いのだ、そうすれば全てが元通りに収まって皆ハッピーになれる。



「駄目なのじゃ!!」


「えっ!? どっ、どうしてだい? 何かあるのかい!?」



 このまま のじゃーさんが了解してまた幸せな二人のイチャラブシーンが始まるかと思ったがなんと のじゃーさんからもたらされたのは否定の言葉!

 どうしてだい のじゃーさん! 君に一体何があったのだ!?



「だって! このままだと主まで馬鹿にされちゃうのじゃ! 妾はそんな事絶対に許せないのじゃ!」


「ああっ、ああああああ……」




 僕の、僕の為だったのか? 全ては……この僕を思って………。

 えらいこっちゃ、これ、どえらいこっちゃで………。




「あっ、主……?」


「ウォーーーォウサムッ!!」


「みぎゃあーーーー!」




 遂に愛が のじゃーさんにふりかかる。

 ああ、真っ赤になった のじゃーさんもかわいいよ!

 でも……もしかして? 怒っていらっしゃいますか のじゃーさん?



「むーっ! むーっ!」



 のじゃーさんは顔と全身を真赤にしてこちらを睨んでいる。

 それもまた魅力的なんだけど、アカン、これ完全に怒っていらっしゃる。



「もう主なんて知らないのじゃ! 妾の話を全然聞いてくれないのじゃ! 主嫌いっ!」


「うぎゃぁああああ!」



 僕は叫びをあげて床を転げまわる!

 "キレる彼女にご用心"! 遂に のじゃーさんがその怒りをあらわにし、僕を口撃しだしたのだ!

 今や彼女は"揺れる金の暴君"だ、僕は のじゃーさんの慈悲を乞うしか無い!



「くっ! 許してくれないかい のじゃーさん。僕は のじゃーさんがいないと駄目なんだ………」


「だって! だってーっ!!」



 のじゃーさんは両手をバタバタと動かしながら暴れていたかと思うと遂には僕の胸をぽかぽかと殴りだした! ドュフフフフ、いつもありがとうございます。



「だって! 主全然話聞かないし! でもっ! このまま血が出て主死んじゃったら嫌だし………どうしていいかわからないのじゃ……」



 のじゃーさんが落ち込む。

 ああ、しまった、選択ミスった! ここでこの選択肢を取るべきではなかった! このままでは のじゃーさんルートの真エンディングが見れない!

 でも大丈夫、まだだ、まだやり直しはきくはずだ!



「これからはちゃんと話を聞くよのじゃーさん。僕は僕を制してみせる。だから………お願い、許して欲しいんだ」



 そう、僕は生まれ変わるのだ。愚かな僕を捨て去り真に のじゃーさんから尊敬される男に。

 愛深き故に愛を捨てた男……。

 見てくれていますかお師さん? 僕、やり遂げてみせます。



「う……、じゃあ一つだけ! 一つだけお詫びが欲しいのじゃ! そうしたら許すのじゃ!」



 のじゃーさんからのお許しキターーー!

 のじゃーさんルートへの復帰おめでとうございます! どういたしましてありがとうございます! さぁ! お詫びの時間だ! 有言実行だ!



「なんでもするよのじゃーさん! 足を舐めればいいのかい!? 舐めるよ、喜んで! じゃあ早速足袋(たび)を脱いでくれないかい!? あぁ! もう関係ない! そのままでイケる!」



 のじゃーさん足をペロペロできるなんてお詫びどころかご褒美ではないか!

 久しぶりに のじゃーさんの美しい足を舐められるなんて! さぁとくとご堪能あれ のじゃーさん! これがペロリストたる僕の全身全霊をかけた、究極のペロリズムだ!



「違う! 違うのじゃ! 落ち着くのじゃ主ー! にゃわっははははは! くすぐったいのじゃー!」



 ペロペロペロペロペロ!

 美味しいです のじゃーさん! のじゃーさんのおみ足美味しいです!



「にゃー! 主おすわりっ!!」


「ワンッ!」



 ヘッヘッヘッへ。

 何でしょうか のじゃーさん! 忠実たるワンコであるこの僕になんでも申し付けて下さい! お手でしょうか? おかわりでしょうか? チ○ンチンでしょうか!? むしろチ○ンチンですよね! そうと言って下さい!



 のじゃーさんは少しだけモジモジとしていたがややして何かを決心した様子で僕の事をジッと見つめると遂にそのお詫びの内容を口に出したっ!



「えと、えっと………その。ちゅ……、ちゅーして欲しいのじゃ!! そうしたら許すのじゃ!」



 "お嫁さまの条件"達成!

 良かった! 毎月『ゼクシィ』購入しててよかった! お互い好き合っていて、なおかつチューだなんて! これは! これは! もう完全に夫婦だよね! 事実婚だよね!

 あとはハッピーウェディングの後に役所へ婚姻届を出すだけだよね!


 ああ、のじゃーさん! のじゃーさん!


 あっ、やば。興奮してきたらまた愛があふれ出してきそうだ……。

 落ち着け、落ち着け、もうこれ以上の失血は命に関わる。

 こんなとこで死ぬわけにはいかないぞ僕。なにせこれから幸せな二人だけの結婚生活が待っているのだ! 結婚生活………二人だけの結婚生活!?




「ヴューティフォゥッ!!」


 ダブルトゥループからの――


「あっ、主っ!?」



「エーーーンド! ウァアンダフォゥッ!」


 トリプルアクセル!


「主っーーー!!」




 見事な三回転半ジャンプだ。

 まさに二人の婚約を祝福するに相応しい名演技だ! 僕の部屋も愛で真っ赤に染まり上がっている。



「ああ、のじゃーさん。引き出物は1万円位の物でいいかな………?」



 ふふふ、今から結婚式のプランは決めておかないとね、夫婦二人の意見を尊重してじっくりと話し合うことが円満の秘訣なんだ! 結婚式はその第一歩、まさに二人の共同作業だね のじゃーさん。



「何を言っているかわからないのじゃ! またこのパターンなのじゃ! 結局話を聞いてくれなかったのじゃー!」



 ああ、焦った声もグッドだよのじゃーさん。

 安心して、この前は気絶しちゃったけど今回こそは大丈夫、のじゃーさんとのハッピーエンドに向けて一直線だよ!




 あれ? なんだか意識が朦朧としてきたぞ?

 もしや愛を出しすぎたか? いやいやまてまて僕の愛は無限大だ、この程度で根を上げているようでは決して のじゃーさんにとっての"これがわたしの旦那様"になる事なんてできない!


 立て! 立つんだ僕! そうして のじゃーさんと駅前のブライダルショップへ今後のプランを決めに行くんだ!

 おっとついでに『たまごクラブ』と『ひよこクラブ』も買わないとね!



「誰かー! お父上殿ー! お母上殿ーー! また主が鼻血を出して気絶したのじゃーー!」



 そうそう、父上と母上にも報告しないとね! 皆祝福して下さい! 僕"今度こそ幸せになります!"

 ああ、やばいなこれ。完全に明るい未来しか見えないぞ!


 さて、式場は何処にするかな? あと のじゃーさんは子供何人くらい欲しいのだろうか? 家はどうしよう? 白い一戸建てに大きな犬がベターかな?

 ムフフフ、まさにバラ色の未来! 物語は今始まりを迎える!




 のじゃーさんと僕。


 こうして、二人の愛する男女は末永く幸せに暮らすのであった! 完!




 あ、ちなみになんだけど。

 目が覚めたら何故か のじゃーさんと両親にめちゃくちゃ怒られた、理不尽だと思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ●のじゃーさんのキャラが良かったと思います。 [気になる点] ●個人的には主がちょっとテンション高過ぎて話が落ち着かなかった気がします。 [一言] 一覧に「のじゃーさんと僕の怪奇譚」という…
[良い点] テンションが高い、すごく高い。 文章も綺麗で読みやすかったです。 のじゃーさんは可愛く、主人公もとても面白い。 [一言] 終始笑いが止まりませんでしたっ。 このテンションの高さ、主人公の滅…
2015/05/19 14:39 退会済み
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[良い点] はなし 聞いてくれた [気になる点] かいじょ だめ [一言] いじわる めっ 
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