密林と撃術
人工ジャングルでヤヤの撃術が敵に放たれる
臨海副都心に建設途中のジャングルを再現したテーマパーク
「流石にA級相手は大変だわ」
右の二の腕にかすめた銃弾の痕を消毒しながら較が呟いた。
次の瞬間、較が背中を預けて居た木の幹にナイフの痕が出来る。
極端に姿勢を低くした較はそのまま、木の幹に掌打を放つ。
木の反対側から較を狙っていた軍服の男が吹っ飛ぶ。
「後五人」
大きく息を吐く。
「つまりそのテーマパークに来いって事?」
『そうだ』
そしてあっさり電話が切れる。
「交渉とかないのかねー」
携帯電話を切る較。
「ヤヤ、明日何か用事ある?」
良美の言葉が声を掛けて来る。
「今さっき出来た所だよ」
「そーじゃあ良太でも連れてくか」
そして大山の所に向かう。
較は、手に持った闘士の老人のカードを見る。
「通常と異なる戦闘方法をとるA級闘士の中で銃器を使う珍しいタイプ。まー使うといっても本人でなく、元部下のグリーンベレーの人達だけど」
カードを弄びながら続ける。
「お父さんが言ってたっけ、バトルは死を見世物にする邪道なショーだって。でも同時に身体能力や年齢に左右されない本当の強さを測れる物ともいってたよね。そして金と同等に強い力とコネを使う奴は強敵だっていってたなー」
カードの老人を見つめる。
「グリーンベレーとしてベトナム戦争を潜り抜け、その後教官として長く実線部隊に関わり、今は闘士として、元部下達を使って不可思議な力を持つ闘士する打ち破る、現代戦争を体現した人」
カードをポケットにしまい立ち上がる。
「間違いなく強敵」
「また一人倒されました」
「だが、相手の手の内は読めた。最強を誇る鬼神が操る撃術も所詮は化学現象を拡大化したものでしかない。何も無い空中から槍を生み出したりしない。要因さえ掴めば対処可能だ」
十分常識離れの事を言っているが、部下達は体験しているのだ、何も無い空中から槍を落とす様な敵との対戦を。
「必要以上に間合いを詰めるな、相手の動きを見よ、こちらの間合いで攻撃すれば必ず勝てる」
老人の指示に散らばるグリーンベレー達。
「軍人こそ最強の力だという事を示す。その為には最強の名を持つ鬼神を倒す。今回はその前哨戦」
強い意志を込めたその瞳は、70を越す老人には到底思えなかった。
銃弾が服に穴を開けていく。
腹や顔に間違いなく銃弾は当たっている。
しかし較は止まらない。
一気に間合いを詰めて男の腹に手を当てる。
『インドラ!』
次の瞬間男は感電し倒れる。
『インドラ』大気中の静電気と体内電気を自分の意思の力で増幅して相手に食らわす。まさに魔法の様な技。
次の瞬間銃弾が較の脇腹を通り抜ける。
力を振り絞り、その場を離れる較。
「お父さんみたいに二つの技を同時に使えないと多人数戦はきついわ」
較はまともに銃弾を食らっていた訳では無い、『アテナ』と呼んでいる皮膚を意思の力で硬化させる技を使って受け止めていた。
「見ろ、攻撃の直後なら普通の銃弾も有効だ!」
老人の言葉が戦場に響く。
「普通の銃を使う相手なら、銃弾が利かない時点で動揺してくれるのになー」
溜息を吐く較だが、嫌な予感を覚え、横に飛び退く。
激しい爆発が較の体を大きく吹き飛ばす。
「都会でロケットランチャー何てつかう?」
何とか受身を取った較はそう呟きながらも、次のターゲットに向かって動き出す。
「相手はどんなに強くても小娘だ、体力は間違いなく無い。確実に傷を負わせて行け!」
老人の指示に男達は頷き、実行していく。
残り四人に成ったと言え、較の方も確実に動きが悪くなっている。
老人の勝利はほぼ確実とさえ思えた。
その予測は次の瞬間脆くも消えた。
男達が皆倒れたのだ。
そして老人も又膝を着く。
「ラフレシアって言うんだよこの技は」
較が老人の前に現れる。
「麻痺薬を含んだ空気を周囲に撒く事で、相手の動きを牽制するの」
老人が地面を叩く。
「抜かった、相手が素手の戦闘を得意とするのに気を取られ、対生物兵器対策を施さなかった私のミスだ」
ゆっくり近づく較に老人が言う。
「だが覚えておけ、軍人は負けない! 貴様らみたいな素人が幾ら実線でも戦えると言った所で、実際実線に立つ軍人こそが最強なのだ!」
較の手刀が老人を気絶させる。
「しんどかった」
その場にへたり込む較。
「ふーんそれで、そのお試しイベントに参加してたんだ」
良美の言葉に机にへばりながらも頷く較。
「まー体力が無いあんたが、そんなアウトドア向きのイベントに参加したらダウンするわなー」
爆笑する良美。
「みろみろ、アメリカ軍のお偉いさんが日本で自殺したんだってよ」
「へーなんでだろーな」
そんな男子の会話を聞きながら較は深い眠りに落ちていった。