呪いのビデオが運ぶ死の予兆
相手を確実に呪い殺す十三闘神相手にヤヤはどう戦うか?
工事現場
「これって偶然じゃないよね?」
良美の較の空く側に落ちた鉄骨を指差す。
「まーね。でも当たらなかったよ」
較は平然と答える。
そして後ろを振り返る良美。
その視線の先には、無数の事故の跡があった。
『ガルーダ!』
小較の手から風が発生して白風家の庭の木を揺らす。
「ヤヤ、素質の方はどうなの?」
隣で空手の型の練習する良美が言う。
「あるんじゃない頭も良いしね」
縁側でクリスマスパーティープレゼント用ぬいぐるみの型紙を作成する較。
「武術に頭なんて関係あるの?」
良美が意外そうに言うと較は良美を指差して言う。
「いまヨシがやってる型だって、考えに考えられた末に生まれてるんだよ。武術をやるんだったら頭を使わないとね」
その答えに良美は型を繰り返しながら言う。
「でもな、やっぱこーゆーのは本能的なものだろう」
「だから良美は弱いんだよ」
小較が練習をしながら言う。
「小較今なんて言った!」
良美は型の練習を止めて怒鳴る。
「弱いから弱いって言ったの」
言い返す小較。
にらみ合う二人。
「二人とも止めなさい」
そういって止めたのは、較が小さい頃お世話になった近くの剣術道場の娘、黒林一美だった。
「一美さん、わざわざすいません」
較が頭を下げる。
「いいのよ、それじゃあ学校に行きましょうか」
その言葉に小較が後退する。
「学校って、虐めがあるあの学校?」
「それは一部の例外で、普通は楽しいところよ」
必死の笑顔で言う一美に、更に後退する小較。
「でも外国人の子は苛められて先生に頼ると、そのまま小部屋につれこまれてエッチされるって聞いたよ。あたし絶対嫌」
一美は殺気がこもった笑顔になり、較と良美を見る。
「変な事を教えたのどっち?」
較は慌てて弁明する。
「あちき達じゃないよ。多分時たま検診に来る八子さんじゃないかな」
「……あの人」
納得する一美。
小較が新しい家族になっていろいろと手続き等が発生した時、較がヘルプを頼んだのは一美であり、今回も小較の入学の為の手続きをしてもらう為にきてもらったのだが、何度か足を運んでるときに小較の検診を行っている較の知り合い、八子と出会っていた。
「あの人も悪い人じゃないんだけどねー」
一美の言葉に頷く較。
そして怯える小較を必死に説得し、学校に連れて行く一美であった。
「えーと次の対戦相手のビデオがもう直ぐ届く筈です」
その時、チャイムが鳴ったので、較が行くと配達員のおじさんが居た。
「白風較さんですねお荷物です」
較がそれを受け取ると配達員のおじさんは、頭を下げて玄関を出て行く。
そして較は手には一本がビデオが残った。
較は居間に戻って言う。
「どうでもいいけど、うちビデオデッキ無いよ」
その一言に固まる姫子。
「どうしてですか?」
較は、無言で良美を指す。
「全て真さん対して反則する対戦相手が悪いの!」
姫子の頭の上に疑問符が浮かぶ。
「ヨシがさっき言っていた試合見ている時に、興奮してテレビに踵落しを食らわせて、その下に格納されていたビデオごと破壊したの。その時にDVDデッキに変えたの」
その言葉に姫子が困った顔になる。
「あのー見て頂かないと困るんですがー」
それを聞いて較は笑顔で言う。
「だったら急いで買ってきて」
そう言ってお財布から十万円を出す。
「一人で行くんですか?」
その言葉に較が頷く。
「あと、テレビの配線弄る気ないからテレビもね。足らなくなったら出しといて、帰ってきたら払うから」
おずおずと姫子が言う。
「あのー配達してもらっていいですか?」
較は笑顔で答える。
「姫子さんが困らないんだったら良いですよ」
姫子は涙を流す。
「買ってきました」
ゼーゼーしながら、姫子がテレビとビデオを運び込む。
「情けないなー」
良美の言葉に姫子が答える。
「無茶言わないで下さい、凄く重いんですよ」
その二つを良美があっさり持ち上げる。
「ほら行くよ」
目が点になる姫子に較が一言。
「ヨシって空手の全国大会レベルの選手だよ、下手な男子より力あるよ」
そして姫子が苦労しながら用意を終えた時、較が言う。
「大切な事だから先に確認するけど、このビデオ最初から最後までずっと見たかしっかり監視しろって言われた?」
その言葉にあっさり頷く姫子。
「そうですがそれがどうかしたんですか?」
「それじゃあ、姫子には良美と一緒に昼食を作って貰うよ」
較の言葉に姫子が驚く。
「どうしてですか?」
「あちきが、ビデオを見るからに決まってるじゃん」
較が極々当然の事の様に言う。
「でも、監視する義務が……」
渋る姫子に、較が拳を固めて言う。
「しっかり見るっていうあちきの言葉が信じられないの?」
「信じます」
そして良美を連れて台所に向かう。
「料理嫌い!」
良美の言葉を無視して較はビデオを見始めた。
較がビデオを見終わり、三人で昼ご飯を食べ始める。
「で何が映っていた?」
良美の言葉に較は平然と言う。
「たんなる挑発だよ。意味あったのは、相手が十三闘神の一人、呪神、サーダって解ったこと位かな」
そういいながら較が机の上に置いておいたメモ用紙に書き始めた。
『盗聴されてるので、これからは筆談するから、変な事喋らないでね。一応隠しカメラからも隠れる位置だけど、必要以上にメモ用紙を見ないで』
良美が頷く。
『あのビデオには、呪いが掛かっていたよ』
その言葉に驚き叫びそうになる良美の口を塞ぐ較。
「食事中に大声出さない」
そんな注意で誤魔化す。
『あのビデオには、危機に対する対応を司る脳の動きを鈍らせる特殊な絵が混ざっていたよ。意識して見てた、あちきだから平気だけど、良美や姫子さんが見ていたら、事故の原因になっていたよ』
その言葉に姫子が驚く。
『忠告しておくよ、組織にとって姫子さんは捨て駒だよ。十三闘神相手に交渉するミラーはともかくとして、基本的に交渉が楽なあちきのエージェントは死んでも良いエージェントが選ばれている。今回もあちきにビデオを見たのを最後まで確認させるなんて、危険な仕事をさせているんだから間違いないよ』
較の説明に顔を青くする姫子。
「ヤヤって姫子の事嫌いじゃないの?」
良美の言葉に姫子は頷いてしまう。
「良美にあんなまねした組織の人間は嫌いだよ」
較はそう言ってから、筆談で続ける。
『でもね、知り合いに死んで欲しいと思うほどあちきは残酷じゃないよ。早く組織を抜ける事を勧めるよ』
何とも言えない表情になる姫子だった。
姫子は、白風家を出て、組織に報告した後、自宅に戻ってベットに横になる。
「ヤヤちゃんはあたしを助けてくれた……」
姫子にとって較は脅威の対象でしかなかった。
姫子が担当する前まで全てのエージェントを病院送りしている。
理由は単純つまらないバトルをさせたからだった。
姫子ももう少しで同じ目にあう所であったが、そこに入ってきたのが良美だった。
「あたしが病院送りに成らなかったのは良美ちゃんのお蔭、そしてあたしが所属している組織がその良美ちゃんを毒を打ち込んだ。今、組織は中和剤を手に入れようとしているヤヤちゃんの邪魔をしている」
顔を上げる姫子。
「ヤヤちゃんがあたしを嫌うのは当然なんだ、あたしは遠まわしだけど良美ちゃんを殺す手助けをしているんだから。だけど、ヤヤちゃんはあたしを助けてくれた」
そして鏡を見る姫子。
「あたし、何で組織に所属しているんだろう」
姫子は、過去を思い出す。
姫子の両親は事故で死亡した為、孤児院で育った。
これと言った特技を持たなかった姫子が割の良い仕事を探していた時に見つけたのが今のエージェントとしての仕事だった。
守秘義務を守る引き換えに通常より格段高い給料を貰っていた。
しかし、それは他人の死を見続けることで成り立つ物だった。
姫子は、毎週誰かの死ぬ所を見てきた。
較の担当になってからその割合はかなり減った。
そして姫子は今に至っていた。
「闘士同士が戦って死ぬのは本人同士が納得した上の事だから仕方ない事だと割り切ったつもりだった。でも、良美ちゃんは、バトルには関係ないそれなのに組織は殺そうとしてる。あたしは人殺しの手伝いをしているの?」
その答えは出ないまま時は過ぎていく。
ビデオを見てから較はひたすら事故にあっていた。
「ヤヤお姉ちゃん大丈夫?」
一緒に買い物に来ていた小較が心配そうな顔をする。
「大丈夫だから、もう少し離れていて、もしもの時もあちき一人だったらどうでも出来るから」
その言葉に少し躊躇しながら較の側から離れる小較。
「でも、事故が起こるって本当に呪い?」
その言葉に較が言う。
「呪いって魔法は存在しないよ」
その言葉に驚く良美。
「でも呪術ってあるじゃん」
「そーでも正確に言うと大半が、精霊魔法って呼ばれる擬似知識を持たせた魔法を使って、呪殺相手に死ぬ事故を発生させるものなの。だから単純に相手を殺すって念で相手が事故を起こすって訳じゃないの」
首を傾げる良美だが、小較があっさり答える。
「詰まり、相手を殺す具体的な指示があって初めて効果があるんだよね?」
「その通りだよ、本当小較って頭良いね」
較に誉められて笑顔になる小較。
「そりゃー良美とは違うもん」
その言葉に良美が小較に殴りかかる。
「くそがき!」
「当たらないよ!」
二人が追いかけっこをはじめる。
暫くして、諦めて戻ってきた良美に較が説明を続ける。
「だから別段精霊魔法じゃなくても良いの。簡単に言えば、念動力を持ってる人間がさっきみたいに、工事現場であちきが通る直前に鉄骨が落ちる様にすればまるで呪いみたいに見えるんだよ」
較の説明に良美が言う。
「それで、今回はどっちなの?」
それに対して、困った顔をして較が言う。
「前者の場合、呪詛返が古流にあるから一発なんだけど、今回は後者だから面倒だよ。長期戦は嫌なのになー」
家に戻った較達。
「それでその呪神って見つかりそう?」
良美の言葉に較が首を横に振る。
「精霊使ってない以上近くに潜んでそうなんだけど、幾ら調べてもこの周囲の建物に呪神が居る様子ないし、当然このビデオが届いた前後にこの家の敷地内に入ったのは、知り合いだけ。調査範囲広げる必要があるかも」
その時、チャイムが鳴り、声が聞こえてくる。
「白猫運送です!」
すると小較が立ち上がり、
「あたしがとりに行く」
率先して玄関に行く。
「子供は悩みが無くて、良いな」
良美のその声が届いたのか小較が遠くから言い返す。
「あたしは、良美みたいに何もしない居候とは違いますからね!」
「何だと!」
そんな口喧嘩もいい加減なれて、日常風景になりつつあった。
「荷物が届くなんて、珍しいな」
良美の言葉に較が言う。
「クリスマスパーティー用にぬいぐるみ作ってくれって頼まれたの。それで大量に材料買ったから、配達して貰ったの」
「もう直ぐだな。その頃には全て終わってるから、小較も連れてってやろうな」
良美の言葉に頷く較。
そして小較が戻ってくる。
「ヤヤお姉ちゃん判子が必要なんだって、ある?」
その言葉に苦笑する較に馬鹿にする良美。
「荷物受け取るのに判子忘れるなんてお子様は駄目だね」
「何よ!」
二人の口喧嘩を背中に較が判子を取り出そうとした時、動きが止まった。
「しかし考えたものだね」
較は庭にある物置に向かって話しかけていた。
「あのビデオには二つの意味があったんだよね。一つは映像に因る事故死誘発。そしてあんたの侵入の正当化」
較に向かって大きな庭石が飛んでくるが、較はあっさり砕く。
「入ってくる人物のチェックしていたけど、出て行く人間の数のチェックをしていなかったのが失敗だったわ」
包丁等、台所用品が較に迫るが、
『ガルーダ!』
小較が放つ風が打ち落とす。
較は物置のドアに両手を当てる。
『タイタンシェイク』
物凄い振動が物置を襲う。
そして扉を開くとそこから、配達員の格好をした呪神、サーダが出てきた。
較は脳が揺さぶられて動けないサーダの服から中和剤を奪った。
こうして較は十個目の中和剤候補を手に入れる事に成功した。
残る中和剤候補は二個。




