必殺の白手
明らかになったオーフェンの野望、ヤヤはそれに打ち勝つ事は出来るのか?
「このバハムートが有る限り、貴方達に勝ち目は無いわ!」
海に浮かぶ人工物、オーフェンが作り上げた対八刃用殲滅移動基地、バハムートの上でオーフェン六頭首の一人魔磨が宣言する。
「まさか万年竜の死骸をこんな事に使うとは思いしませんでしたよ」
苦笑する西瓜に魔磨が作り上げた化け物が攻撃するが、西瓜の傍らに居る爆炎を纏った獅子がその爪で爆砕していく。
「完成はさせない」
焔が床(バハムートの天井)を思いっきりけりこむ。
『ビックフットタイタン』
その一撃で、周囲が崩れはじめる。
「甘いわね!」
魔磨が喜悦の表情で言った。
崩れる端から再生が始まる。
「万年竜の無限の魔力で、永久再生するこのバハムートを破壊する事など出来ないわ!」
その言葉に対して、西瓜は平然と言う。
「だったら再生するより早く壊せば良いんですよ! 爆炎纏いし誇り高き獅子、百母西瓜の名の元に、合わせ鏡に映せし様に増やせ! 合鏡獣晶」
爆炎を纏った獅子が呪文に答え、凄まじい数に増えて、バハムートの破壊を開始する。
バハムートは確かに再生するが、それより早く、爆炎を纏った獅子達が破壊行動を取り続ける。
「馬鹿な! こんな出鱈目な事があっていいのか?」
魔磨が言葉を無くす。
その時ファザードが近づき言う。
「魔磨様、使役した獣が幾ら多くても、使役している奴は一人、それを殺せば御終いです」
その言葉に魔磨が頷く。
「そうよね。さーやりなさい」
魔磨の言葉に従い、西瓜に向かう、巨大な化け物。
「白風の長、あれは任せたよ」
西瓜の言葉に焔が頷き、巨大な化け物の前に立つ。
「ふん、消耗した白風の長など、瞬殺してあげる!」
巨大な化け物の体から無数の触手が伸び、焔に襲い掛かる。
焔は両手に凄まじい熱量を溜め、そして触手が接近する前で交差させる。
『アポロン』
倍増された熱量は、瞬時に触手を焼き尽くす。
そのまま、焔は右手を握り締めて叫ぶ。
『ハーデス』
その言葉に答える様に、巨大な化け物は焔の拳にひきつけられて、焔が拳を打ち込むと体が縮小し、元のサイズに戻った時には、原型は無くなる。
拳を振り上げる焔。
その拳からは雷が飛ぶ。
『ゼウス』
拳と共に打ち込まれた雷は巨大だった化け物を跡形もなく粉砕した。
言葉を無くす魔磨。
「そんな馬鹿な事が、奴は中位の異邪でも上のクラスの力を持っていた筈」
流石に片膝をつく焔。
その間も爆炎を纏った獅子達による破壊は続く。
爆炎を纏った獅子による破壊の衝撃は、較達が居る所まで来ていた。
「何が起こったと言うのだ?」
ローデアが、監視カメラを見て驚愕する。
「このバハムートを壊す程の力だと。個体が持てる力ではない」
驚きながらもローデアは、バハムートのコアである、万年竜の心臓を見る。
「あれさえ本格起動すれば、バハムートは無敵だ!」
己の力を注ぎ込もうとするローデアに較が特攻をかける。
「やらせない!」
「邪魔だ小娘!」
ローデアの作った障壁が、較を簡単に弾き飛ばす。
「この障壁は、バハムートの力を使っている。お前が上に居る奴等程の力を持っていない限り破れはしないわ!」
壁まで吹き飛ばされた較に近づく良美。
「ヤヤ、大丈夫!」
較は頷き、監視カメラに映る自分の父親の姿を見る。
「お父さん。あちきはお父さんみたいな才能は無いかもしれない。それでもここだけは負けられないから力を貸して!」
万年竜の心臓を活性化させているローデアに向かって歩みより、障壁の前で両手を広げ、両手に熱量を生み出し、交差させる。
『アポロン!』
焔と較べれば劣るが、かなりの高温が発生させた。
しかし、障壁は破れない。
較は諦めず、右手を掲げ、雷を纏わせる。
『ゼウス』
焔に較べれば雷の本数も威力も落ちるが、ビルすら一撃で粉砕する威力が発生する。
だが、障壁は破れない。
障壁に反射した炎や雷で較の右腕は真っ黒に成っていた。
良美が近づく。
「ヤヤまだやるつもり?」
それに対して較は頷く。
「諦めたらそこで終わりだからね」
すると良美は較の左手を握る。
「死ぬ気で撃つなんて許さないからね。こんな障壁なんて簡単に打ち破ってやんな!」
その言葉に較が苦笑する。
「はいはい。了解しました」
目を瞑り、右手に全ての力を込める。
『ああ、我等が守護者、全てを切り裂く存在、偉大なりし八百刃の第一の使徒、我が魂の訴えに答え、その力を一時、我に貸し与え給え。白風流終奥義 白牙』
較は白い力を纏った右手を障壁にぶつける。
今度の一撃は、障壁と互角だった。
しかし、白牙を放ち続ける較には確実に限界が迫っていた。
「知ってるぞ! その技は、お前等にとって最後の技、長時間打ち続けられる物ではないな。それに、万年竜の心臓の活性化が始まった今、いつまで均衡を保ってられるかな?」
ローデアが余裕たっぷりな口調で言う。
そしてそれを示す様に、較が障壁から弾き飛ばされる。
当然良美も一緒に弾き飛ばされて、壁にぶつかって意識を失う。
「もう終わりだな、余力が無いお前は、ただそこで、このバハムートの完成を見届ける事しか出来ないのだ!」
ローデアが高笑いをする。
較は、良美が意識を失っているだけな事を確認して安堵の息を吐く。
「正直意識を失ってくれて居て助かった。でないとこれからすること無理でも止めようとするから」
障壁に向かって歩き出す較。
「ふん。何をするつもりだ、お前等の奥の手はもはや使える状態ではあるまい?」
その言葉に較が頷く。
「うん、さっきのであちきの力は殆どゼロだよ。もう白牙を撃って、白牙の侵食を防ぐ方法は無いよ」
その言葉に笑みを浮かべるローデア。
「それでどうするのだ、まさかとまさかと思うが素手でどうにかするつもりか?」
それに対して較が首を横に振る。
「簡単だよ、侵食を防がなければもう一発撃てる」
右拳に力を込める較。
『ああ、我等が守護者、』
倒れていたキッドが立ち上がり。
先に進むかどうか悩んだ時、甲板に出る事を選択した。
「ヤヤはきっと勝つ」
『全てを切り裂く存在、』
「ご主人様、ヤヤの助けに行かなくても良いんですか?」
栗菜の質問に対してユリーアが言う。
「馬鹿な子猫ちゃん。私に勝ったヤヤちゃんが負ける訳ないじゃない。そんな事より早く帰って良い事しましょう」
頷く栗菜と共に、甲板に向かうユリーア。
『偉大なりし八百刃の第一の使徒、』
地龍は拳を握り締めて言う。
「一刻も早く完成させないといけないな。ヤヤに打ち勝つ為に」
そう言って、甲板に向かって歩き出す。
『我が魂の訴えに答え、』
ホープが拳銃を調整をしながら言う。
「やっぱりガンマンとしては、いつまでも負けたままじゃいけないよな。次は最初の一発でヤヤの防御を上回ってやるかな」
そう言いながら、西部劇のエンディングを鼻歌で歌いながら、甲板に向かう。
『その力を一時、』
足を引きずりながら、剣一郎が較が通った道を行く。
「これが終わったら、貸し借りは無しだ。その時は改めて真剣勝負だぞヤヤ!」
それを伝えるため、較の敗北など露程に考えず進む剣一郎。
『我に貸し与え給え』
白風家の居間で不安気な顔をする小較。
「ヤヤお姉ちゃん達大丈夫かなー?」
姫子も表情を暗くする。
「バトルの組織全てを相手にする物ですからね」
そんな二人に千夜が言う。
「安心しなさい、あの良美って子が側に居る限りヤヤは負けないわ」
小較が千夜の方を向いて聞く。
「どうしてですか?」
千夜が自信たっぷり言う。
「護りたい者が居る八刃は、絶対無敵なのよ」
『白風流終奥義』
焔は、自分の下で高まる力に嫌な予感を覚えた。
「これは、『白牙』? ヤヤが終奥義を撃つつもりなのか?」
そんな焔に西瓜が言う。
「なるほど、下にこのバハムートを管理する奴が居て、ヤヤちゃんと戦ってるって訳ですね」
それを聞いて魔磨が言う。
「ふん愚かね、下に居るのは私と同じ六頭首の一人、ヤヤ程度では勝てないわ!」
焔が立ち上がり断言する。
「私はヤヤを信じる!」
『白牙』
較は右手を障壁に打ち込む。
障壁とぶつかり合い、均衡を保つ。
「無駄だ! バハムートの力はまだ上がるぞ!」
ローデアの言葉に、較は答えない。
しかし、較の顔から生気が抜けていくに反比例して較の右手に宿る白い光は倍増していく。
「馬鹿な、お前の力は使い果たした筈! どこからそんな力を?」
白い光は障壁を粉砕した。
驚愕するローデア。
較の右腕から白い光は消えない。
「お前何をした?」
ローデアが驚愕と共に呟く中、較は無言で歩み寄る。
そして直ぐ側まで来た所で絞りだすように較が言う。
「これがあちきの最後の一撃だよ」
白く光る右手を突き上げる。
その一撃は、ローデアを一瞬の内に消滅させた。
バハムートの再生が止まった瞬間、焔と西瓜は直感だけで、大きく両側に避けた。
「何?」
魔磨が困惑した瞬間、ファザードが魔磨に体当たりして、大きくその場を離れる。
その直後、白い光の柱が生まれた。
光を間接的に受けているだけで、魔磨は大きく力を削られて行く。
「なんなのこの桁違いな力は?」
そんな魔磨にファザードが言う。
「八刃には、とことん凄まじい力を見せ付けられましたが、これは規格外ですね」
思わず頷く魔磨。
そして、ファザードが言う。
「ローデア様の気配が消えました。今回の作戦は失敗です」
その一言に魔磨は悔しそうに頷く。
そして、焔達の方を向いて言う。
「覚えておきなさい、我々オーフェンは必ず貴方達を滅ぼし、異界との門を開く。絶対に!」
そして消えていく魔磨とファザードであった。
勝利した筈の焔であったが、その表情には絶望があった。
「私はまたやってしまったのか?」
その言葉に西瓜が言う。
「八刃の宿命だ、諦めろ」
現れた時と同じ様に去っていく西瓜。
良美は強い光を受けて目を覚ます。
「うーんもう朝?」
そして光の元を見つけて良美が驚く。
「ヤヤどうしたの!」
良美の視線の先には、右腕を激しく光らせる較が居た。
そしてその光は確実に領域を広げていた。
較は笑顔で答える。
「ごめんヨシ、あちきはもう駄目みたい」
その言葉に良美が較の前に行き言う。
「駄目って、あっちこっちに怪我あるけど動けるじゃない、大丈夫だよ!」
較は静かに首を横に振る。
「白風の終奥義、白牙は自分の体に八百刃獣、白牙の力を宿らせる技。神の使徒たる白牙の力は容易に使用者を侵食する。白牙の使用限界ってその侵食に耐える力の限界なんだよ。あちきは、限界以上に白牙の力を使ったから、侵食が始まったの。こうなったら後は、白牙の力に取り込まれるだけ」
良美が怒鳴る。
「そんな弱気でどうするの! そんなの押し返してやんな!」
較が苦笑する。
「無理だよ、八百刃獣最強とも言われる白牙の力を押し返すなんて、人間には無理なんだから」
「あたしはそんな事実認めない!」
良美は否定する。
その時、較の腕の光に負けない強い光が発生し、一人の少女が現れた。
較は直感でそれが何なのか理解した。
「初めてお会いします、聖獣戦神八百刃様」
その言葉にその少女が頷く。
『初めまして。白風の血を引く者、較。あちきは、貴女がその力に飲み込まれた後始末をする為に来ました。最後に言葉を伝えたい人が居たら言って。あちきの力で届けるから』
その言葉に較が頷いて何か言おうとした時、良美が較の前に立ち言った。
「あんたが偉い神様か何だか知らないけど、ヤヤは連れて行かせない!」
その言葉に較が驚く。
しかし、八百刃は穏やかな声で諭す。
『彼女はもう長く自我が保てません。もう少しすれば、白牙の力に宿る、あちきの使徒、八百刃獣、白牙にその意識を飲み込まれます。もう白風較という人間は居なくなるの』
「あたしは認めない! ヤヤはずっとヤヤなんだから!」
怒鳴る良美を慌てて制止する較。
「八百刃様は高位の神様。逆らうだけ無駄だよ!」
良美が振り返り較を見て、八百刃を指さしながら言う。
「あいつがどんなに偉い神様だか知らない。あたしにとって大切なのはヤヤがあたしの親友で絶対失いたくないって事実だけ!」
較が何も言えなくなった時、良美は較の白く輝く右腕に噛み付く。
較も反応できない内に、良美は較の腕の肉を噛み千切って飲み込む。
慌てる較。
「馬鹿何やってるの! 直ぐ吐き出して、そうしないとヨシまで白牙の力に侵食されちゃうよ!」
良美は体の中から流れる力に激痛を覚え、座り込みながらも較を見て言う。
「あたしを助けたかったら、ヤヤがその腕の力を押し返せば良いんだよ。さーやれ!」
自分勝手な言い草である。
それでも較は残った最後の力を振り絞って、自分を侵食しようとする白牙の力に抗う。
その様子を見ていた八百刃が動き、較の右腕を触れる。
『貴女の親友に気持ちの分のフォローよ』
そして光が消えて元の較の腕に戻る。
疲れ果てて動けない較と、激痛から意識を失った良美を身ながら八百刃が言う。
『今は落ち着いています。でも一度出来てしまった力の流れを止める事はあちきにも出来ない。貴女に出来る事はその力に抗い続ける事だけ。何時別の存在に侵食されるか解らない恐怖は、貴女を生涯苦しめるよ。それでも貴女は在り続ける?』
八百刃の言葉に較ははっきり頷く。
「辛くて、挫けそうになるかも知れないけど、挫けたらこの我侭な親友を巻き添えにしちゃいますから、絶対に挫けません」
八百刃は微笑み言う。
『解った貴女を信じるよ』
そして消えていく中、八百刃は笑顔で言う。
『偶に様子を見に行くから、その時に一緒にご飯でも食べよう』
「はい、八百刃様」
較はそう返事をした後、意識を失った。




