小較の冒険
誘拐に巻き込まれる小較、そして誘拐犯の目的の少女は、
人気の無いビルの中
小較は困っていた。
何故か誘拐されていたからだ。
「どうしてあたし誘拐されているんだろう?」
首を傾げる小較の横には同じ年頃の綺麗な服を着た少女が気を失っていた。
「ここで騒ぎを起こしたらヤヤお姉ちゃんに迷惑かかるのかなー?」
あまり緊張感が無い小較であった。
「はいお年玉」
較が小較にお年玉を渡す。
「ありがとうヤヤお姉ちゃん」
嬉しそうな顔をして、お年玉袋を開ける小較。
そこには百円玉が十枚入っている。
「わー、これでいっぱい駄菓子買える」
嬉しそうに言う小較。
「小学一年生に千円ってやりすぎじゃないか?」
突っ込む良美。
「なんで良美が居るの?」
較と二人でお雑煮を食べた小較が疑問をぶつける。
「別にいいだろう」
「親戚がいっぱい来て、家に居場所が無くなったんでしょ」
較が真実を言い当てると驚いた顔をして良美が聞き返す。
「何でしってるんだ?」
「去年も全く同じパターンで家に来たでしょうが」
較がそっけなく良美にいってから小較の方を向く。
「それじゃあ遊んできて良いよ」
「はーい」
小較は元気よく答えて外に遊びに行く。
馴染みの駄菓子屋に入る小較。
「おばあちゃん、黒棒下さい」
「小較ちゃんお年玉貰ったのかい?」
駄菓子屋のおばあちゃんが、人の良い顔で聞いてくるので、強く頷く小較。
「これは私からのお年玉だよ」
言って大きな飴玉を渡す。
「ありがとう」
笑顔度があがる小較。
その時、駄菓子屋の前に高級車が止まり、中から高そうな服を着た、小較と同じ年位の少女が降りてくる。
「ここが駄菓子屋ね。思った通りのみすぼらしい店ね」
その言葉に小較が少しむっとする。
「まー、良いわ店主の人は誰?」
その問いに対しておばあさんが笑顔で応対する。
「私だけどお嬢ちゃんはどんな物が欲しいんだい?」
「えーと、ほら、テレビで出てくる棒でぐるぐるする奴が欲しいの」
いい加減な説明をする少女だったが、駄菓子屋初心者の扱いにも慣れているおばあさんはあっさりと、水飴を用意して手渡す。
「はい。良く練ってから食べるんだよ」
受け取ると、必死に練り始める少女を笑顔で見つめるおばあさん。
暫くした後、白くなった水飴を食べて少女が言う。
「うーん普通の飴とは少し違うのね」
そういって食べ終えた後、少女はなんとクレジットカードを出してきた。
「これでお願い」
流石に目が点になるおばあさん。
「すまないね。うちはそーゆー近代的なものは扱ってないんだよ」
「嘘! あたしは、現金持ち歩かない主義なのよ!」
逆に文句を言う少女。
横で見ていた小較が何か言おうとした時、おばあさんは笑顔で言う。
「じゃあ次に来た時に払っておくれ」
その言葉に小較が驚く。
「おばあちゃんこの人又来るかどうか解らないよ!」
それに対して笑顔でおばあさんが言う。
「そうだね。でも長い人生また来てくれるかも知れない。その時、払ってくれれば良いんだよ」
あまりにも人の良さにまだ人生経験の少ない小較も心配になった。
そして肝心の少女は、偉そうに言う。
「クレジットカードが使えないんじゃしょうがないわねー。次まで借りといてあげる」
そして出て行く少女の後を追う小較。
二人が外に出たとき、数人の男によって少女が捕まり、小較も薬を嗅がされて眠ってしまう。
小較が目覚めたときにはもう古いビルの中に居た。
子供相手に油断しているのか、手足は縛られていない。
「一人で抜け出そうと思えば可能だね」
途中誘拐犯に会っても負けない自信が小較にはあった。
しかし問題もひとつあった。
「この子ほっといていいのかなー」
いまだ気絶している少女を見る。
「たぶんこの子が目的だから殺される事はないか」
そう言って出ようとした時、足を掴まれる。
振り返ると、意識を失っていた筈の少女が小較を見ていた。
「一人で抜け出すなんて許さない」
「一緒に抜け出す?」
小較の言葉にその少女が頷く。
二人が、ビルを下に向かって行くと当然の如く、誘拐犯と遭遇した。
「ガキが逃げる……」
小較の蹴りが男の急所に命中して、意識を刈り取る。
「つまらないもの蹴ってしまった」
小較の言葉に何故か頷く誘拐された少女。
その後も何人かの男と出会うが、小較は比較的あっさり蹴散らす。
「あんた強いのね」
誘拐された少女の言葉に小較が頷く。
「お姉ちゃんに鍛えて貰ってるから」
「ふーん。ほら次ぎ来たよ」
誘拐された少女の言葉に答えるように、三人の男が現れる。
「良くもやってくれたな。少し強いみたいだが、鉄砲には敵うまい」
小較は動きを止めた。
正直鉄砲自体は怖くなかった。
小較は、較から鉄砲に対する対応の仕方を聞いていたから、避ける事自体は難しくないのだ。
小較にとって問題は後ろに居る少女だった。
「兄貴撃っちまってくれ、そいつは商品じゃないだろう」
後ろから股間を押さえた男がやってきて怒鳴る。
小較の前に立つ男が頷く。
「まー、金髪は高く人買いに売れるが、これ以上騒がれても面倒だからその癖の悪い足にお仕置きしてやるか」
銃声が響く。
小較が思わず目を閉じるが、銃弾が小較に当たることは無かった。
小較が目を開けると、空中に止まる銃弾が見えた。
「みたかこれが間結の防御結界術よ!」
小較の後ろに隠れていた少女が、前に出て胸を張る。
「この間結光様の力を思い知るが良いわ」
小較は少し考えてから言う。
「それだったら最初から前に出てたら良いのに」
その言葉に光の笑い声が止まる。
「もしかして実際止まるまで自信が無かったの?」
小較の言葉に慌てて振り返る光。
「そ……そんな訳ないじゃない」
顔中に流れる冷や汗が嘘だと物語っていた。
小較は取り敢えずそーいった事情を無視して言う。
「とにかく貴女の心配が要らない以上思いっきり行くよ!」
駆け出す小較。
「何かの間違いだ!」
拳銃の連発する男達だが、小較はあっさり避け、光に届く前に結界に弾かれる。
そして小較が誘拐犯たちを叩きのめすのに三分も要らなかった。
二人はそのまま古ビルを出る。
小較が較に持たされていたテレホンカードで、光の家に連絡して迎えに来てもらい、元の駄菓子屋の前に戻る小較。
「そー言えば貴女の名前聞いてなかったわね?」
去り際に言葉に小較が答える。
「白風小較」
そして二人は、別れた。
この二人が、遠くない未来、机を並べる事になるが、次の出会いは意外に早かった。
光がお金を払いに来た時に偶然会ったのはたんなる必然だろうか?




